第7話:プロ転生者あらわる!? 壁ドン(物理)と縄張り争い
「目がぁぁぁ……って、あれ?」
強烈な光が収まり、恐る恐る目を開けると、そこはカビ臭い地下迷宮ではなく、見慣れた青空……のはずだった。
だが、視界は真っ暗。いや、日食ではない。
私の目の前に、視界を完全に塞ぐ「真っ黒で長大な壁」が、ズドーン!とそびえ立っていたのだ。しかも、私の鼻先わずか数十センチというありえない至近距離に。
「な、何これ!? まっくら!」
「お、戻ってきたかミリア! 無事だったか……って、おい! なんだその巨大な黒い壁は!?」
下からアレンの驚く声が聞こえる。どうやら私は、無事に王都の定位置(いつもの城壁)に帰還できたらしい。だが、目の前の黒い壁のせいでアレンの顔も見えない。
「ちょっと、すっごい邪魔なんだけど! どいてよ!」
私が目の前の真っ黒な壁に向かって文句を言うと、突然、壁の中から「深いため息」が聞こえた。
「……はぁ。また強制召喚? しかも今回は『壁』スタートなんて。神様(運営)もだいぶネタ切れね」
「えっ?」
目を凝らすと、目の前の黒塗りの壁から、私と同じように上半身だけを生やした黒髪の超絶美女が突き出ていた。
艶やかな黒髪、透き通るような白い肌、そしてどこか気怠げで色気のある瞳。そんな絶世の美女が、完全に壁と同化している。
壁と壁が向かい合い、美女同士が至近距離で顔を突き合わせる。まさかの「壁ドン(壁が壁にドンしている)」状態である。
「あ、あんた誰!?」
「ん? ああ、私は通りすがりのプロ転生者よ。さっきあなた、ダンジョンの最深部で『召喚の水晶』に適当に触ったでしょ? アレのせいで、別の異世界で大賢者をやってた私が引っ張られて、この『漆黒の絶対防壁』ごと召喚されちゃったじゃない」
超絶美女は壁に埋まっているというのに、やたらと冷静だった。というか、完全にこの手の理不尽な事態に慣れきっている。
「プロ転生者って何!? っていうか、なんで壁ごと来るのよ! ここ私の定位置(陣地)なんだけど! 日当たりが悪くなるから、さっさとその中二病みたいな黒い壁ごとどっか行って!」
「無茶言わないで。私だって好きで壁に埋まってるわけじゃないわ。というか、あなたこそどきなさいよ。私の漆黒の壁の前に、そんな安っぽい石積みの壁があったら景観が崩れるでしょ」
「安っぽいって言ったわね!? 私はこれで大帝国軍を物理で跳ね返した『和平の聖女ミリア』様よ!(※勝手に命名)」
「知ったことじゃないわ。とりあえず、でかい壁が二枚も重なってたら息苦しくてしょうがないのよ。あなた、さっさと退出なさい」
「ログアウト機能なんてないわよ! あんたが出ていきなさいよ!」
「いや、あなたが」
「あんたが!」
「じゃあ私の黒曜石の壁であなたの壁を削るわよ」
「やってみなさいよ! こっちの壁は弾力マックスにして跳ね返してやるんだから!」
王都のど真ん中で突如始まった、前代未聞の「壁同士の縄張り争い」。
平和の象徴だった城壁のすぐ目の前に、禍々しい黒塗りの巨大防壁が出現しただけでも大事件なのに、当の壁(美女)たちが「お前がどけ」「そっちがどけ」と低レベルな口喧嘩をしているのだ。
見物人たちや兵士たちは、シュールすぎる光景を前にただポカーンと眺めることしかできなかった。
「……なぁ、俺はどうすればいいんだ?」
二枚の巨大な壁の隙間(数十センチ)にすっぽりと挟まれ、身動きが取れなくなっているアレンの切実な声だけが、虚しく響き渡っていた。




