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第3話:防衛戦線異常あり! 壁魔法(物理)の恐怖

鐘の音が鳴り響く。平和な城下町は一転、戦場と化した。


「敵襲! 隣国のグランベル帝国軍だ!」


アレンが剣を抜き、城壁の上で兵士たちを指揮している。そして壁の中腹(私)の目の前には、地平線を黒く染める帝国軍の軍勢が迫っていた。


「えっ、ちょっと待って! 私、絶賛壁に埋まってるんだけど!? 逃げられないんだけど!?」

「落ち着けレイナ! お前は城壁なんだから、ある意味一番安全だ!」

「いやここ最前線じゃん!!」


帝国軍の先鋒部隊が城壁に肉薄する。しかし、彼らは一斉に足を止めた。


「……おい、なんだあれ」

「壁から……銀髪の女の子が生えてるぞ?」

「新手の生贄か? いや、ドレスを着てるし……幻術か!?」


敵兵たちがざわついている。そりゃそうだ。私も逆の立場ならドン引きする。


「幻術じゃないわよ! 物理よ! 見世物じゃないんだから早く帰りなさいよ!」

私が叫ぶと、敵の部隊長らしき男がハッとして号令をかけた。

「ええい、構わん! ハシゴをかけろ! 城壁を乗り越えるんだ!」


ガチャン! ガチャチャン!


次々と、私と一体化している城壁に攻城用のハシゴがかけられる。


「ひゃんっ!?」


重たいハシゴが引っかかる感触、そして、ゴツゴツした鎧を着た兵士たちが登ってくる振動が、ダイレクトに伝わってくる。


「あっ、ちょっと、そこ! くすぐったい! ブーツの裏がザラザラしてて気持ち悪い!」

「うわっ、壁が喋った!?」

「というか、登らないで! ええい、落ちろ!」


私は『壁魔法』を意識し、ハシゴがかけられている部分の壁を、ブルンッ!と力強く波打たせた。


「「「うわあああああっ!?」」」


ガラガラガッシャーン!

ハシゴごと、数十人の兵士が見事に振り落とされる。


「なんだあのふざけた城壁は! ええい、弓兵! 魔法部隊! あの喋る壁女を狙え!」

部隊長が顔を真っ赤にして指示を出す。


「ちょっ、卑怯よ! 動けない相手に!」


ヒュンヒュンヒュン! ドカン! バチバチッ!


火矢と下級魔法が、私……の周辺の壁にパラパラと直撃する。


「あちっ! いたたっ! 熱い! 静電気みたいにチクチクする!!」


大ダメージではないものの、地味に痛い。火の粉が飛んでくるし、魔法の余波で壁全体がピリピリ痺れる。

「レイナ、大丈夫か! 盾兵を回すから少し耐えろ!」

上からアレンが叫ぶが、それどころではない事態が進行していた。


「フハハ! ちょこまかと小賢しい壁だが、これで終わりだ! バリスタ隊、放て!!」


敵陣の後方から引きずり出されたのは、巨大な攻城兵器バリスタ。そこに装填されているのは、私の顔よりはるかに巨大な岩だった。


「嘘でしょ……あんなの当たったら、壁ごとミンチになる……!」

「総員、伏せろぉぉっ!!」


アレンの絶叫と共に、ドゴォォォン!という轟音を立てて、巨大な岩が私めがけて一直線に飛んできた。


(死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! 絶対に無理!! 弾き返してやるうぅぅっ!!)


恐怖と生存本能が極限に達した瞬間、私の『壁魔法』が再び暴走した。

飛んでくる巨大岩の軌道上、私の目の前の城壁が、ズゴゴゴゴッと尋常じゃない音を立ててせり出した。

ただの壁ではない。なめらかなカーブを描く、巨大なスライムのような、トランポリンのような、謎の弾力を持った超特厚の石壁が形成されたのだ。


ボヨォォォォォンッ!!!


激突した巨大岩は、城壁を破壊するどころか、超絶な弾力によって完全に勢いを殺され——そして、飛んできた時以上の猛スピードで跳ね返った。


「えっ」

「は?」


私と敵部隊長の間の抜けた声が重なる。

反射された巨大岩は、そのまま帝国軍のど真ん中、先ほどのバリスタの真っ只中へと見事にホールインワンした。


ドッッッッッゴォォォォォォォン!!!!


盛大な土煙と悲鳴が上がり、敵の主力兵器は一瞬にして鉄屑と化した。


「……化け物だ! あの城壁、生きてるぞおおお!」

「撤退! 撤退ィィィ!!」


パニックに陥った帝国軍は、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


土煙が晴れた後。

上空の城壁から、アレンが呆然と下(私)を見下ろしていた。


「お前……もう一人でこの国の防衛できるんじゃないか……?」

「やったぁ! 防衛ボーナスで今日の夕食はお肉増量ね!!」


私は壁の穴から満面の笑みでガッツポーズをした(上半身しか動かないけど)。

難攻不落の『しゃべる要塞』の伝説が、ここから近隣諸国へ轟くことになるとは、この時の私はまだ知らなかった。

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