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第10話(最終回):真の壁の力と、平和の代償(物理)

「うおおおっ! 壁を乗り越えろぉぉ!」

「数が多すぎる! 叩き潰してもキリがないわ!」


荒野に押し寄せる数万の魔王軍。私は迫り来る魔物たちを『壁魔法』で次々と弾き飛ばしていたが、さすがに多勢に無勢だ。

壁のあちこちをガリガリと削られ、私の悲鳴が響き渡る。


「痛い痛い! ちょっ、槍で突かないで! くすぐったいし痛いから!」

「ミリア、俺は一旦壁の上に退避する! 下は完全にパニックだ、あとは任せたぞ!」

「ちょっとアレン! 私を置いて安全地帯に逃げるなーっ!」


身軽なアレンはさっさと私の頭上(城壁の頂上)へと駆け上がってしまった。

下を見れば、真っ黒な魔物の群れ。遠くを見れば、いまだに魔王と嬉々として戦っているアルセリア。

絶体絶命の大ピンチ。


「もう……限界……っ!」


その時だった。

異世界ファンタジーにおける伝統的かつ絶対的な法則——――すなわち『ご都合主義』が発動した。


『ピコーン! 隠しスキル【城壁無限拡張】が解放されました』


私の脳内に、どこからともなくシステム音のようなものが響いた。

理由はわからない。修行の成果か、ただのヤケクソか。だが、私の中で眠っていた「真の壁の力」が完全に目覚めたのだ。


「……見える。私には見えるわ。この大地を覆い尽くす、無限の壁が!」

「ミリア!? お前、急に全身が光り出して……何をする気だ!?」


アレンの制止も聞かず、私は両手を大きく広げた(※壁から出ている部分だけ)。


「いくわよ……。奥義、超・無限壁拡張ッ!!」


ズギュゥゥゥゥンッ!!!


私の左右に伸びていた城壁が、音速を超えたスピードでゴムのように伸び始めた。

ズゴゴゴゴゴ! と土煙を上げながら荒野を爆走する壁の先端は、魔王軍の背後に回り込み、やがて広大な戦場全体を「円」を描くように完全に包囲してしまった。


「な、何事だ!?」

「周りがすべて巨大な壁に囲まれたぞ!?」


突然の檻に戸惑う四天王と数万の魔物たち。

もちろん、その円の中には魔王とアルセリアも含まれている。


「あら? 石壁ちゃん、ずいぶんと面白い芸をするじゃない」

「フン、小賢しい壁め! こんな檻、我が魔力で吹き飛ばして……」


「甘いわよ! そのまま……潰れなさぁぁぁぁい!!」


私がギュッと拳を握り締めると、数万の軍勢を包囲した長大な壁が、恐るべきスピードで内側へと収縮を始めた。

迫り来る、逃げ場のない四方八方からの分厚い石壁。


「待て! 待つのだ! 余は魔王——―」

「ぎゃああああ!」

「潰れるぅぅぅっ!」


【※ここから先は凄惨な光景のため、映像を暗転し、可愛らしいお花畑の映像でお送りいたします】


メチャァッ! バキィッ! グシャァァァァッ!!


「あはは! さすがの私もこれに巻き込まれるのは御免ね! じゃあね、石壁ちゃん!」

アルセリアは間一髪のところで転移魔法(?)を使い、優雅にウインクを残して光と共に消え去った。


そして数秒後。

戦場を包み込んでいた巨大な壁は完全に密着し、数万の魔王軍、四天王、そして魔王までもが、一つの巨大な「圧縮されたシミ」となって消滅したのだった。


シーン……と静まり返る荒野。


「……や、やった。やったわ! 魔王軍、全滅よ!」


壁の上から恐る恐る下を覗き込んだアレンが、震える声で呟いた。

「お前……本当に一人で戦争終わらせやがった……」


かくして、人類の脅威は去った。

私が王都へ帰還すると、国王をはじめとする民衆が涙を流して私を称えた。

「おお、聖女ミリア様! あなたは我らが王国の救世主です!」

「これで世界に平和が訪れます!」


私は壁の穴からドヤ顔で手を振り、最高のハッピーエンドを迎えた。

——――かに見えた。


数日後。


「えー、こちらが今回の魔王軍討伐に伴う、被害総額の請求書になります」

「……はい?」


王都の財務大臣が、私の目の前(壁)にドサリと分厚い書類の束を置いた。


「ミリア様が都市から都市へ爆走し、さらに壁を無限拡張した結果、主要な街道の完全破壊、近隣3都市の市街地半壊、および広大な農地が修復不可能なレベルで抉り取られました。」

「あ……いや、でも魔王軍を倒すためには仕方が……」

「もちろん、国を救っていただいたことには感謝しております。ですが、この莫大な経済的損失とインフラ再建費用は、物理的に補填していただかねばなりません」

「ヒッ」


「というわけで、ミリア様。明日から、崩壊した都市の防波堤、街道の舗装材、およびトンネルの補強材として、24時間体制で働いていただきます。」


「うそでしょぉぉぉぉぉっ!?」


こうして、世界を救った最強の城壁の、地獄の労働ライフが幕を開けた。


「すんませんしたぁ! ああっ、そこ削らないで! 今コンクリート流し込むから!」

「ミリア、お辞儀の角度が足りないぞ! ほら、もっと壁を前に傾けろ!」

「アレン! あんた現場監督になってんじゃないわよーっ!」


朝から晩まで、私は頭を下げながら(壁を傾けながら)、破壊したインフラの補修工事に駆け回るハメになった。

莫大な借金(修繕費)を返すため、私の壁ライフは今日も続く。


(こんなことなら、大人しく普通の村人Aに転生したかったよぉぉ……!)


青空の下、私の虚しい叫びが響き渡るのであった。



【異世界転生したら壁に埋まりました 〜助けてください、本当に〜】 完

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