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エドと博士のはみ出し日記  作者: WR-140


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71/84

71 殺人犯はここにいる

 訪問者は2人いるようだ。

 門を入るあたりからは、エドにも人数だけはわかった。

 マシンアイに内蔵されたマイクを向けてみると、どうやら男女2人であるようだ。

 門から少し入ったあたりで立ち止まって会話をしている。

 会話の内容まではよく聞き取れないが、お世辞にも和やかな様子とは言えない。

 女の声が一方的にまくしたてるのを、男が軽くいなしているが、苛立ちは隠しきれていないようだった。

 カミラには会話の全てが聞き取れているのだろう。

「博士?どうかしたんすか?」

 カミラの口元に、ある種の笑みが浮かぶのを、エドは訝しく思った。

〝ン?ヤベェ。何かヤベェ気がする、コレ…〟

 本人は甚だ不本意だが、こういう予感はよく当たるのだ。

「獲物じゃ。妾の指示通りに動いてたも、エド。」

「了解。」

 拒否する選択肢は、ない。

 とりあえずエドとジェイミー少年については、カミラの同行者とすることで話はついた。

 クーもカミラが引き受けた。

「妾に任せるが良い。」

 彼女の手が触れた瞬間、クーの姿が忽然と消えたことに、ジェイミーはひどく驚いた様子だが、再びカミラの手にとまる、元気なクーの姿を見て安心したらしい。

 次にクーの姿が消えても、危機感はないようだった。

 子供の順応は早い。エドはいまだに日記帳の収納先が気になって仕方ないのだが。


 訪問者は玄関からホールに入ったが、まだ会話中だ。

「いいかげんに落ち着きたまえ、ワッツ次長。」

 と、いささかうんざりしたらしい男の声がはっきりと聞こえた。

「私は落ち着いています!」

 ややヒステリックに答えたのは女の声である。凡そ落ち着いているとはいい難い声音だ。

 2人は廊下を歩きながら、徐々に近付いて来る。

 やがて図書室のドアが開いた。

 入り口には男女2人。少し驚いた様子で立ち止まった。

「だ、誰?」

「待ちなさい、ワッツ次長。」

 女性の鋭い問いかけを、男性が制止して前に出た。満面の笑顔だ。

「リマノからこられた方々ですね?」

「そうですわ。」

 平然と答えたのは、カミラだった。

「初めまして。私は〝月の宮〟から参りました、カミラ・ヴォルティス。この2人は私の連れです。それで、あなた方は?」

〝どうなってんだ!?〟

 色々とツッコミたいエドである。

 カミラがフツーに話せるのと、芝居が犯罪的に達者なのは知っていたが、ここで何故〝月の宮〟が出てくる?

 カミラは、一言も嘘は言っていない。彼女の公式宿舎はまさにその〝月の宮〟である。

 そういえば、どういう名目で立ち入り許可を取り付けたか、エドはまだ聞いていなかった。

 男は愛想よく入ってきて、カミラにネームカードを差し出した。

「初めまして。ウィルベリー・ハントと申します。門の錠が開いていたので、いらしているのではないかと思ってましたよ。私はこの館の所有者である、リトベリー・ヤヌス氏が会長を務めるヤヌス社の、不動産部門を統括しております。こちらは、同じく当社芸能部門の次長で、コーネリア・ワッツ。」

 男は腰をかがめもの柔らかに挨拶して、カミラと握手した。一方ワッツという女は、呆れたような表情で、不信感を隠そうともしない。

 無理もなかった。

 カミラの外見は、どう見たってローティーンの子供だ。むしろ、全く動じない男の方が異常ではある。

 しかしこのご時世だ。

 大戦からこちら、再生医療は目覚ましい進歩を遂げている。時間と金をかけ科学的な手段に訴えるが、あるいは腕のいい魔法医師に出会えれば、人の外観はどうとでもなるのだ。

 つまりは、子供に見えるものが子供とは限らない。あり得ない外見に、いちいち驚いていては、それなりの会社の重役はつとまらないだろう。

 カミラがハントという男と、社交辞令を交換している間に、エドはじっくりと2人を観察した。

 2人とも隙のないビジネススーツ姿。

 髪型は最新流行ではないが、きちんと整えられていて、服装によく調和している。

 痩せ型で中背。習慣的にジムに通っていそうな体型。

 つまり、都会の会社員によくいるタイプである。女性の方はかなり緊張感を漂わせているが、男性の態度には余裕があった。

 データベースに照会してみたが、どちらも前科や前歴はなさそうである。

 見たところ2人とも、エドと大して年齢は違わない。

 男の方がエドよりすこし年上だろうが、それでもまだ40位か。女性は30代になったところかもしれない。

 外見は当てにならないとはいえ、この若さでそれぞれの地位にあるならば、可能性は二つ。

 それなりの実力者か、もしくは強力なコネの持ち主か、である。

〝両方ってセンもないじゃねえが、女に関しちゃそれはねえかな。〟

 カミラに向けたあの表情。

 よく言えば正直だが、これではヤヌス社のようなそれなりの大企業で、頭角を現すのは難しいだろう。ヤヌス社はこの地で創業してかれこれ200年以上となるが、現在の総責任者である会長は海外在住だ。

 すでにかなりの高齢のため、本社の重役達が実際の経営に関与しているらしい。


「なるほど、ではこちらが護衛の方でいらっしゃる?」

 と、男がエドに手を差し出した。エドは簡単に姓名だけを告げて握手に応じる。

「それで、こちらは?」

 と、男はジェイミーに目を転じた。

 カミラがにこやかに説明する。

「私の遠縁の子ですわ。この近くに住んでおりますの。たまたま私と同行したいとわがままを申しまして。ほら、ご挨拶なさい、ジェイミー。」

「あ、どうも。」

 エドが驚くほど自然な振る舞いで、ジェイミーはぺこりと頭を下げた。

 全く悪びれる様子はない。

 これだから子供は恐ろしい、とエドは思う。ジェイミーは、自分が不法侵入者という犯罪者であることを、大して自覚していないのかも知れない。


「素晴らしい図書室ですわね。」

 カミラが愛想よく微笑んで続ける。

「妃殿下がお気に召すでしょう。書物を好まれます故。」

「それは有難い仰せですね。君もそう思わないか、ワッツ次長?」

 ハントはにこやかにワッツを振り向いたが、そこで〝おや?〟と言うように動きが止まった。

「どうしたね、ワッツ君?気分でも?」

「いいえ。何でもありません。」

 が、その答えに反して、彼女の顔色はひどく青ざめていた。

「そ、それより。ハント本部長、妃殿下がこの都市にお見えになるというのは…。」

 ハントの表情が険しくなった。咎める視線でワッツを見据える。

「何を今更?決定事項であることは既に伝えたはずだ。妃殿下のお席を押さえてくれたのは君だろう。この館もレプリカではあるが、システィルナ様式をよく伝える建築物として、ご訪問先の候補だから、こうして女官の方が下見に来られたわけだしな。」

「あ…。」

 ワッツは、罠に掛かった動物のようにハントを、そしてカミラ一行を見た。

〝あ〜、博士が月の宮の女官って触れ込みか、ナルホドな〜。〟

 と、エドはようやく合点がいった。

〝だが、ワッツは何で酷く嫌がってるように見えるんだ?普通、妃殿下のご訪問となれば、両手を挙げて歓迎しそうなもんなのにな?〟

 訪問の招請に必死な都市は多い。月の宮の門前には、嘆願者の列ができることもあるのだ。

 ラグナロクはその訪問予定に便乗して、立ち入り許可を取ったのだろう。それならば、断わる個人も企業もまずないはずだ。

〝問答無用の力技ってヤツな〜〟

 エド的には何となくモヤっとするが、ま、世の中そんなふうに回ってるんだろうと考えることにした。


「少し休まれては?本当にご気分が悪そうですわ。」

 カミラに促されるまま、ワッツは椅子に座った。

「困ったな。大丈夫かね、ワッツ次長?」

「だ、大丈夫です…。」

「とてもそうは見えないが…。まあいい。それで君の探しものはどこにあるのかね?」

「この図書室にあるはずです。私の探しものではなく、ゾーイの探しものですけど。」

 ハントが一瞬固まったように見えた。

「…タイトルは?」

「ジュルバインの黄金竜。」


 偶然?

 いや、この場合必然か。

 エドは、カミラの無表情に目をやり、次いでジェイミーを見た。ジェイミーの顔に現れたのは、ただ驚きである。

 それはそうだろう。エドのカンは、これが偶然の一致ではないと主張していたが、なぜそうなのか皆目わからないのだ。

 再度、カミラを伺う。彼女の無表情はそのまま、エドを見もしないのだが。


『大体のことはわかった。』

 突然の内緒話である。その声に、ある種の悦びが混じっているのを、エドは聞き取った。

『アリス。聞いておろう?』

『ええ、博士。』

『通報を。ここに殺人犯がいる、とな。』

『了解。』

 会話はそれだけだ。エドには一言の解説もなかったが、まあ成り行きに任せるしかないのはいつものことてある。

 しかし、殺人犯?誰が?誰を?

 何の根拠で?

ありがとうございます!

次回もどうぞお付き合いくださいませ。

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