アンハッピーエンドの欠片
初めは美味しそうだと思った。
食べられそうになってるのにも気づかず、私を治療しようと駆け寄ってくるバカな獲物。
けれど、もう一人の子は危機感があった。そんなに気が強くも見えないのに、友達を庇い、私から逃げ出した。
わあ、あんなに勇ましく友達を庇ったくせにお漏らししてるわ。
ここの土地を汚さないでほしい。
でも、そのぐらい守りたかったよね。
羨ましいわぁ。
私はあの子達が羨ましくなった。だからそのへんを歩いていた女を洗脳し、自分の娘だと思い込ませた。魔物との混血って設定にして触手が出ても一々洗脳し直さないでいいようにした。
女はしばらくすると私を勝手にメアリと言い出した。名前を考えるのも面倒なので好きに呼ばせてやった。
討伐隊が来ないように死にかけをちょくちょく街から拝借した。女、母親は食事してるだけなのに嘔吐してくるから勘弁してほしいわ。
目的の2人に会うやいなや、積極的に声をかけたけど、二人は初めての同年代の女の子に緊張して中々話は進まなかった。
このままじゃ2人みたいな関係になれない。
だから私は幼馴染だという洗脳を施した。
2人が持つお互いの記憶を、相方が私だったことにして処理する。二人の間が少し遠くなった気がするけど、彼ら、ウィンディとラッカは私と仲良くなってくれたわ。
2人といれば、楽しかった。人間を食べることも我慢できた。心地よかった。でも、まだ足りない。
もっと、私を好きになって。
もっと、私を守りたいと思って。
洗脳で好意を寄せるように仕向けた。
まだ足りない。
それは私が人間じゃないからだろうか。
人間らしいとはなんだ。
ーーーー魔王討伐
そうだ。これなら私を守らせることができる。私も人間らしい行いになる。
私は子供らしく勇者になりたいと口にした。2人にも付いてきて貰えるように洗脳した。その結果、何年か二人は学校に通い、別々になってしまったが、その間は人間を捕食し、バレないように色々して事なきを得ていた。
魔王討伐の道は過酷だったけど、二人は必死になって私を守ってくれた。私も二人を守った。これが求めていたもの…?なにかが足りない。
魔王討伐において唯一の懸念は私が魔王の眷属で、魔王を倒したら弱体化することくらいだった。でも、欲しいものを手にするためだったら王すら殺めてもよいでしょう?
とどめを刺す時の魔王の表情は実に傑作だった。
私が眷属だって事、死ぬ間際にようやく気付くんだもの。のろいこと、のろいこと。
ああ、でも私も弱体化することになって、人間の姿を保ってなくなっちゃった。それで王国に追われ、今までの味方と敵対しても、何のチカラもなくなってしまった私を二人は助けてくれたわ。
力の供給源の魔王は死に、もう一つの供給源である森からも離れすぎて、どうせ人間を食べるチカラも残ってないから私は長くないのに。
無駄なのに、終わりのないと思っている戦いに身を投じるバカな子たち。私は弱体化しているのに、初めて満たされている。
恐らく私は死んでしまう。寿命より早く。
ねえ、ウィンディ。ラッカ。王国に歯向かった貴方たちも恐らく続いてくれるでしょう?
ウィンディと両片思いを演じてみたけど、結局恋なんて分からなかった。
ラッカには両片思いがバレるように仕向けたけど、嫉妬じゃなくて私とウィンディを応援してくれた。
人間でよく分からないけど、私たちいいパーティだったと思うの。
地獄があるならば、また一緒に冒険しようね。
メアリより
「本当にバカな子。なんで直接渡さなかったのかしら。わざわざ私の所まで手紙を届けさせて」
メアリの母は目を細め、息を吐く。
彼らの間に本当に友情があったのかどうか、それは洗脳で握り潰されて誰にも分からない。
メアリの使い魔に渡された2通の手紙。
ウィンディはこの街に帰ってくることはなかったし、ラッカは受け取ることはなかった。
「メアリは本当の自分を知ってほしいけど、知られたくなかったのかもね、使い魔さん」
友情を壊したくないと思わなければ、2人に直接手紙を渡していたはず。
あえて、メアリの母に渡して、メアリの死後しかこの手紙を入手できないようにしたのは、そういうことなのだろう。
本来の持ち主に渡ることのなかった手紙。
渡っていた所で何が変わるかといえば、メアリへの信頼度だけだと思うが。
「結局、魔物と人の友情の結末なんて破綻しかないのかしら」
メアリの母ですら、強制的に母にされ、メアリを愛していたかなんて分からない。
けれど、メアリの母は2つの手紙をしまいこみ、待っている。真実が日の目を見る日が来なくても。
いつか。きっと。




