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エドと博士のはみ出し日記  作者: WR-140


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78 シンデレラ・ストーリー

「シンデレラストーリー」篇、始まります。

「え?いま何つった、千絵ちゃん?」

「そういうの、地球じゃシンデレラストーリーって言うんだよ、って言った。」

「シンデレラストーリーか。」


 ここはエドの職場の側にある飲食店。

 公務員のみならず働く大人たちは、自炊より外食を好む者が多い。

 料理を趣味にしていたり、最新の家庭用調理グッズ(ロボット含む)が大好きな人々は別として、官公庁やオフィスがビッシリ立ち並ぶこの界隈は、昼時ともなればどの飲食店も満員だ。

 エドもまたご多聞に漏れず外食派だから、近場の飲食店にはかなり詳しい。

 職業柄、休憩時間は融通が効く。

 そのため、人気店の昼行列に悩まされることなくさまざまな店の開拓が可能だ。

 この店も、そうやって開拓した穴場スポットなのだ。美味しいものが大好きな千絵が、カミラから話を聞いて、エドに案内を頼んだのである。

 ここのランチコースは悪くないが、エドは単品料理を適当に選ぶのが好みだ。

 その日の気分と腹具合に相談する。場合によっては、当てずっぽうで聞いたこともないメニューに挑戦することもある。

 当たり外れはあるが、結果として思いもよらない新たな発見をすることもあった。

 彼女もいないし他に楽しみもないから、気がつけば界隈の飲食店については、ちょっとした情報通になっていたのだ。

 グルメガイドのブログをやってほしいなどという声まである。リマノに星の数ほどある飲食店は、地元住民だけでなく、観光客にも大人気なのだ。

 それはさておき。


「シンデレラストーリーか。みんなこの手の話が好きそうだもんな。博士のお国じゃどうです?」

 自身の顔より大きい肉にかぶり付きつつ、カミラが上目遣いで頷く。

「そのような話はいくつかあるの。御伽話の類じゃが。」

「御伽話かあ。そうかもね。」

 と、千絵。

 こちらも豪快に骨付き肉と格闘中だ。

「なんだ、千絵ちゃんまで。世間じゃ千絵ちゃんのこと、そのシンデレラとか何とか取り沙汰してたろうに?」

「冗談はやめて。シンデレラってね、貧しいけど実は高貴な生まれの、キレイで性格よくてケナゲな女の子が、お金持ちの王子様に見そめられて結婚するってのがテンプレ。いじめられてたり迫害されてもじっと我慢してる、みたいな?私はそんなタイプじゃないの。」

 骨付き肉を豪快に食べる様を見る限り、彼女の言は正しい。完璧な貴婦人を演じることは出来ても、本質はコッチだ。

 たくましく、正義感が強い。少なくとも、謂われなき迫害に黙って耐えるようなキャラではない。

「けどよー、リュウのヤツは、確か王子様だろ?」

 それも家柄、容姿、能力の全てが浮世離れした、とんでもなくハイスペックの。

「え〜、やめて!龍ちゃんのどこが王子様なワケ?それにウチ、お金なんかないしさ。」

 うんうんと自分の言葉に頷いて、指先についた肉汁をペロリと舐める。まるで子供みたいな仕草が彼女にはよく似合う。

 今の今まで黙っていたカイが、一つ咳払いをした。

「お言葉ですが。」

「何よ?」

「龍一さまは神皇家東宮。つまり、王子です。千絵さんも、神皇さまのご養女として内親王の称号をお持ちです。お二方とも金銭に執着なさいませんが、神皇家の資産は連邦のあちこちに存在します。」

「まあ。ほとんど呪われてるけどね。」

「そうですが、換金すれば莫大な資産価値がありまして。」

「ストーップ!そんなことしたら死人が出るでしょっ!だから、龍ちゃんと私、固定資産税なんかのために、あんな映画に出る羽目になったんだもの。」

 あんな映画、と彼女は言うが。

 最高に美しく、最高にエロいあの画像。

「リュウのヤロ、ぜってー楽しんでやがったと思うぜ。」

 エドの言葉に、カミラとカイが頷き、千絵は盛大にため息をついた。


「シンデレラストーリーか…。確かにテンプレ通りだったワケだ。ま、最初はな。」

「最初は?」

「今も世間じゃシンデレラってことになっちゃいる。だが、多少雲行きが怪しい。」


 連邦加盟国の一つに、ラグ・ラタリスカヤという名の王国がある。

 小国ながら資源に恵まれ、交通の要衝でもあることから、それなりに豊かな国とみなされていた。

 元首は若き国王、カタローニ3世。彼の祖父カタローニ1世が、それまでの支配者だった絶対君主、ファルス8世を倒して打ち立てた立憲君主制国家である。

 実際の政治形態は、議会制民主主義。

 1000年以上もの間、王国であったため、国民は新政権よりその旗印である国王を歓迎した。

 王政の段階的廃止を目標としながらも、既に3代目の国王とあって、立憲君主制が定着している。

 この3代目の王妃が、話題のシンデレラガールであった。

 23歳。ラタリスカヤ王国の港町マーラ出身の、ごく平凡な女性と言われている。

 父子家庭で、父は船乗りだ。

 近海航路のごく小さな貨物船の航海長である。他の乗組員は、船員2名と船長のみ。

 貨物船とは名ばかりの、今にも沈みそうなボロ船だ。航海長などと肩書きはあるものの、とても裕福とは言えないだろう。

 この父親の名はボリス・ゴトフリー。

 娘の名はティルテュ、通称ティー。

 彼女の写真を見るぎり、シンデレラストーリーの主役に相応しく、美しく愛らしい娘には違いない。

 そして、父親はいわゆる〝クズ〟だった。陸にいる時はひたすら呑んだくれていたから、幼い頃のティーが生き延びられたのは、近所の人々のお陰だ。

 少し大きくなってからは、あちこちで半端仕事を貰いながら生きていた。彼女を然るべき施設に入れようとした人もいたが、何より本人がそれを拒んだ。

「お父さんがひとりぼっちになっちゃう」

 と。

 ボリスは、酒を飲みさえしなければ、気持ちの優しい男であるのは皆知っていた。

 だからティーにそう言われたら、それ以上はどうしようもなかったのだ。

 そうして、曲がりなりにも父娘2人が迎えた、ティー18歳の秋。

 ボリスが死んだ。

 結局、酒が仇となっての死だった。

 ティーの悲嘆の様は、周囲の涙を誘ったという。

 だが、ボリスには酒で拵えた借金があったから、ティーはその返済のために、生まれ育った家を売り払わねばならなかった。

 家族と住処を失った、18の美しい娘。

 善意の手を差し出した者もいた一方で、彼女の窮地につけ込もうとした者らもいたのだ。

 愛人契約を申し出る者や、より乱暴で直接的な手段に訴えようとする者が後を立たず、彼女は次第に追い詰められていった。

 そんな時、彼女の運命を変える出会いが訪れた。


「ある裕福な家で、住み込みのメイドの仕事に就いたんだ。そこん家にゃ、彼女に言い寄りそうなダンナも息子も居ねえ。主人は女性で、使用人も殆どが女性だ。とは言っても、多くはない。デカい屋敷は自動化されてて、人間は数人居りゃ足りた。まあ、今どきの快適な職場だよな。」


 そこで、ティーは未来の夫と運命の出会いを果たしたのだ。

おいでいただきありがとうございます。

次回もよろしく。

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