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エドと博士のはみ出し日記  作者: WR-140


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83/84

83 告白

「私は、王宮詰めで内務省所属の、要人警護官ルド・エミネフスカと申します。元は陸軍特殊部隊に所属しておりましたが、最近まで王妃殿下の身辺警護を拝命しておりました。」

 男は、堰を切ったように話し出した。

 年齢は20代後半だろう。銅色の短髪と、灰色がかった青い目の持ち主で、ピンと伸びた背筋がいかにも王宮詰め警護官らしい。

 比較的整った容貌と、上背のある姿は、制服を着せても見栄えがしそうだ。


「王妃殿下の行き先を知っているとは?」

「あっ、言い直します!王妃様が、どこに行こうとされていたかは知っておりましたが、どうやらその場所には行かれていない様子なので…。」

「と、いうことは、王妃殿下は自分の意思で出て行った。そういうことか?」

「そうであります!」

「だが、その場所には到着していない?」

「はい!本来ならとっくに着いておられたはずですが、それが…。」

 王宮警護官、ルドは口籠もった。濃い眉がぐっと中央に寄り、眉間に深い縦じわが刻まれている。

 ひどく心配そうな様子だ。

「場所を変えよう。アンタ、時間はあるか?」

「ハイ!必要ならば案内役を続けるよう仰せつかっていますので。」

「なるほど。」

 エドの視線を受けて、カイが頷いた。


 一行が移動した先は、巨大な複合商業施設の中にあるレストランである。

 レストランといえば聞こえはいいが、凡そ上品で静かな環境とは言い難い場所だ。

 テーブルとテーブルの間は狭くて、子供が駆け回り、かなり大きな声を上げなければ、ひとつのテーブルを囲んでいても会話が成立しない。

 要は大衆的フードコートの一角である。

 だが。

 カイがシールドを展開した瞬間、5人がテーブルを囲むボックス席は、静寂に包まれた。

 ルドはギョッとした顔で、自分の耳に手をやり、周囲を見回した。

 周りの人々は皆、何ごともなく食べ、話し、あるいは席を立ったり座ったりの営みを繰り返しているのに、当然聞こえるはずの音が一切しないのだ。

 まるで周囲の全てが薄っぺらい動画にでもなったか、あるいは自分が突発性の難聴に見舞われでもしたか?

 思わず身じろぐと、衣擦れの音がやけにはっきりと聞こえる。難聴ではない。

「これ…は…?」

「彼は盟主最側近だと言っただろう。」

 それで説明は全てという調子でエドが言うが、実際はなんの説明にもなっいない。

 しかし、ルドは頷いた。

「そうなんですね…。アンドロイドじゃなかったんだ…。」

 思わずそう言ってしまってから、彼は慌てて打ち消しにかかる。

「いえあの。変な意味じゃなくて、その。つ、作りものみたいな顔だなと…。」

 自分から墓穴を掘りにいくタイプらしい。

 作りものといえばその通りだから、カイは全く気にしていないのだが。

 エドもムダな説明の手間が省けたから、言うことはない。

「で?詳しく話してくれるか?」


 ルドの話のあらましはこうだった。

 王妃ティーは、王宮暮らしを嫌っていたのだという。

 理由は誰にもわからないが、彼女の憂いは日増しに募り、腹心の侍女に、もはや一刻もここにいたくない、出ていきたいと漏らすまでになっていたらしい。

 具体的にいつ、どうやってについては、全く語らなかった王妃だったが、その切羽詰まった様子は尋常てなかったらしい。

 悩んだ侍女は、兄に打ち明けた。

 その兄がつまり、ルドなのだ。

 妹からその話を聞かされたルドは仰天した。何故なら、ルドはシンデレラストーリーを心から信じていたから。

 国王は、護衛官の前でも、王妃に対して非常に細やかな心遣いを見せ、王妃もまた愛情を込めてこれに応えていた。

 しかし、ルドの妹はシンデレラストーリーを真っ向から否定した。

 国王は、王妃を愛してなどいないと。

 

「妹はその、お二人が一度もベッドを共にされたことはない、と。」

「そりゃどういうことだ?」

「寝室を共にされたことはありますが、その場合でもベッドは別々だったと。」

「羨ましい…。」

 突然、そう呟いたのはミミ・ローゼンシュタルツである。

「はい?」

 豆鉄砲を食らったハトさながら、ルドの顔の真んに「?」が大書きされていた。

「お、おい?」とエド。

 ミミこと千絵が言わんとした意味は、なんとなくわかる。

 あの男が妻を見る目は、時にエドでさえゾクリとするほど凶悪だ。が、しかし、誰がアイツに口出し出来る?

「ミミさん。あの。何とぞ。」

 と、カイ。

 作りものめいた顔が引き攣っている。何故か悲壮感のある表情だ。

「おいたわしや。」

 と、カミラ。

 出てもいない涙を拭うマネまでしている。芸が細かい。

 当の本人は、口に出したつもりはなかったようだ。真っ赤になって、目を伏せ呟いた。

「あ…。ごめんなさい。続けてくださる、エミネフスカさん?」

「あ、はい。」


 結婚当初から、国王夫妻は完璧な芝居を続けていたが、ルドの妹は最初からある種の違和感を感じていた。

 あまりにも出来すぎていたのだと、彼女は兄に語った。まだ若く恋愛経験も乏しくはあったが、子供の頃から「大人の事情」に振り回されてきたからわかったのだ、と。


「私たちは早くに両親を亡くして、親戚中から厄介者扱いされて育ちました。妹は、私よりずっとしっかりしていて、何より人の表情を読むことに長けていました。妹の言葉は寝耳に水でしたが、私にとっては説得力があったんです。国王夫妻が2人きりの時には、会話らしい会話もなかったと聞いて、思い当たることがありましたから。」

 兄妹の見解が正しかったことを、エド達は知っていたが、今は軽く頷くだけにとどめ、先を促した。

「それで?」


 やがて、王妃は王宮を去ることに決めたらしいという。

 ルドの妹は、そのタイミングではじめて、慌てて兄に相談した。


 ルドの妹である侍女は、王妃ティーの入宮の時からそのお付きとして、生活をともにしてきた。

 だから、結婚式から初夜、その後と、間近で王妃を見てきたのである。王妃にとって、最も近しい人物の1人であった。

 王妃は、その彼女にすら気取られることなく、着々と準備を進めていたという。

 しかしそんなことが可能だろうか、とエドは内心首を傾げた。

 王宮という場所は昨今、世相を反映して自動化が進み、昔のように多くの生身の人間を必要とはしない。

 AIがあれば、事務系の人員は僅かで事足りるし、衣食住やイベント、建物の維持管理なら、用途別に特化したAI搭載型ロボットもある。

 かなり贅沢に最新機器を投入したところで、人件費よりは安く済むことも自動化推進の追い風となったのだ。

 人は少ないが逆に言えば、宮殿には至る所に〝目〟と〝メモリ〟があるのだ。AIは、人の日々の営みを、プログラム以外では評価しないが、記録はする。

 それは、ディープラーニングに必須だからだ。

 王妃の〝誘拐〟後、それらの記録は精査されたはずだ。

 ことに外部への通話記録などは、誰のものであろうと、洗いざらい調べられただろう。

 そこに手がかりを残さず1人で王宮脱出を準備する?

〝共犯者がいる。いや、共犯というべきじゃねえよな、まだ。協力者か〟

 それが当然の帰結であった。

 誰なのかはわからない。

 目的も不明である。

 ただその人物は、ティー王妃よりも身軽に動け、監視機器に痕跡を残さずに彼女と接触出来る立場にある。

  

お付き合い頂き誠にありがとうございます!

次回もどうぞお越しくださいませ。

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