第十四話:忍び寄る悪意
第十三話と第十四話を一緒に投稿しました。
見習い侍女が側につくようになってから、数日が過ぎた。
もちろん、身の回りの世話は他の侍女たちも行ってくれている。だが、私専属として仕えるのは侍女長アデラと、見習い侍女であるラルカとヨアナの二人だけだ。
そして予想していた通り、侍女たちの私への嫌がらせが始まったのである。
私は、胸の高鳴りが止まらなかった。
最初に異変が起きたのは、部屋に飾られている植物だった。
どの鉢植えも妙に元気がなく、青々としていた葉は黒ずみ始め、咲き誇っていた花も少しずつ萎れている。
植物魔術師である私が見逃すはずもない。
不思議に思って窓際の花瓶へ近づき、中の水を覗き込む。
すると、本来なら澄み切っているはずの水は白く濁り、鼻を近づければ嫌な臭いがふわりと漂ってきた。
私は傍らに控えていた侍女たちへ静かに声をかけた。
「これ、お水が腐っているみたい……」
戸惑うように告げると、侍女たちは無言のまま花瓶を下げていった。
けれど、その翌日にはまた同じことが起きる。
さらにその直後からは、
――植物魔術師なのに植物を枯らしているらしい。
――実は魔力がないのではないか。
そんな噂まで流れ始めた。
(うふふ)
思わず口元が緩んでしまう。
ずいぶん分かりやすい展開になってきたじゃないか。
もちろん、それだけでは終わらなかった。
午後の、一人きりのお茶の時間。
今日は侍女長アデラには、あえて席を外してもらっている。
給仕を務めるのは、見習い侍女のラルカと、貴族出身の侍女が二人。
運ばれてきた紅茶を一口飲んだ瞬間、私は内心で首を傾げた。
……ぬるい。
しかも絶妙に美味しくない。
遠慮しているように、小さく声をかけてみる。
「あの……紅茶のお味が……」
ところが、その言葉など聞こえなかったと言わんばかりに、誰一人として紅茶を取り替えようとはしない。
代わりに運ばれてきたのは――。
「イリンカ様に相応しいお菓子をご用意いたしました」
そんな言葉とともに差し出された、明らかに時間が経って乾ききった焼き菓子だった。
私はしばらく無言で、そのお菓子を見つめる。すると背後から、小さな笑い声が聞こえてきた。
「あの間抜けなお顔」
「田舎者にはお似合いね」
くすくす、と忍ばせる気すらない嘲笑。まるで絵に描いたような陰湿ないじめだった。
私は精一杯、傷ついたような表情を作ってみせる。
すると侍女たちは、それが面白くてたまらないと言わんばかりに微笑むのだった。
――けれど。
私は心の中で、お祭り騒ぎであった。
(楽しい……っ!)
まるで前世で観ていた、昼ドラそのものじゃないか。
『愛と欺瞞の宮廷。いじめの行き着く先には――』
そんなタイトルだったら面白そうだな、なんて勝手に妄想してしまう。
もちろん、出されたお菓子には一切手を付けなかった。
そのあと、こっそり侍女長アデラに最高級のお菓子を用意してもらい、美味しい紅茶と一緒にいただく。
「ひと仕事した後の甘いものはサイコーね!」
爽快に叫ぶ。やっぱり、美味しいものは正義だ。
横に控えるアデラの呆れた視線は気のせいだと思うことにした。
*
嫌がらせは、ウラドと過ごす晩餐の席では決して起こらない。一応良くない事だとは理解しているらしい。
でも彼の耳にも私のおかしな噂が届いているのか、目に見えて苛々しているのがわかる。
むしろ、彼をなだめる方が大変になってきた。側近たちも苦労しているらしい。
宰相のクリスティアン様や将軍ラゴス様が、何か言いたげな顔をして私を見つめてくるが、頑張って無視をしている。目を合わせたら負けだと思う。
そうして静観していたのだが、最近ちょっと楽しめなくなってきた。
昨日は植木鉢の中に動物の死骸が混ざっていた。
クッションには針が刺さっていた。座る前に色々気をつけてはいるのだけれど、刺さったら痛そう。
今、目の前の紅茶に虫が入っている。
陰湿さが増してきたな……。
おかしなことに、侍女見習いのヨアナが担当の時に発覚するのだ。
彼女に罪を着せようとしているのかな……と思いながら後ろに控えるヨアナをチラッとみる。
彼女は私の視線にすぐに気が付き、ティーカップの虫を見て驚いた声をあげる。
「っ!?イリンカ様、申し訳ございません!すぐに新しい紅茶をご用意いたします」
慌てて新しい紅茶を入れてくれる。
……美味しい。
「ホッとするわ、あなたの紅茶」
私は心からの言葉を伝える。
だが彼女は申し訳なさそうな顔をしている、私のことを心から心配しているようだ。
この子は本当に裏がないようで安心して世話を任せられる、もちろん評価は星五で満点だ。
「まぁ、平民を依怙贔屓しているわ」
「しょうがないわよ、宰相閣下から平民の雇用を頼まれてるもの、良く思われたいのね」
侍女見習いラルカと貴族の侍女のコソコソ声が聞こえる……これは、聞こえるように言っているな。
見事なまでの選民意識と悪口だ、星二だな。評価がどんどん定まってゆく。
私のおかしな噂も勢いが増してきた。
私がウラドを回復させた褒美として、皇后の地位を望んだと言われているのだ。
それを拒めば、優秀な植物魔術医の私が彼を助けないと脅し、溺愛しろと命令され仕方なく従っていると。
その噂に全力で突っ込みたい。
あのウラドが脅しに屈する?
脅してくる相手を、力でねじ伏せてから、足で踏みつけて高笑いする姿が思い浮かぶんだけど。
本人が知ったらブチ切れると思う。
だが、真実に少しだけ嘘が混じっているこの噂は、とても巧妙に作られていて思わず感心した。
私が歩くだけで、周囲の視線と噂話を感じる今日この頃。
段々笑えなくなってきたな……。
仕方ない、ヨアナにも火の粉が飛びそうだし、そろそろ潮時かもしれない。
私はウラドに調査報告書を渡すことにした。




