第9話:自称勇者たちの屍を越えて! 爆走城壁、最前線へ
「お願い、聖女ミリア様! この世界を……私たちを救ってください!」
ボロボロになった本物の(一応)聖女が、私の壁にしがみついて涙ながらに訴えていた。
アルセリアが脱出して数日、王都に突如として魔王軍の侵攻という大ピンチが訪れていた。
「えっ、救援!? 私に言われてもただの壁なんだけど! 勇者とかいないの?」
「勇者様なら……もう倒されました……」
「ええっ!? 早すぎない!?」
「はい……これで今週に入って『自称・世界を救う男』が10人連続で討伐されました……。みんな固有スキルがどうとか、ステータスがどうとか言いながら魔王軍に突っ込んで、一瞬でミンチに……」
なろう系のテンプレに毒された自称勇者たちが、現実の魔王軍の前に10人も散っていた。世知辛い。
そんな中、魔王軍の本隊は王都のすぐ近くの都市まで迫っているという。
「アレン、どうする!? ここが破られたら私のこの壁も危ないわよ!」
「どうするって言われてもな……。おいミリア、お前ダンジョンにいた時、壁をスライドさせて移動してたんだろう? この都市の城壁でもできないか?」
「えっ、城壁ごと!? 正気!?」
「自称勇者が全滅した今、動ける最大戦力はお前(の壁)しかいないんだ!」
私は覚悟を決めた。これ以上、私の壁に穴を開けられてたまるか。
私は目を閉じ、王都の城壁、そしてそこから街道沿いに繋がる外壁や隣の都市の防壁へと意識を広げた。繋がっている、すべての「壁」が私の一部だ。
「よーーし! 爆走城壁ミリア、緊急出動よ!!」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!!
王都を囲んでいた長大な城壁が、地鳴りのような轟音と共に地面から浮き上がり、信じられないスピードで動き出した。
私は壁の穴から上半身を突き出したまま、街道を猛スピードで滑走する。
「うわあああああ!? 城壁が、城壁が走ってるぅぅぅ!」
「道を開けろー! 壁が通るぞー!」
避難中の難民や、逃げ惑う王国兵たちの横を、時速100キロ近いスピードで追い抜いていく。
都市から都市へ、障害物を壁魔法で粉砕しながら、私は一気に魔王軍との最前線である荒野へと到達した。
そこは、まさに地獄絵図——――のはずだった。
「あはははは! 楽しいわね魔王! もっと骨のある魔法を使いなさいよ!」
「グヌヌ……なんなのだ貴様はぁぁぁ!」
荒野の中央では、なんと壁から脱出したプロ転生者・アルセリアが、禍々しいオーラを放つ魔王と1対1で楽しそうにタイマンを張っていた。彼女の戦闘力は完全にバグっており、魔王と互角以上に渡り合っている。
しかし、問題はそこではなかった。
「フハハハ! 魔王様に夢中で周りが見えていないようだな、愚かな人間どもめ!」
「我ら魔王軍四天王、これより王都へ向けて進軍を開始する!」
アルセリアの後方から、巨大な魔獣を率いた四天王たちが、彼女を無視してこちら(人間界側)へ向かって大進軍を始めていたのだ。
「ちょっとアルセリア! 横から四天王が攻めてきてるわよ! 止めなさいよ!」
私が壁から身を乗り出して叫ぶと、アルセリアは魔王の攻撃を華麗に避けながら、こちらを振り返ってケラケラと笑った。
「あら、石壁ちゃんじゃない。そんなの気にしなくていいわよ、私の目的は魔王を倒すことだけだし! 雑魚の相手は『壁』の仕事でしょ?」
「雑魚って規模じゃないでしょーが!!」
四天王率いる数万の魔王軍が、爆走してきた私の壁に向かって突撃してくる。
アルセリアは完全に戦闘狂のエンジョイ勢と化しており、防衛のことなど1ミリも考えていなかった。
「……おいミリア、来るぞ」
アレンが青ざめながら剣を構える。
「ええい、もうヤケクソよ! 自称勇者たちに代わって、この『和平の聖女ミリア(物理)』が相手をしてやるわよ! 全員まとめて壁ドン(圧殺)してあげるわ!!」
前方に展開する四天王軍、横で繰り広げられる魔王とプロ転生者の超次元バトル。
世界を救う最後の希望は、なぜか「走る城壁」に託されるのだった。




