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その血は人を狂わせる。  作者: ありま氷炎
第三章 クルスナラハ
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カルシア王国駐屯兵


「揚げドーナツ!」


 レイアはそれを発見してしまい、思わず声を上げる。

 彼女の声は高い方でもないし、ましてや今の見た目は十二歳くらいの少年だ。

 性別を疑われることもない。

 活気がないと思っていたが、市場には人が集まっていて、そこではいくつか店が開いていた。


「『ケイ』、たまには違うもの食べようぜ。俺、あの串焼きが食べたい」

「串焼き?」


 城の地下育ち、しかも一応王女である彼女には、市井の食べ物がなんでも珍しく映る。


「父さん、あれ、買っていい?」


 腐ってもセオは精鋭の一人だ。

 浮かれて設定を忘れるなどはありえない。

 背後にいるエディに確認すると、彼は頷く。懐から巾着袋も取り出した。

 エディは図体が大きく、髪も反り上げているため、見た目が凶暴だ。

 串を焼いていた店主がすこし怯えている。


「おじさん、これとこれ下さい」

「いいよ。一シリンでいいよ」

「ありがとう」


 セオが串焼きを受け取り、エディが銀貨を一つ渡す。

 串焼きは二種類で、一つは羊の肉が四切れ、もう一つは輪切りにされたじゃがいものが四つ刺さったものだ。

 

「半分ずつ食べようぜ」

「うん。あ、でも」


 エディの分がないと、レイアは背後のエディを見る。彼は首を横に振る。


「お父さんはお腹が空いてないんだよ。ほら」


 セオはまず羊の串焼きをレイアに渡し、自分は輪切りにされたじゃがいものを一つかじる。

 

「あつ、うまっ」


 セオは熱さで涙目になりながら言い、


「じゅうって口の中で溶けた!美味しい」


 レイアは微笑む。


 エディはいつもより穏やかな顔で二人の和やかな様子を眺めていた。


「お前ら、どこから来た?」


 不意に横暴な声がした。

 エディがセオたちの前に立ち、男を睨む。


「反抗的な態度だな。お前、不死身の兵士になりたいのか?」


 男は偉そうな態度を崩さず、背後の部下に指示して剣先が黒光りしている小剣を持ってこさせた。


「これでお前を少しでも傷つければ、すぐに不死身の兵士になる。なりたいか?」


 不死身の兵士、これは人が狂った状態で、意志を失い死ぬまで戦い続ける状態の人間のことだった。

 痛みも感じないらしく死ぬまで動き続けるので、人ではない、化け物という認識を人々にされ始めている。

 街の人は男の言葉を聞くと次々に店をたたみ始めた。


「お前のせいで、店をたたみ始めたぞ。おい、こら。勝手に閉めるな。俺たちが許可をしてないだろ?」


 制服を着ている者が数人で、後は各々の好きな格好をしていて、セオは男たちがカルシア王国の兵士であることに最初気づけなかった。

 しかし、男の態度、住民たちの怯え方を見て、横暴な統治をしているカルシア王国軍であることに気が付いた。


「店をたたむなら、まず今日の分のみかじめ料を払いな」

「隊長様。無理言わないでください。今日はまだ半日も開けていません。売上などほとんどない状態です」

「さっき、このガキどもに売っていただろ。その稼ぎを寄越せ」

「無理でございます。私たちにも家庭があり、そのお金を取られたら暮らせません」

「うるさいぞ」


 男が店主を締め上げようとしたとき、エディが動き男の腕を掴んで止めた。


「このくそ!」


 男は暴れ、持っていた毒を塗った小剣をエディへ振るう。

 エディは直ぐに男から離れたが、少し腕を切られてしまった。


「ははは!ざまあみろ!」


 男は高笑いするが、他の者は完全に逃げ腰だ。

 店を開いていた者は荷物を収納し終わり、すぐに逃げ出した


「お!お前ら!」


 追っかけようとした男の首を掴み、エディがその体に持ち上げる。


「く、苦しい。な、なんで」


 森の民でなければ、不死身の兵士へ変容していただろう。

 しかしエディは生粋の森の民だった。


「くそ、誰でもいいから不死身の兵士を投入しろ!」


 隊長が叫び、部下が新たな毒を取り出す。

 自分は触れないように丁寧に手袋をしている。


「だめだ!」


 セオが毒を奪おうと走り出したが、時は遅く、一人の部下が逃げだした住民の一人に矢を放つ。


「お父さん!」


 矢を射かけられた男の前を走っていた子供が立ち止まったが、すぐに横にいた母親が子供を抱き抱えて走りだした。

 街の住人たちは、普通の人が不死身の兵士になり、狂ったように人を襲うのを何度も見てきた。

 あるものは子を襲い、あるものは妻を殺した。

 子が親を殺したこともあった。

 不死身の兵士は近くにいる者に襲い掛かる。無差別だ。


 不死身の兵士に変えられた住人が変容する。

 目を血走らせ、口から涎を垂れ流す。

 しかし男は、セオたちではなく、近くにいた住人に襲い掛かろうとした。


「くそっつ。制御不能か」


 矢を放った部下は忌々しげに吐き捨てる。


「だめ、襲わないで!」


 レイアは堪らず走り出し、セオがぎょっとして追いかける。

 セオの動きは早く、彼女が不死身の兵士に近づくよりも早くに止めることができた。


 不死身の兵士は、レイアの声に反応して、動きを止めている。

 以前見たように、不死身の兵士は涙を流す。

 そして口を動かして何かを訴えようとしていた。


「なんだ?」


 カルシア王国の兵士たちは、不死身の兵士が己の意志を持っている状態を見たことがない。狂ったように人を襲うだけだったので、こうして何かを訴えようとしていることに驚く。

 今のうちに逃げたほうがいい。

 けれども、レイアは逃げないだろうと、セオは知っていた。

 彼女の目的は、すべての不死身の兵士を眠りにつかせることだ。


「ごめんなさい。私のせいで。眠って。誰も襲わずに眠って」


 彼女が不死身の兵士に向かってそう言うと、操り人形の意図が切れたように、一気に脱力して、地面に倒れ込む。


「な、何が起きてる?」

「とりあえず逃げるぞ!」


 レイアの願いは果たされたと、セオは彼女の手を取り、逃げ惑う民衆に紛れて逃げ出そうした。

 エディがその動きに追随する。

 そしてセオに追いつくと、レイアをひょいと掲げて、全速力で逃げる。

 セオは置いて行かれないように、エディに必死に食いついた。



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