第八話 友との決別
人間と魔物は敵対するもの。
そこに友情が芽生えることも無ければ、愛情が生まれることもない。
数多の衝突を繰り返すが、いずれも人間の勝利に終わった。
当然だ。人間には女神さまがついている。
女神さまを信仰する人間がいる。
「ラッカ!ようやく神殿へ面会が通ったと思ったら、君は何を考えてるんだ!オラとメアリを守ると誓った君が、メアリのいた森を焼き払うなんて!!」
「ウィンディ、王女様との結婚、おめでとうございます」
「別に望んでない!アイツラはオラのことを勇者にして、メアリの記録を消そうとしてるんだ!」
それは当然だろう。
メアリは魔物だ。魔物だと判明した以上、いつまでも栄誉ある勇者の立ち位置に居させるわけには行かない。
まあ、メアリに洗脳されているウィンディに言っても仕方の無いことだが。
「あの森については住んでいた人間は避難させています。あの森は近隣の被害が少なくて公にはなっていなかっただけで、魔物が多く住んでいました。当然の判断です」
「それは違うよ。メアリみたいにいい魔物で、争いごとを起こしたくなかったのかもしれないじゃないか」
違う。メアリは洗脳を使えた。なら、そいつらも使って人殺しを隠滅してる可能性が十分にある。
「もう既に済んだことです。その話をするために来たのなら即刻お帰りください」
「なっ!どうしちゃったんだ、君は!オラをかばって異端審問に掛けられたのは知ってたけど、何をされたの!!それにその目…」
「目?加護のことですか?」
加護を与えられると目に金色の輝線が入る。
神官長にもフレリア先生にもあるが、俺は元の目の色彩も合って少し分かりづらいのに、よく気づいたものだ。
「愚かな俺に罪の清算の機会を女神様がくれたのです」
「女神様って、…君はそんなに信仰してなかったじゃん。メアリにも仮にも神官がそんなに信仰度低くていいのかって言われてて」
それは俺の記憶にもある出来事だが、本当の記憶なのかも今は分からない。メアリは洗脳が得意みたいだしな。
「昔の俺は愚かでしたから」
「なあ、ホントにラッカ、おかしいよ。一緒に神殿を出よう」
ウィンディが俺に手を伸ばしてくれる。メアリとの記憶は偽りでもウィンディとの友情に嘘はなかった。思い出が多少歪になったとしても。
「いいえ、俺は神殿から出られませんから」
そう、女神さまが当分は出られなくしてくれた。
俺が傷つかなくていいように、らしい。
そこまで子どもではないので過保護にしなくてもいいと思うのだが、女神さまの思いやりなので気恥ずかしいが享受するしかない。
「出られないってどうして…」
「俺は心の拠り所を見つけました。だからウィンディ、お前にも支えてくれる新しい誰かが現れることを祈ってます」
「ラッカ…それでいいのか」
ウィンディは悲しげな表情を浮かべたものの、次の瞬間には眉毛をへの字にしてきりっとした騎士然とした表情になっていた。
「メアリの残したものすら傷つける側に君が回ったと言うならば、オラと君の友情はこれまでになる。それでもいいんだね?」
「ええ、俺はいつまでも神殿とともに。けれど、ここで途切れたて貴方との友情は確かに俺のなかにあります」
「うん、それはオラもだよ。だから、さよなら」
ああ、さよならだ。
立ち去っていくウィンディ。やつがここに来ることも俺と語らうことももう無いだろう。
メアリはウィンディの中でキレイな思い出になる。
「ふふ、寂しいですカ?」
ずっと見守ってくれていたフレリア先生が俺の隣にくる。
「はい、とても」
寂しくないわけがない。もう二度とウィンディと語らうことができないのだ。しかし、道を違えてしまったのだから仕方ない。
だけど。
「なら、寂しさが埋まるほど貴方を支配しなければなりませんね。寂しさにかまけて貴方が間違えないように」
俺にはフレリア先生がいる。女神さまがいる。
「はい、どうか俺を使ってください」
どこかで女神さまが楽しそうに笑う声がする。
ハッピーエンドと嘯く声に俺は安らかに耳を傾けた。




