第四話 罰
「ありがとうございます、神官さま」
「いえ、今後は気をつけてくださいね」
メアリとウィンディ以外を治療するのはいくらぶりになるだろうか。
栗色の女の子は呪いを俺に移すと元気に起き上がった。
「私はパーティリーダーのステラ。恋に恋する女の子なの!」
「…はい??」
「瀕死のアタシ。それを助けたのはそれなりの顔の神官さま」
いや、この呪いはグリンがへなちょこと表するほどだから瀕死にはなってないが。
「これは恋に落ちるシチュエーション!でもアタシの理想は白馬の王子様だしな。金髪碧眼、人当たりもよく、地位も高い。そしてアタシに麗しの姫君って言ってくれて、たれ目な瞳で壁ドンしてくれて、口元は薄めがいいかも!」
「おーい、聞こえてますー?」
「神官さまは薔薇が似合わない顔だから運命の人じゃないわ!ごめんなさい!」
「いらないお世話に、いらない謝罪ですねー」
告白もしてないのに、顔をディスられた上でフラれる。なんだこれ。
「神官さま、だからアタシの世界にいないで」
「え?」
それは一瞬。ステラは腰の剣を引き抜き、俺に振りかざす。
俺は咄嗟に片手で体を庇い、剣と腕が触れ合った瞬間に漏れ出た血を使って結界を貼る。
「ステラさん?神聖なる場所に何を、!」
「神官さん、アタシが勝ったらアタシを愛して。でも弱い相手は相応しくないから皆みたいにペットになってねぇ!!」
ステラの目が光る。何かの契約魔法だろう。
神殿の中でおっぱじめる気か!?
「皆みたいに、とはどういう意味ですか?!」
「アタシに相応しくない人は候補から外さなきゃアタシの運命の人は見つからないでしょ!」
一撃が重い。普段なら容易く交わせる攻撃も連日の激務と寝不足で上手く交わせない。
グリンが戦闘に巻き込まれないように後退しつつ、ちゃっかり患者を盾にしている。
「ステラさん以外目を覚まさないのは、ステラさんに負けて契約で自我を取られたからじゃない?」
「患者を肉の盾にするなよ。加勢するぐらいの気概を見せろ」
「無理!俺は戦えないもん」
「護身術ぐらい学校で習っただろ?!」
「サボってた!!」
こいつ。他の神官が呪いを吸って動けなくなってるから、呪い狂いのグリン以外動けないのに、なぜそのポテンシャルを活かさない。
「なんでアタシ以外と話してるの!!」
ヤンデレか、お前は!!
感情によって剣の重さが変わるから洒落に成らないんだよ。
標的を変えさせよう。
「グリン、契約も呪いの亜種だろ。彼女の思いを受け止めて来いよ」
「呪いのほうが憎悪ポイント高くて芸術性あるんだ!しかも呪いは動物とかを犠牲にしなきゃ完成しない。悍ま美しいのは呪いだ!」
「はあ?愛による契約こそが至上に決まってるでしょ。それに人間を盾にする人は王子様にふさわしくない!」
どこで張り合ってんだ。
だが、ステラの注意を引いたのはナイス判断だ!
俺はステラの背後に回り、神力を込めて手刀を打つ。
ドサッと音を立てて倒れるステラ。
「支えてやればいいのに。恋が始まるかもよ?」
「勘弁してくれ」
目がぐるりと回る。ステラから自分に移した呪いは強いものではないが、動きすぎて体中に回ってしまったらしい。
早く解呪しなければ。
しかし、疲労からか指が上手く動かせない。
「おい、どうした?ラッカ。
とっととこのやばい奴をつまみ出すぞ」
グリンの声に応えるために足に力を入れるが、上体が傾く。地面に激突することを覚悟したが、衝撃は訪れなかった。
「ラッカ、迎えに来ましたヨ」
「フレリア先生…」
「勝手に抜け出しましたネ?罰を与えなくてハ」
護衛は抜け出しても何も言わなかったんですけど。
とは思うものの抗う力がない。
「【転移】」
フレリア先生が術を唱える。浮遊感が俺を包み込み、次に目を開けると自分の部屋もとい仕事部屋にいた。
フレリア先生は細腕で俺を作業台の上に乗せる。部屋にはあの護衛がいた。
「フレリア先生?これは…」
「【増幅】」
呪いが全身をギリギリ引き締める。首に、腕に、腹に、足に、心臓に。
「ぐああああっ!!!」
俺は潰れたカエルみたいに情けない悲鳴を上げるものの、フレリア先生は眉一つ動かさなかった。
「学生時代の貴方に間違いはダメだと教えることはできなかっタ。しかし、今はこんなやり方が許されているのでス。間違いはダメだと貴方の身体に直接教え込むことガ」
「あ、ぐぅ、は、あ"、」
首が締まって息が苦しい。心臓が縛られて痛い。肺は空気を取り込もうとするが、締め上げられていて、虚しく浅い息を吐く。
「ねえ、何がダメだったか、わかりますカ?」
苦しい。苦しい。苦しい。
「あ、が、助け、」
「貴方を今度こそ教師として導きたいんでス」
解呪しなくちゃいけないのに、魔力が練れない。呪いが進行しすぎたのだ。
ほかの人に解呪してもらうしかない。
護衛は俺が苦しんでいるのに、ピクリとも動かない。
先生、先生、
「何がダメだったと思いまス?」
「先生の、許しも…無し、に部屋の外に…出たこと」
「そうでス。間違えたらどうしなければならないですカ?」
「申し訳、ありません。だか、らこれを、解いて、、」
「貴方は許しを求めている状態でス!自分のワガママを言ってはいけませン!」
先生が手を振りかざす。呪いを強める気だ。
まずい!もう耐えられない。
俺は思考もままならない頭で必死に言い募る。
「申し訳、ありませ、ん。お願い、もう自分、の判断で、行動し、ないから、」
「妥協点ですが、対策まで言えてるなら今日のところはいいでしょウ」
先生が今度こそ手を振りかざして呪を唱える。
「【解】」
呪いが弱まる。呪い自体だけでは居ないものの、腕や足を絞め上げる呪いは薄くなっていく。
「っは、は、あ、は、あ。
ありがとうございます、フレリア先生」
「ふふ。どういたしましテ」
フレリア先生は優しく俺を抱きしめる。
けれど、俺はこの人の一存でさっきの状態に戻る。
「フレリア先生、」
「何でス?」
「俺は何をすればいいですか?」
フレリア先生の笑顔が深くなる。正解の対応だったみたいだ。
「その呪い、数日ほっとけば、さっきの状態に逆戻りになるでしょうネ。解かないんですカ?」
「貴方の許可がありませんから」
「ふふ、それもそうですネ。では、このまま、事務作業に、…なんて。
流石に解いていいですヨ。初回でそんなにハードにしませんかラ」
十分、ハードでしたけど。
あれがハードじゃないとか、フレリア先生の思考はどうなっているのか。
そんなことを言えば、どうなるか。
せっかく解放されたのに、いらないことは言わないに限る。




