第5話:目覚めたらダンジョン!? 動く壁の恐怖の迷宮
「ふわぁ……よく寝た。アレン、今日の朝ごはんは……って、暗っ!?」
目を覚ますと、そこはいつもの青空の下でも、平和な城下町でもなかった。
カビ臭い空気、薄暗い松明の灯り、そして苔生した石畳。
「いやいやいや! どういうこと!? 昨日まで城壁だったのに、なんで急にダンジョンの壁に埋まってんの!?」
転移魔法の暴発か、はたまた神様(作者)の気まぐれか。気がつけば、私は地下迷宮の真っ只中、ジメジメした迷宮の壁と完全に一体化していた。
パニックになっていると、暗がりから足音が近づいてきた。
「ギギャ……?」
「うわっ、ゴブリン! こっち見んな!」
ヨダレを垂らした醜いゴブリンが、壁から生えている私を見て涎を垂らしながら棍棒を振り上げた。
「やめろぉぉ!」
ドスッ!
私が叫んだ瞬間、私の隣の壁から鋭い石の槍が勢いよく飛び出し、ゴブリンを壁ごと串刺し(というか彼方へ弾き飛ばし)にした。
「あっ……そっか。ここの壁も私の一部なんだ」
城壁での特訓の成果か、ダンジョンの壁でも私の『壁魔法』は健在だった。
だが、安心したのも束の間。今度は武装した荒くれ者たちが走ってきた。
「おい見ろ! レアな『壁擬態モンスター』だぞ! ドレスを着た女の姿をしてやがる!」
「コアを抉り出せば高く売れるぜ! 削れ削れー!」
「モンスターじゃない! 人間だってば! っていうかツルハシ持ってくるな! 痛いから!!」
問答無用で襲いかかってくる冒険者たち。私は自分の身(=壁)を守るため、容赦なくダンジョンの防衛システムを起動させた。
「ええい、お仕置きよ!」
パカッ!
「「うわあああっ!?」」
冒険者の足元の石畳(これも私の一部だ)を突然スライドさせ、即席の落とし穴を作成。
さらに後ろから迫る増援には、
ドゴォォォン!
「ぐえっ!?」
天井の石を巨大なハンマーに変形させてモグラ叩き。
それでも懲りずに魔法を撃ってくる魔法使いには、壁から巨大な石の手を出して、容赦ないデコピンで吹っ飛ばした。
「ふふん、私の壁魔法を舐めないでよね!」
冒険者たちを全滅(気絶)させ、ドヤ顔を決めた私。
その時、ふと不思議な感覚に気がついた。
「あれ……? 城壁の時は『自分の周りの壁』しか感じなかったけど……ダンジョンって、地下から天井まで全部繋がってるよね?」
目を閉じ、意識を広げてみる。
すると、第1階層から最下層に至るまで、巨大なアリの巣のように入り組んだ迷宮全体の構造が、自分の手足の神経のようにハッキリと知覚できたのだ。
「これ、ひょっとして……」
私は、自分が埋まっている壁そのものに魔力を流し込み、キャタピラのように『表面をスライド』させるイメージを持った。
ズゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
「お、おおおおっ!? 動いた! 動いてる!!」
なんということでしょう。私が埋まっている壁面が、まるでエスカレーターか動く歩道のように、横へ横へとスライド移動を始めたではないか。
角に差し掛かれば、曲がり角の形状に合わせてニュルリと方向転換。私は壁から突き出たまま、ダンジョン内を自由自在に(壁伝いに)移動できるようになったのだ。
「あははは! すごいすごい! これならどこへでも行けるじゃん!」
一方、ダンジョン探索中の他の冒険者たちは地獄であった。
「なんだあれ!? 壁が……女の子が生えた壁が猛スピードで迫ってくるぞ!?」
「道を開けろーっ! 轢かれる!!」
「ヒャッハー! 通りまーす! 道の真ん中歩いてる奴は壁ドン(物理)していくわよー!」
静かな地下迷宮は、前代未聞の「自走式トラップ壁娘」の爆走ツアーにより、大パニックに陥るのであった。
アレン、今ごろ私が消えて探して泣いてるかなぁ……と、少しだけ申し訳なく思いつつ、私のダンジョン掌握ライフは勢いよく幕を開けた。




