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エドと博士のはみ出し日記  作者: WR-140


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70 小鳥の探しもの

「でよ。そのナントカ、ってのは?」

「んー、よくわかんない。クーも忘れたって。」

 エドとカミラは顔を見合わせた。

「博士、地名かなんかですかね?」

「妾が知る範囲では、黄金の竜がジュルバインなる土地を訪れたことがあったはずじゃ。その時のことを記した童話があるとも伝え聞く。」

「あ、それかも。」

 少年の言葉に、小鳥も頷いたようだ。

 カミラが小鳥に話しかけた。

「クーと言うたか。そなた、まだ人の言葉がわかるのかの?」

 小鳥は再び頷くように首を動かした。

「博士、まだ、ってなあどう言う意味っすか?」

「わからぬか?まあそなたは知らぬ方が良いやも知れぬが…。」

「やめて下さいよ、そんな思わせぶりな。オレだって、普通の鳥じゃないってくらいわかってます。」

 知性ある魔獣の類いだろうと、エドは見当をつけていた。

「ふむ?ならば言うが、クーは、元々は人間であったろうの。」

「…はあ?」

〝何か考えていた方向と違うような?〟

「死んだのはもう随分と以前であろうよ。それが未だ自我の一部を保っておるとは、よほどの心残りがあったはずじゃ。」

「あのー、つまりこの鳥、ゆ、幽霊さまってことなんすか?」

「おおまかに言えばの。」

「うっ…。」

 エドは、なんとかその場にふみとどまりながら、小鳥を見た。具体的な危険は感じないが、幽霊という単語のせいか、正直、コワい。

 愛らしい小さな鳥は、首を傾げた。

「えっ、クーって、幽霊なの?」

 ジェイミーが、目をキラキラさせながら訊ね、カミラは頷いた。

「その一種じゃ。死んだばかりの小鳥のむくろに、人の霊が憑いたもので、そなたの言う幽霊とはいささか異なるかもしれぬが。」

 エドは少しホッとした。実体があるのなら、十分守備範囲である。

「あー、そーゆーのもあるんすね博士。」

「然り。肉体とは、霊のヨロイのようなものじゃ。それを失ってしまえば、あとはただ消滅を待つのみ。クーも既に人であった記憶の大半を失っておろう。消滅を遅らせるのは強い思いと仮の肉体なのじゃ。」

「なるほど…。ん?だったら、あの時はなんで…?」

「あの時、とは?」

「ホラ博士もお聞きになったでしょうが、千絵ちゃんがやらかした時、相手はかなり古〜い死人どもだったわけでしょ?当然肉体なんぞロクに残っちゃいねえ。」

 700年前、疫病の死者が投げ込まれた集団墓地。何重もの結界で封じられたその土地に、更に異常な状況で死んだ遺体を一時保管する、司法省の遺体安置所が建てられていた。

 数万とも言われるその死者たちを、盟主妃が一気に浄化してしまったのだ。

 ドラゴン騎士の介入も相まって、連邦中を揺るがした大事件だった。域内の軍事関係者や宗教団体、加盟国の外務省などからは、半ばパニックめいた問い合わせが殺到し、それを行った人物の特定が一大トピックとなった。

 エドは何一つ見えも聞きもしなかったが、実は事件のその時、その場に居合わせたのだ。お陰で、リュウを怒らせたらどうなるかを、しっかり学びはした。

 あんなこと、2度とご免だ。


「妾も確かに聞いておる。あれはの、結界と、死者の膨大な数と、土地の相互作用じゃ。しかし、クーは見たところ単独。1人で彷徨うには永い年月だったであろう。依代を得るのは容易でないしの。」

 なぜか優しい眼差しと口調だ。

 小鳥は首を傾げ、戸惑うように啼いた。

「なぜ、とな。それはの、妾も永い永い年月を1人で生きてきたからなのじゃ。世界から切り離され、他者に触れることなく、触れられることもなく、多くを見送ってきたその気持ちは分かる。」

 小鳥はビーズ玉にも似た目でじっとカミラを見つめた。

 世界から切り離された?

 カミラは自分と、この小さく非力な幽霊を重ね合わせてでもいるのだろうか?

 伝説級の魔族のなかでも桁外れの魔力の主である彼女と、可愛らしいが吹けば飛ぶような小鳥(または幽霊)とでは比べるのがおかしいはずだが。


「よし!探そうぜ。」

「え?なんで?」

「ここには長居しない方がいいからだ。」

 それ以上話さず、エドは書架にマシンアイを向けた。

 取り急ぎあの被害者を保護したが、いつ犯人、つまり、被害者をあんな状態にしたものが戻るかわからないのだ。

 リマノに近いとはいえ、ここはエドにとってアウェイだ。

 エドとカミラは、辛うじて息があった被害者以外に、すでに手遅れとなった犠牲者たちの痕跡も発見していた。

 つまり、ここは連続殺人犯のホームグラウンドである可能性が高い。

 怨恨か、それとも、ナサニエルのような快楽殺人者かはわからないが。

 館の現在の所有者は、法人である。

 この惑星では、ある程度名の通った企業と言えるだろう。

 犯人はその関係者であろうが、まだ特定には程遠く、犯行が発覚したことを知れば姿を消すだろう。

 たから、あえて地元警察には通報していない。

 地元警察に通報しなかった理由はもう一つある。

 この丘の中腹にある交通ポイントだ。

 維持・管理に金がかかるあの設備を、温存しておくにはそれなりの理由があるはずだが、もし、それが犯人の都合なら?

 個人的都合のためポイントを維持しているならば、そいつには少なくとも、潤沢な資金がある。

 それだけではなく、本来公共のものである社会インフラ設備を半ば私物化するにはある種の人脈が必要である。

 エドは、そうした犯罪者をこれまでにも多数見てきた。いずれ劣らず、狡猾で陰湿なタイプだった。

 警察の中にも、そいつの協力者がいる確率は高いだろう。

 通報するなら、犯人を特定し、容疑がそれなりに固まってからだ。そこはエドとカミラ、それにエドを通して状況をモニターしているに違いないアリスの暗黙の了解である。


 山道は整備されてはいなかったが、轍のあとは見分けられた。

 接地走行タイプの車両だ。轍は、ポイントから館の間のみに残っている。

 館の横には、車庫らしき建物があった。

 誰かが比較的頻繁にここを訪れているのは間違いないし、その人物がエドとカミラの訪問を知ったなら、さっそく様子を確認せずにはいられまい。

 カミラとエドだけならば、何が来ようが問題ないが、この少年を巻き込むわけにはいかない。

 それ故の探しものだ。

 マシンアイで取り込んだ書架の情報を精査、解析するのは、わずかな時間で充分であった。

「見つけたぜ。」

 呟いて、エドは書架に取り付けられたハシゴをスライドさせ、目的の本の位置に合わせた。

 かなり高い。天井に近い場所にある。少年が探しても、見つけるのはかなり難しかったであろう。

 スルスルとハシゴを登って、エドはその本を手に取った。『ジュルバインの黄金竜』は、ごく薄いハードカバーの児童書のようだ。ただ、書籍のコレクターが求めるような高価なものではなくて、ありふれた量産品てある。

 この大層な図書室には、かなり高価な古書もあり、そこには似つかわしくない本だった。かつてここに住んでいた子供の持ち物が紛れ込みでもしたように場違いだ。

 エドはハシゴから飛び降りて、それをジェイミーに手渡した。

 少年がクーの前にに本を掲げて見せる

 小鳥がかすかに鳴いて俯いた。

「え、これじゃないの?」

「そのようじゃの。」

「どういうこと?題名が違うの?」

 小鳥は首を左右に振った。

「タイトルはこれで合うておるようじゃの。しかしこの本ではないということか…?いや、そうか。本もこれで正しいのじゃな?…ああ。理解した。」

「その題名の本は、この部屋にはそれだけっす、博士。」

 カミラは頷いた。

「そのはずじゃ。日を改めて再度訪問することもできようが、暫くはむずかしかろう。どうしたものが。」

「ちょっ、博士?」

 何でそこまで、と言いたいところだが、カミラは目でエドを制止した。

「いや、さほど待つ必要はないか。」

「…。」

 エドは言葉を飲み込んだ。

 カミラの目が一瞬、キラリと光ったのを見たのだ。

「妾が力を貸そう。エドよ、そなたはジェイミーを守れ。良いな。」

 質問ではなく決定である。

 エドは頷いた。訳のわからない無茶振りに、腹を括るのは慣れている。

「んじゃ、オレから離れるなよ、坊主。これから何が起こっても、な。」

 

 そう。エドも気付いていた。

 何者がが接近する気配に。


お付き合い頂きありがとうございます。

次回もよろしく!

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