第十九話:語られた真実
誰かが自分を呼んでいる。
遠くから響くような声が、意識の底を揺らした。
「……おい。起きろ、モッサリ美少女」
「誰がモッサリ美少女だっ!」
反射的に言い返した瞬間、意識が一気に浮上した。
頭がずきりと痛む。
「……いっ」
思わず額を押さえようとして、腕が動かないことに気付く。
――そうだ。私は殴られたんだ。
薄暗い室内を見回す。
崩れかけた石壁。朽ち果てた椅子や家具。湿った空気と埃の匂い。
どうやら廃墟のようだった。
そして視線を上げると、ラドが心配そうな顔でこちらを覗き込んでいる。
「私、連れ去られたのね……」
油断した。完全に不意を突かれた形だ。
手首には見慣れない拘束具が嵌められている。軽く魔力を巡らせようとしてみたが反応が鈍い。
「魔術封じの拘束具か……」
思わず眉をひそめた。
「ラド。この拘束魔道具なんだけど、あなたの魔術で壊せるかしら」
「おう。出来るぞ。すぐ外してやる」
ラドは当然のように答える。だがイリンカは首を横に振った。
「ううん。まだいいわ」
「ん?」
「私が合図したらお願い」
そう言うと、イリンカはにやりと口元を吊り上げる。
その笑みは、悪巧みに満ちている。
「どうせなら、最高のタイミングでやり返しましょう」
ラドは驚いたように目を瞬かせると、片眉を上げて意地の悪い笑みを浮かべた。
「それはいいな、面白そうだ」
「でしょう?」
こうして二人は、獲物がやって来るのを大人しく待つことにした。
*
しばらくして、予想通りの連中が姿を現した。
元老院の老人たちだった。
しかも護衛代わりなのか、いかにも柄の悪そうな破落戸たちまで引き連れている。
「なんじゃ。もう目を覚ましておったのか」
「思ったより元気そうではないか」
「ふん。やせ我慢じゃろう。内心では怖くて仕方あるまい」
好き勝手なことを言っている。
イリンカは内心で呆れながらも、わざと肩を震わせた。いかにも怯えているように見える声を作る。
「な、何故こんな事を……?お願いです、帰して下さい……」
老人たちは満足そうに顔を見合わせた。どうやら演技は成功しているらしい。
「……お前がいると皇帝が目覚めてしまう」
ひとりの老人が吐き捨てるように言った。
「それは我らにとって都合が悪いのでな」
やはり。イリンカは心の中で確信する。
狙いは自分ではなく、皇帝だった。ならばもう少し話を引き出してみる価値がある。
「そんな……」
イリンカは震える声を作りながら訴えた。
「皇帝陛下は立派なお方だと聞いております。このままでは国が立ち行かなくなるのではありませんか?」
「彼は優秀過ぎるのじゃ」
吐き捨てるような返答だった。
「それの、どこが問題なのです!?」
今度は泣きそうな声で叫ぶ。すると老人のひとりが鼻を鳴らした。
「そもそもじゃ」
その顔には長年積み重ねた悪意と嫉妬が滲んでいた。
「先帝が周囲の反対を押し切って結婚した時から間違っておったのじゃ」
そう言うと、老人たちは得意げに語り始める。
皇帝一家を襲った悲劇を――。




