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第十三話:ソリナのお茶会

第十三話と第十四話を一緒に投稿しました。

侍女見習いのラルカは、自分が仕えることになったモッサリとした令嬢を、心の底から小馬鹿にしていた。


(やっぱり、ソリナ様こそ皇后に相応しいお方だわ)


あのお方こそ、この大帝国を導くに相応しい女性。


そう思うたびに、自身の光り輝く未来を思い浮かべてしまう。


ラルカの脳裏に、少し前に開かれたソリナとのお茶会の光景がよみがえった。



それは、ラルカが侍女見習いに任命されてすぐのことだった。


「二人きりでラルカを祝いたい」と、ソリナから茶会へ誘われたのである。


公爵邸の美しい中庭。


色とりどりの花々に囲まれた優雅なガゼボには、ラルカだけのために茶席が整えられていた。


(社交界の華と謳われるソリナ様と、二人きりでお茶会だなんて。皆に自慢しなくてはいけないわ)


胸を高鳴らせながら席に着くと、向かいに座るソリナが紅茶を一口含み、優しく微笑んだ。


「ラルカ、イリンカ様の侍女見習いに選ばれたそうね。本当におめでとう。お友達として、私もとても嬉しいわ」


その穏やかな笑みに、ラルカは思わず頬を緩める。


「ありがとうございます、ソリナ様。私が選ばれたのは当然だと思っております。ですが……平民と一緒に働かなければならないと言われまして」


隠そうともせず、不満を口にする。


「屈辱です」


「まぁ……それは残念なことね」


ソリナは痛ましげに眉を寄せると、そっとラルカの手を包み込んだ。


「あなたは教養もあり、礼儀も身につけた素晴らしい令嬢よ」


その優しい声音に、ラルカの胸は熱くなる。


ソリナは少し俯き、寂しそうに続けた。


「もし私が皇后になれたなら……あなたを側妃に推薦したかったの」


「えっ……!」


ラルカは思わず目を見開いた。


「わ、私を側妃に……ですか?」


「ええ」


ソリナは照れくさそうにはにかむ。


「皇后としてウラドお兄様を支えるために、有力貴族の後ろ盾や、頼れる側妃を迎える必要があるもの。あなたはとても優秀だから……」


意味ありげに微笑み、ラルカを見つめるソリナ。


「そんな、優秀だなんて……」


ソリナのその含みのある様子に、自分が期待されていると察したラルカは、有頂天になってしまう。


そんな彼女を見つめながら、ソリナは少し言いづらそうに視線を伏せた。


「これは外部の方はあまりご存じないお話なのだけれど……」


小さく息をつく。


「イリンカ様は以前、植物魔術医として伏せっていたお兄様を治療されたの」


「……!」


「どうやら、その褒美として皇后の座を望まれたみたいなの」


その言葉を聞き、ラルカは怒りのあまり勢いよく立ち上がってしまう。


「なんて厚かましい方なのですか!」


「お兄様も命を救っていただいた恩があるからと、彼女の望みを叶えて差し上げているようで……」


そう言って悲しげに目を伏せる。


「本当に、お労しいわ……」


その瞳には涙が浮かんでいた。


ラルカは拳を強く握り締める。


「ソリナ様! やはり皇后になられるべきなのは、ソリナ様です!」


そして強い決意を宿した瞳で言い切った。


「私にお任せください!」


ソリナは少しだけ目を丸くすると、嬉しそうに微笑んだ。


「まぁ、ラルカ……。励ましてくださるなんて、本当に優しいのね」


その慈愛に満ちた笑みは、まるで聖母のようだった。


やはり、この方こそ皇后陛下に相応しい。

私も側妃となって、一緒に陛下をお支えしたい。


……あのお美しい陛下の側妃に。


そう想像しただけで胸が高鳴り、頬が熱くなる。


夢見るように頬を染めるラルカを、ソリナは静かに見つめていた。


その瞳の奥に浮かぶ仄暗い色に、ラルカが気づくことはない。



茶会が終わり、ラルカが公爵邸を後にしたあと。


テーブルの上には、彼女が手土産として持参した菓子箱だけが残されていた。


皇都で人気の菓子店の品だった。


ソリナは侍女へ視線を向ける。


「それ、捨ててちょうだい」


先ほどまでとは別人のように冷え切った声だった。


「かしこまりました」


侍女は静かに菓子箱を持ち上げ、その場を去っていく。


ソリナは鼻で小さく笑った。


「未来の皇后たる私に、あんなありふれた物を贈るなんて……相変わらず浅はかな方ね」


その瞳には蔑みしかない。


だが次の瞬間、口元がゆっくりと吊り上がった。


「まぁ……だからこそ、扱いやすいのだけれど」


くすり、と愉しげな笑みが静かなガゼボに溶けていった。

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