第二十一話:植物魔術師、ブチ切れる
「な、なんじゃ……!?何故、拘束魔道具が外れたんじゃ!」
突然自由になったイリンカを見て、元老院の老人たちは狼狽したように声を上げた。
その様子を見ながら、イリンカはゆっくりと立ち上がる。
そして何より先に、隣にいるラドへ鋭い視線を向けた。
「ラド、絶対に手ぇ出さないでよっ!」
びしりと指を突き付ける。
「この老害共は、私が懲らしめてやるんだから!」
怒気を孕んだ声に、さすがのラドも目を瞬かせた。
「お、おぅ……」
普段なら何かしら茶化してくる少年が、妙に勢いのない返事を返す。どうやら本気で気圧されたらしい。
そんな反応も当然だった。なぜなら今のイリンカは、本気で怒っていたのだから。
自分たちの私利私欲のためだけに皇帝一家を利用し、苦しめ、人生を狂わせた者たち。ラドの悪夢も、ウラドの呪いも、その元凶は目の前の老人たちにある。
――そして何より。
モッサリだの、貧相だの、好き勝手言われたことも忘れてはいない。
人の外見を馬鹿にする奴は嫌いだ。非常に嫌いだ。
この老害共に目にもの見せてやる。
イリンカの口元が、にやりと吊り上がった。
「これでも喰らえっ!クソジジイどもっ!」
彼女が魔力を練り上げる。指先から淡い緑の光がふわりと広がり、廃墟の空気を染めていった。
その瞬間だった。
――モコモコ。
――モコモコモコ。
彼らの身体を覆うように、濃緑色の苔が猛烈な勢いで繁殖し始める。
服の上だけではない。腕を伝い、首筋を這い、頬を覆い、さらには口の中にまで侵食していった。
「ぎゃああああかっ!」
「ヒッ……うぐおぉぉっ……ゲホッ!」
「カヒッ、カヒッ……!の、喉がっ……!」
苔は呼吸を妨げるほどではない。だが、確実に恐怖を植え付ける。
身体が植物に侵食されていく光景は、本能的な嫌悪感を呼び起こした。
元老院の老人たちも破落戸たちも悲鳴を上げながら床を転げ回り、我先にと苔を剥がそうとする。だが剥がしても剥がしても増殖していく。
まさに阿鼻叫喚だった。
「アーハッハッハッハ!」
そんな光景を前に、イリンカは腰に手を当てて高らかに笑った。普段の植物魔術師の面影はどこにもない。
「モッサリだの、貧相だの好き放題言いやがってさぁっ!」
怒りの蓄積がここぞとばかりに爆発する。目はらんらんと輝き、妙なテンションになっていた。
「苔むしてそのまま岩にでもなっちゃえ!悪人どもがっ!」
完全にノリノリである。
その迫力に、周囲の男達よりもラドの方が引いていた。
目の前で暴れ回るイリンカを見つめながら、思わず呟く。
「あれ、相当根に持ってたんだな……」
心の底からの本音だった。
*
その後。
騒ぎを聞きつけて駆け付けたラゴス将軍は、廃墟に広がる惨状を目にして大いに感動した。
床には苔まみれになり倒れている男たち。そこに仁王立ちする植物魔術師。
なかなか壮観な光景である。
ラゴスは目を輝かせ、興奮気味にイリンカを勧誘してきた。
「俺の軍に入らないか!?この実力なら、いずれ副将軍にしてやるっ!」
夢の隠居生活に、副将軍の地位はいらないので丁重におことわりした。




