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エドと博士のはみ出し日記  作者: WR-140


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80/84

80 事件

「して、訴訟を起こした元恋人とは、どのような男じゃ?」

「カルデシス・クアンタってのが本名ですが、この男にはもっと有名な別名がありましてね。〝ポポ・カル〟、ご存知ですか?」

「無論知っておる。妾のお気に入りじゃ。」

「さすがっす。」

 ポポ・カルは、格闘家だ。カミラが大好きな、俗っぽい界隈の有名人である。

 AI搭載のアンドロイドがありふれたこの世界だが、生身の人間による格闘技には根強い人気があった。

 生身でも様々なクラスがある。

 戦前から戦中戦後にかけての15年ほどで、人体改造に関する医療技術は飛躍的に伸びた。ことに戦中戦後は、身体の物理的欠損や機能的廃失などを補うための技術が、急速に進歩したのである。

 失われた機能を補填するのみならず、甚だしく強化する技術もまた長足の進歩を遂げた。

 結果、〝超人〟と呼ばれる身体改造者らが誕生した。

 手足の一部など、部分的に強化した者、全身の細胞や代謝系に手を加えた者、腕力やスピードなど、ある種の能力を集中的に伸ばした者。

 ただ強さだけを競うならば、何をどう強化しようとも、アリスのような戦闘に特化したアンドロイドに、勝てる者はいない。

 アリスは別格としても、そもそも生身の人間が、戦闘を目的に創られたロボットに勝てるはずがなかった。

 だが、一部の格闘技好きの人間に言わせると、そこにはロマンがないらしい。

 エドの同僚で、自らの身体を改造することが趣味の格闘技マニア曰く。

「弓矢や剣にはロマンがあるが、核兵器にロマンはないだろうが!」

 わかったような分からないような例えであるが、アリス=ラグナロクが核兵器に匹敵するのは本当だ。

 しかしその格闘技マニアの男が、〝超美人〟監察官アリス・デュラハンにロマンを感じているらしいのは、何となく物悲しくもある。

 彼女は、人間ですらなくて、むしろ核兵器に近い存在なのだが、立場上それを口にすることができないエドだった。


「エドよ、エル・ポポが、そのような訴訟を起こしたなど、まだ妾の耳にも入ってはおらぬが?」

 カミラは、なぜが少し気分を害したらしい口調である。

「そうでしょうね。まだニュースネタにはなってないですから。」

「ならばなぜお主が知っておるのじゃ?」

 そう。

 それが本題なのである。


「こっから先は、オフレコでお願いします。いいっすか?」

 3人があっさり頷いた。

 立場上、機密情報に触れるなど日常の連中だ。本当はわざわざ念を押す必要すらない。形式上の確認である。


「王妃ティーが、誘拐されました。」


 最初異変に気付いたのは、王妃付きの女官である。年齢は王妃ティーよりひとつ二つ下の、まだごく若い娘だ。

 彼女が朝、いつもの時間に王妃を起こしに行ったところ、寝室に彼女の姿がなかった。

 バスルームにも見当たらないし、ドレスルームにも姿がない。

 それ自体はよくあることだった。

 王妃は元々早起きで、朝食前に散歩したり、宮殿内のジムで軽く運動したりすることが多かったのである。

 だから女官は、王妃の所在を確認するため、寝室をあとにしようとしたのだが、その時ふと違和感を覚えたという。

 その原因を探そうと、室内を振り向いた時、鏡に貼り付けられた1枚の紙に気づいた。何か書かれているようだ。

 不吉な予感に導かれるまま、彼女は鏡に近寄った。

『王妃は預かった 〝ティティスの瞳〟とのみ交換に応じる』

 紙片にはそう書かれていた。

 混乱しながら2度3度目を走らせ、内容をようやく把握した彼女は、声にならない悲鳴と共に部屋から走り出た。宮殿内はすぐに大騒ぎになった。


「ティティスの瞳とは何じゃ?」

「旧王家の宝ものらしいっスね。王笏の握りについてたでっかいエメラルドだとか。けど、40年前のクーデターのどさくさで失われたって話です。」

「面妖な。それがないのに、なぜ?」

「さあねえ?王室関係の誰かが隠し持ってるか、在処を知ってるのか、又は。」

「誘拐の目的が別にあるか、じゃの。」

 エドは頷いた。

 エメラルドといえば、黒猫少尉の首輪にもでっかいエメラルドが付いている。

 あまりに大きく美しいから、誰もホンモノとは思わない逸品だ。

 エドの視線に何を感じたのか、カイが首を横に振った。

「ボクのエメラルドは、神皇家の宝物庫に数百年も眠っていたものです。その宝石とは別物ですよ、念のため。」

「あ〜。」

 それはそうだろうな、とエドは頷いた。

 神皇家の宝物庫に収蔵されていない宝石の種類はないし、あるのはどれも奇跡的なクオリティの逸品である。

 高確率で呪われてはいるが。


「とにかくそれ以来、王妃の行方はしれない。犯人側からの連絡もないまま、既に半月過ぎた。表向きは体調不良ってことで公務を欠席しちゃいるが、それもそろそろ限界だってんで、連邦司法省に極秘の協力要請があったのが3日前。王室側は、王妃に対する訴訟の当事者であるエル・ポポを疑っているが、決め手がない。」

「なぜじゃ?なぜ疑いが?」

「彼と思われる人物が、王妃が消えた日に、宮殿の複数の監視カメラに映っていた。更に博士はご存知でしょうが、エル・ポポはスピードに特化した身体改造がウリのファイターだ。当日の未明、宮殿の警備員が高速で移動する人影を見たと申し出たらしい。人間としてはあり得ない速さだったから、彼は見間違いだと思っていた。しかも、エル・ポポが提訴に踏み切ったタイミングがまさに、ウチに協力要請が来た前後だ。」

「捜査の撹乱を狙った提訴だと解釈されたわけじゃの。」

「そういうことですね。」

「で、エドはどう思うの?」

「攪乱狙いはあり得るな。けどよ、オレ的には何つ〜かこう、しっくりこねえんだわ。」

「しっくりこない、ですか。」

 カイが呟いた。

「あなたのそういう感覚は、正確なことが多いですよね、捜査官。」

「たまに的外れなこともあるけどな。けど、なんか引っかかるんだ。どっかが間違ってる感じ?」

 千絵が首を傾げた。

「だからなの?恋愛と結婚の経緯が気になってるってことは?」

 エドは慎重に頷いた。

 恋愛が時に、最も理性的である人をも狂わせるのは知っていたし、そのため人は突拍子もない行動に出ることもある。

 たが、今回のロイヤルウエディングにまつわるあれこれに感じるのは、狂気ではない。

「何つーか、出来すぎたって感じかな?シンデレラストーリーは大衆ウケするけど、こりゃ演出臭いってーかよ。そもそもの発端は、その辺りの無理が関係してんじゃねーかって。」

 カミラが日記帳に鉛筆を走らせながら、独り言のように言う。

「脚本家と演出家がいそうじゃの。」

「なるほど。廃嫡されかけていた王太子にしてみれば、恋愛結婚で身分違いの女性と結ばれたというストーリーはさぞ有利に働いたでしょうね。」

 その点はエドも同感である。

 男好きだの色情狂だのというウワサを打ち消せるし、国民的な人気を博すことで、廃太子となるリスクまで低くなることが期待できる。

「貧しいが美しく、不幸な若い娘と、起死回生の策を必要としていた王子サマ。取り持つのが元乳母だ。と、なりゃあ。」

「契約的な結婚か。王家も伝統がないから、逆に家柄がどうの血筋がこうのとは言われにくいであろうの?」

「そうなりますねえ。真相がどうあれ、王妃が拐われたのは事実だ。容疑者もいる。ラタリスカヤ王国は事件の解決を望んでいる。で、司法長官をアゴで使ってるアリス・デュラハン主席監察官どのが、事件解決を命じたのがオレ。っつーか、オレとあなたのコンビってワケなんす、博士。よろしいでしょうか?」

 カミラが目を輝かせた。

「なかなかわかっておるではないか、ラグナロクは。して、我らはこれからいずこへ向かうのかの?」

「あ〜。それなんすけど…。」

 エドは、チラッと少尉を見た。

「少尉、確か妃殿下がクメリア地方へ公式訪問されるに当たって、ルート確認と警備計画の打ち合わせが?」

 カイが無表情に頷いた。がエドは彼の様子にに、かなりの困惑を見て取った。

〝なんだって千絵ちゃんの前で話すかな、とか言いたいんだろうな〟

 と、エドは内心頷く。

〝けどまあ、織り込み済みなんだよな実は。〟

「少尉、あんたのご主人様から伝言だ。」

「は?」

「千絵ちゃんをよろしく頼むとさ。」

「え?」

 絶句した少尉を尻目に、千絵がポンと手を叩いた。

「わあっ!私が一緒に行っていいんだ?」

「ああ。リュウから了解は取ってる。千絵ちゃん、前からあの辺りに行きたいって言ってたんだってな?」

 ラタリスカヤ王国を含むクメリア地方は、先の戦争の激戦地であった。

「公式訪問より、プライベートで行きたかったの。龍ちゃん覚えててくれたんだ。」

 なぜかふと遠くを見る目で、彼女はそう言うと、立ち上がった。

「30分待って。私だとわからない方がいいよね?」

「だな。」


お付き合い頂きありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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