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その血は人を狂わせる。  作者: ありま氷炎
第二章 殺されるべき娘
8/30

二人で食べる揚げドーナツ


「ありがとう」


 小さな空気穴は、小さい子どもしか通れないほどの空間だった。

 そこをくねくねと蛇のように進んだら、レイアのいる部屋の上に辿りつく。

 レイアを訪ねにくるのは、マルクとチャーリーだけだった。

 使用人はおらず、レイアは身の回りのことをすべて自分でしている。

 ただ洗濯などはもちろん、レイアのものと分からぬように外に出している。

 夜は大概レイア一人なので、合図をしたら、天井の一部を外して中に入った。


「どうしたの?今日は二度目よ」

「これ、食べたいっていっただろ?」


 ベッドから体を起こしたレイアに、セオは汚れないように三重の布で包んだ揚げドーナツを渡す。


「ありがとう!美味しそう」

「美味しいよ。味は保証する。でも見つからないようにな」

「それだけ、もう帰るの?」

「あ、う」


 上目遣いで見られ、セオは言葉を詰まらせる。

 レイアがとても可愛く見えてしまって、頬が赤く染まるのを止められなかった。

 しかし部屋は闇目に慣れた目でやっと周りが見えるくらいなので、セオは自分の様子に気づかれないことにほっとした。


「今、食べてもいい?」

「え、いいけど」

「一緒に食べよ」

「え?ええ?だってレイアのために」

「私、人と何かを一緒に食べた記憶がないの。どんな感じかなあって思って」


(ということは、いつも一人で食べてたか。仕方ないよな。レイアの存在は明かしてないし、マルクや父親の王様が一緒に食べるわけないし)


「じゃあ、食べようぜ。折角だから明かりつけようぜ」

「うん」


 レイアは笑顔で頷き、セオの胸はまたドキドキした。

 ベッドの横の蝋燭に明かりをつけると、部屋がほんのり明るくなった。


「美味しそう」

 

 手元の揚げドーナツを見つけて、レイアはうっとりとつぶやいた。

 けれども、きっちり半分にちぎって、セオに渡した。


「俺、小さいほうでいいよ」

「ううん。私、そんなに食べれないから」


 レイアはずっと地下にいるので、日に当たっておらず真っ白だ。その上、小食で、かなり細い体をしていた。

 同年齢と比べれば二歳くらい下に見える。

 

(こんな体なのに、採血してるなんて)

 

 採られる血の量は知らないが、細身の彼女から血を取るなんてあまりにも酷いとセオは怒りを燃やした。早くこの場から助けてあげようと心に決める。

 仲間に話したので、すぐに救出作戦が立てられるだろう、とセオは楽観視していた。

 その後、彼らがまさかレイアを殺す計画を立ててるなど、純粋な彼は思ってもいなかった。


「美味しい。甘い~」


 小さな口を頑張って大きく開け、ドーナツに齧り付いたレイアは顔いっぱいの笑顔を浮かべた。


「セオも食べて」

「あ、うん」


 また見惚れそうになっていたセオもドーナツに齧り付く。

 砂糖の甘みが口いっぱいに広がり、セオも思わず笑顔になった。

 彼もこの揚げドーナツは大好きなのだ。

 外の世界で一番好きな食べ物がこの揚げドーナツだった。


「じゃあ、また明日」

「うん」

「あ、ごみは持って帰るよ」

「うん。ありがとう」


 揚げドーナツの袋などあれば、すぐにマルクに疑われてしまう。

 なのでセオはしっかりごみを回収して、再び天井に登って元来た道を蛇のようにくねくねになって、戻っていった。


 ★


「セオ。揚げドーナツ、喜んでた?彼女」

「な、なんで知ってるんだ?あ、アーロンだな」

「まあ、まあ。で、喜んだ?」

「喜んだ。あいつ誰とも一緒に食事したことがないみたいで、一緒に食べた。嬉しそうだった」

「そう」


 リアムは嫌なことを聞いてしまったと内心思ったが、顔には出さなかった。

 彼にとって、娘は最終的に殺す予定で、情報は何も必要ない。

 揚げドーナツの事を聞いたので、単にセオと娘の関係を知りたかったからだ。

 この様子では娘はセオをかなり信頼しているようで、計画は問題なく実行できそうだとリアムは判断した。

 ちなみに二人は城内のゴミが集められる場所にいる。

 この場所は匂いがきついので人が少ない。

 清掃担当の使用人がたまにごみを捨てにくるが、その時間は二人で把握している。


「あと三日後に、採血でしょ?その夜に計画を実行するつもりだよ。その夜マルクは忙しいし、王様も二度はこないだろうし」

「わかった。俺の抜け穴を使って外に連れ出す」

「抜け穴って。セオは大丈夫だけど、その子は大丈夫?」

「大丈夫だよ。レイアは体がちっさいんだ。十四歳のはずなのに、十二歳の子どもみたいだ」

「そう」


 リアムはまた余計な情報を聞いたと思ったが、表情は変えていない。


「じゃあ、また」

「うん」


 リアムが先にその場を離れ、セオが手を振って見送る。

 それからゴミを捨てて、持ち場に戻った。

 

 

 

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