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墜落の神官  作者: ユナ
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第五話 恋


聖堂にはいつも神官長がいる。

女神に祈りを捧げる姿は神々しさまで感じる。

神官長は俺に気づいたらしいが、祈りが終わるまでこちらを向かなかった。


「フレリア神官、ラッカ神官、また会ったね」


「神官長はここがお好きですネ。もはや祈りの時しか貴方を見ていませんシ」


「ここ、というより女神様が好きだからね。

ああ、それとこの前は災難だったね、ラッカ神官」


災難とはフレリア先生に痛めつけられたやつのことだろうか、と思ったが、すぐにステラのことだと気づく。


「ええ、大変でした。

あのパーティはステラに操られていたんですよね?

あの後、どうなったんですか?」


「解散になったらしいよ。だけど、ステラが罰せられるかは怪しいだろうね。命を取られたわけでもないし、ステラの出身は公爵家だからね」


うへ、まじかよ。


「公爵家ですか。そのような生まれでなぜ冒険者に…」


「祖母の影響じゃないかい?あそこは祖母が本当の愛を見つけて駆け落ちしたんだよ。あれがなきゃ、今ごろ公爵家が王家だったのに」


公爵家は王家の予備血統(第二血統)だから、王家が途絶えかけた時に白羽の矢が立ったんだっけ。

けれど、ステラの祖母は駆け落ちし、今の王家は第三血統になってるだっけ。


確かにステラは愛を求めていた。

祖母のようになりたかったのだろうが、やり方はどうしてあそこまでねじ曲がるのか。


「そういえば、君も勇者が好きだったんだっけ?」


「っ!!!それ、は」


「まあ君に玉砕覚悟で告白する勇気なんか無かっただろうけど」


そうだよ!でも、見守るだけで良かった。

2人が両片思いで、俺なんかが告白したら友情に亀裂が入るだけだ。


「そんな意気地なしの君にも女神様は微笑んでくれるらしいよ。女神様にお話してみるといい」


話すも何も声すら聞いたことないし、会話するための儀式とかあっても知らないが。

わざわざ人の傷をえぐるだけえぐって神官長は去っていく。 


「私たちも祈りを捧げましょウ」


「…はい」


フレリア先生は俺の手を引き、女神像の前に跪かせる。


「なぜ女神様への敬意を私が説くか覚えていますカ?」


「女神…さま、が人間を造ったからですか?」


「それもありまス。ですが、一番は私を救ってくれたからでス。貧しい家で、習っていないから不完全とはいえ治療術を使える私は大切な飯の種でしタ。狭いタンスに閉じ込められ、治療術を使うときだけ外に出されル。けれど、ある日、私の体は神殿の中にとばされていタ。女神様のおかげだって気づくのに時間は掛かりませんでしタ」


フレリア先生…。

フレリア先生にとって女神は命の恩人なのか。

そりゃあ目の前でないがしろにしたら怒るよな。


俺も、メアリを脅かされたら冷静でいられない。

あの日、俺を救ってくれたのはメアリなのだから。








俺の故郷は王都より遠く、メアリが魔物との混血だってバレてても迫害はなかった。魔物に対する忌避感とかはあったが、うちは魔物の被害も少ないし、メアリの母は人間だし、礼儀正しかったから気にしている人は少なかった。


「メアリ、あそこに人が倒れてる!」


俺は女の人が倒れているのを見つけて駆け寄る。

その人はなぜか足は正座で身体を倒していた。


全身が赤い布で覆われ、身体のラインが浮きでている。


「大丈夫?俺、神官目指してるんで治療出来るぞ?あれ、正座かと思ったけど足が…」


足が地面に張り付いていて膝から下が見えない。まるでそこに根を張っているみたいに完璧に沈んでいた。あるいは無いのかもしれない。


「ラッカ!離れて!!そいつは…」


目の前で女がぐるりと上体を起こし、その背から触手が生えてくる。

甘い香りがする。

甘い香りがする。


「足がない…いますぐ治療しないと」


そう、治療しないと。

メアリがなぜか焦ってる。

何故だろう。この人は怪我をしてるんだから治療することは当たり前なのに。


目の前で触手が口を開く。

ああ、ここも裂けている。治療…


「ラッカ!!!」


メアリが俺を突き飛ばし、一緒に地面にゴロゴロ転がる。


さっきまで俺のいた場所をあの触手は凄い勢いで突っ込んでいた。

俺、あのままだと死んでいた??


血の気が引く。


「め、メアリ、」


「逃げるよ、ラッカ」


勇者を目指すメアリなら戦いたいだろうに、俺みたいなお荷物がいるせいか、メアリは俺の手を引いて逃げる。

後ろでは触手の咆哮が聞こえる。


「ごめ、」


「大丈夫!私が必ずラッカを守る!!」


額に汗を湿らせ、得意げに笑うメアリが俺にはとても心強くて、俺自身がとても情けない。


俺がメアリを守れるぐらいになりたい。こんな無様な姿を見てほしくない。


恋と分からなくてもメアリに強い感情を抱き始めたのはきっとこの日からだ。

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