第8話:激闘の果てに……って、私だけ壁のまま!?
「ふふっ、どうしたの? さっきの勢いはどこへ行ったのかしら?」
「痛っ! 痛い痛い! ちょっ、顔の横スレスレに黒いトゲ出すのやめて! 壁が、私の壁が穴だらけになる!」
王都のど真ん中で勃発した「壁vs壁」の頂上決戦。
しかし、戦況は圧倒的に私の不利だった。
相手の超絶美女——自称プロ転生者のアルセリアが同化している「漆黒の壁」は、信じられないほど硬く、そして変幻自在だった。
壁から鋭い槍を生やし、ドリルを回転させ、私の安っぽい石積みの壁をゴリゴリと削ってくる。
「ひぃぃっ! やめて、粉吹いてる! 私の体が削りカスになって飛んでる!」
「お前ら! 頼むから俺を挟んだまま戦うな! 削りカスが全部俺の口に入る!!」
二枚の壁の隙間(約30センチ)に挟まれたアレンが半泣きで叫んでいるが、もはや彼を気遣う余裕すらない。
(このままじゃ、本当に壁ごと粉砕されちゃう……!)
私の壁はすでにボロボロで、あちこちに風通しの良い穴が空き、崩壊寸前だった。
だが、その時だ。
「……ん?」
アルセリアの猛攻をギリギリで耐え凌いでいた私の目に、あるものが飛び込んできた。
アルセリアの腹部あたり——漆黒の壁の中心に、ほんの僅かだが「ヒビ」が入っているのを見つけたのだ。
(あそこだ……あそこなら、イケる!)
「アレン、息止めて!!」
「はっ!?」
私は残されたすべての魔力を、自分の壁の「一点」に集中させた。
弾力、硬度、反発力。今まで培ってきたすべての『壁魔法』を乗せ、城壁の一部を巨大な大砲の弾のように勢いよく撃ち出した。
「これで……決まりよぉぉぉっ!!」
ドゴォォォォォォォンッ!!!!!
私の乾坤一擲の一撃が、漆黒の壁のヒビ割れにドンピシャで直撃した。
次の瞬間、ビリビリと亀裂が走り——
パァァァンッ!!
アルセリアと一体化していた巨大な漆黒の壁が、ガラスが砕け散るように粉々に崩壊したのだ。
「やった……! 勝ったぁぁぁ!!」
土煙が舞う中、私は歓喜の声を上げた。
邪魔な黒い壁は消え去り、視界が開ける。アレンも「助かった……」とへたり込んでいる。大帝国軍を退けた「和平の聖女」の意地を見せてやったわ!
しかし。
晴れゆく土煙の中から、カツン、カツンと優雅な足音が響いてきた。
「えっ……?」
そこにいたのは、壁から解放され、すらりとした長い美脚を惜しげもなく晒して立つ、アルセリアの姿だった。
彼女は服についた埃をパンパンと払い、長い黒髪をかき上げながら、ニッコリと微笑んだ。
「ふぅ、助かったわ。さすがの私でも、あの『絶対防壁』を内側から破るのは骨が折れたのよ。まさか、あんな特大の魔力をぶつけてくれるなんてね。おかげで綺麗に脱出できたわ」
「……は?」
私はポカーンと口を開けた。
「狙い通りよ。あなたを煽って、最大火力の魔法を引き出すのが目的だったの。ご苦労様、可愛い石壁ちゃん」
「なっ……最初からそれが狙い!? じゃあ、私が勝ったわけじゃなくて……!」
「ええ、私が『利用して脱出した』のよ」
アルセリアは悪びれる様子もなく、ふふっと笑いながら伸びをした。
「あー、やっぱり自分の足で歩けるって最高ね! さて、この世界の魔王でも探しに行こうかしら」
軽やかな足取りで歩き出す超絶美女。
それを見送る私。
「…………」
下を見ると、私の体は相変わらず、穴だらけでボロボロになった石積みの壁にガッチリと埋まったままだった。
「……ずるい。……ずるいずるいずるい!! なんであんただけ壁から出てるのよ!! 私も出してよぉぉぉ!! 誰かこの壁壊してぇぇぇぇ!!!」
私の絶叫が、平和な王都の空に虚しく響き渡る。
プロ転生者の見事な策略により、見事に「壁のまま」取り残された私。
激闘(?)を制したはずなのに、一番敗北感にまみれているのはなぜなのだろうか——。




