第十三話:ソリナのお茶会
第十三話と第十四話を一緒に投稿しました。
侍女見習いのラルカは、自分が仕えることになったモッサリとした令嬢を、心の底から小馬鹿にしていた。
(やっぱり、ソリナ様こそ皇后に相応しいお方だわ)
あのお方こそ、この大帝国を導くに相応しい女性。
そう思うたびに、自身の光り輝く未来を思い浮かべてしまう。
ラルカの脳裏に、少し前に開かれたソリナとのお茶会の光景がよみがえった。
※
それは、ラルカが侍女見習いに任命されてすぐのことだった。
「二人きりでラルカを祝いたい」と、ソリナから茶会へ誘われたのである。
公爵邸の美しい中庭。
色とりどりの花々に囲まれた優雅なガゼボには、ラルカだけのために茶席が整えられていた。
(社交界の華と謳われるソリナ様と、二人きりでお茶会だなんて。皆に自慢しなくてはいけないわ)
胸を高鳴らせながら席に着くと、向かいに座るソリナが紅茶を一口含み、優しく微笑んだ。
「ラルカ、イリンカ様の侍女見習いに選ばれたそうね。本当におめでとう。お友達として、私もとても嬉しいわ」
その穏やかな笑みに、ラルカは思わず頬を緩める。
「ありがとうございます、ソリナ様。私が選ばれたのは当然だと思っております。ですが……平民と一緒に働かなければならないと言われまして」
隠そうともせず、不満を口にする。
「屈辱です」
「まぁ……それは残念なことね」
ソリナは痛ましげに眉を寄せると、そっとラルカの手を包み込んだ。
「あなたは教養もあり、礼儀も身につけた素晴らしい令嬢よ」
その優しい声音に、ラルカの胸は熱くなる。
ソリナは少し俯き、寂しそうに続けた。
「もし私が皇后になれたなら……あなたを側妃に推薦したかったの」
「えっ……!」
ラルカは思わず目を見開いた。
「わ、私を側妃に……ですか?」
「ええ」
ソリナは照れくさそうにはにかむ。
「皇后としてウラドお兄様を支えるために、有力貴族の後ろ盾や、頼れる側妃を迎える必要があるもの。あなたはとても優秀だから……」
意味ありげに微笑み、ラルカを見つめるソリナ。
「そんな、優秀だなんて……」
ソリナのその含みのある様子に、自分が期待されていると察したラルカは、有頂天になってしまう。
そんな彼女を見つめながら、ソリナは少し言いづらそうに視線を伏せた。
「これは外部の方はあまりご存じないお話なのだけれど……」
小さく息をつく。
「イリンカ様は以前、植物魔術医として伏せっていたお兄様を治療されたの」
「……!」
「どうやら、その褒美として皇后の座を望まれたみたいなの」
その言葉を聞き、ラルカは怒りのあまり勢いよく立ち上がってしまう。
「なんて厚かましい方なのですか!」
「お兄様も命を救っていただいた恩があるからと、彼女の望みを叶えて差し上げているようで……」
そう言って悲しげに目を伏せる。
「本当に、お労しいわ……」
その瞳には涙が浮かんでいた。
ラルカは拳を強く握り締める。
「ソリナ様! やはり皇后になられるべきなのは、ソリナ様です!」
そして強い決意を宿した瞳で言い切った。
「私にお任せください!」
ソリナは少しだけ目を丸くすると、嬉しそうに微笑んだ。
「まぁ、ラルカ……。励ましてくださるなんて、本当に優しいのね」
その慈愛に満ちた笑みは、まるで聖母のようだった。
やはり、この方こそ皇后陛下に相応しい。
私も側妃となって、一緒に陛下をお支えしたい。
……あのお美しい陛下の側妃に。
そう想像しただけで胸が高鳴り、頬が熱くなる。
夢見るように頬を染めるラルカを、ソリナは静かに見つめていた。
その瞳の奥に浮かぶ仄暗い色に、ラルカが気づくことはない。
*
茶会が終わり、ラルカが公爵邸を後にしたあと。
テーブルの上には、彼女が手土産として持参した菓子箱だけが残されていた。
皇都で人気の菓子店の品だった。
ソリナは侍女へ視線を向ける。
「それ、捨ててちょうだい」
先ほどまでとは別人のように冷え切った声だった。
「かしこまりました」
侍女は静かに菓子箱を持ち上げ、その場を去っていく。
ソリナは鼻で小さく笑った。
「未来の皇后たる私に、あんなありふれた物を贈るなんて……相変わらず浅はかな方ね」
その瞳には蔑みしかない。
だが次の瞬間、口元がゆっくりと吊り上がった。
「まぁ……だからこそ、扱いやすいのだけれど」
くすり、と愉しげな笑みが静かなガゼボに溶けていった。




