160話 冒険者ギルド
冒険者ギルド。それは異世界に行った主人公たちがよくお世話になる組織。
何の後ろ楯もなく、出身地すら不明な主人公に身分を与えて、仕事を斡旋してくれる、とてもありがたいご都合主義なシステムだ。
まあ、この世界だと酒場でやっていた仕事と被ることになるな。マスターも引き込もうっと。
登録されたメンバーは冒険者と呼ばれ、仕事の能力に応じてFランクから順にE、D、C、B、Aとランクが上がって行く。
Aの上にはさらにS、SS、SSSランクなんて特別ランクもあったりする。
国を跨いだ組織で、その身分証は国家間を移動する際にも使えたりする。
「と、そんな感じの組織だ」
「要するに、エルフの里にある門をくぐるのに、登録をした身分証が必要になるって感じですかしら」
それだと、遊園地の入場チケットみたいな感じだけど……まあ、おおむね合ってるか。
「その代表者がシンディになるんですね。私たちにも手伝えることは無いんですか」
「なんでもするでござるよ」
ちびっ子達は協力的だな。
「もちろんあるとも。お前たちには受付業務を頼みたい」
美人受付嬢も定番だからな。
窓口は二十四時間営業だから、三交代の激務だ。
おっと、一人は男だった。受付嬢という言い方はマズいな。
「いや、それなら代表は旦那がやるべきだろう?」
おや、シンディも受付がやりたいのかな? 別にギルド長が受付やっててもいいんだけどな。
「俺は表面的な管理仕事ではなくて、裏の管理をするから」
「裏とか言ってる時点で不安しかねえよ」
いや、絶対必要になると思うんだよ。
と、言うことで、各国首脳による合意のもと冒険者ギルドは発足した。
本部、というかギルドの建物はエルフの里に設置されて、俺たちは当面そちらが拠点となる。
まあ、マッターホルンの方にはいつでもスイッチで帰れるんだけどね。メイベルの所にも顔を出さないとだし。
建物の扉をくぐると、広い空間があり、正面に三つの受付。
左手は大きな掲示板になっていて、数々の依頼票が張ってある。
右にはテーブルが置いてあって、そのまま隣の酒場へと通じる。
階段を上ると、二階には本棚が並んでいて、ここの本は誰でも読んで良いことになっていた。
今日もまた、一人の若者が冒険者ギルドへと訪れる。
大勢の人間が出入りする木床には、掃除をしても取りきれない土くれが渇き、喉や手をかすれさせる。
若者が向かう先は冒険者登録と書いてある窓口。
どうやら、若者には文字を読めるだけの教養があるようだ。
「冒険者ギルドへようこそ。ご登録でしょうか?」
受付に座る女性はエルフ。若者はその美貌を見て視線を泳がせる。
「あの、冒険者になりに来ました」
最近は故郷から出て、冒険者として身を立てようとする若者が増えているようだ。決して楽な仕事ではないが、家業が合わなかったものや兄弟が多い家庭から自立を考える者など様々だ。
中には家や仕事、社会、人生、恋人などから逃げ出した挙げ句に流れ着く者もいる。
「はい。では説明をさせていただきますね」
受付嬢は淀みなくギルドのシステムについて説明を行う。もう何度も同じ内容を繰り返したのであろう。全て暗記しているようだ。
「まずは、Fランクから始めていただくことになります」
「あの、Fランクってどういう意味なんですか?」
「ふりーたーとか言う、まだ職業が定まらない、短期雇い労働者の事を指すという話です」
「なるほど。今の僕の状態ってことですね」
若者は納得した様子だ。
そして自分の名前とランクが記載されたカードを受けとる。
とても前向きになれる気がする手触りのカードだ。
「このカードが身分証になります。無くさない様に気を付けてください」
「すごく精巧な模様のカードですね」
カードは一部に金属や透明素材も使用していて多層構造になっている。そして微細な模様が掘ってあり、角度を変えると登録番号が見えたり隠れたりする。
側面にも文字が掘ってあり、冒険者カードであることが判る。
日本の高額硬貨でも使われている偽造防止機構である。
まあ、アースクリエイトとコピーを駆使すれば精巧に作るのはお手のもの。この世界の技術で偽物を作るのは困難だろう。
とはいえ、魔法のあるこの世界、どんな方法で偽造されるかなんて判ったものではないけれどね。
そうなったら追加で対策を増やす感じになるだろうか。こういうのは常にいたちごっこだ。
「北の門をくぐる時や、仕事を受ける時にご提示下さい。他の国や街へ入る際の身分証としても使えます」
そのように交渉して通してもらったのだ。各国の一番偉い人に。
登録情報の共有を条件にされているけど。
「登録料も無しで、そんなカードを貰っても良いんですか?」
「はい。ですが、依頼達成の実績が無い場合には使用できなくなりますのでお気をつけください」
登録したと同時にこっそり顔写真込みでデータがファイリングされる。
写真撮影機はまだ一般には知られていないな。
そして、受付では都度、本人確認と実績の記録が行われているのだ。
全てこの本部で一括管理なので、その資料は膨大なものになるになるだろう。まあ、そのうちではあるが。
今はまだ、冒険者なんて破落戸と変わらない程度の評価しか受けていない。人数もそこそこ。
「分かりました。すぐにできる仕事がありますか? お金があまりなくて……」
「ギルドに併設された寮であれば、登録初日は無料で泊まれます。翌日以降は一泊大銅貨五枚になります」
懐かしいな、俺が始めてファーレンの酒場に行った時の事を思い出すなぁ。
「ありがとうございます。使わせてもらいます。仕事はどんなのがあるんですか?」
「Fランクですと、薬草の採取をお勧めしています。北の門を抜けた先で採れる薬草ですが、十本採取すれば銀貨一枚になります」
北の大地は植生が大きく変わっていて、効能の高い薬草なんかもあるようだ。今のところ研究目的としても需要があり、継続して売れる。
その分というか魔物も強いのだけれど。
「狩りをしたい場合は、北門を行くのではなく、最初は南の森か、その先の平原でされる事をお勧めします」
黒虫を倒して、甲殻を素材として持ち帰る事が安定してできるなら、Eランクに昇格である。
この時点で探索者の仲間入りって所だな。
北の大地へ探索に行く最低条件だ。
そして、メイベルの世界樹がある探索拠点で活動できるようになればDランクなのだが……。
「おいおい、いつから冒険者ギルドは子供の遊び場になったんだぁ?」
柄の悪い大男が若者に絡みだす。
そこそこの力があればDランクまでは行けるのだが、そこから先はいわゆる未踏破地帯。
魔物も強力になって行く。
北に出てすぐでも、最初はティラノサウルスとかいたしなぁ。
そして、Dランクになったは良いものの、北の拠点での活動が辛くて、ここに戻っては管を巻いている冒険者が一定数できてしまっている。
万年Dランク冒険者というやつだな。
……本当にそんな存在ができるとは、恐るべしDランク。
「ぼ、冒険者には誰でもなれるんでしょう?」
上から覗き込むように威圧する大男に、腰が引けつつも頑張っている若者。
一瞬受付嬢の方へ視線を向けたのだが、我関せずの態度をとる受付嬢に失望したか、はたまたその美貌に奮起したか。
「お前みたいな弱そうなやつに冒険者を名乗られたんじゃなぁ、俺達まで舐められちまうんだよぉ」
いやもう、テンプレ過ぎて悲しくなるというか、その言葉が俺の心にも刺さるというか。
……そんな悲しい現場を吹き飛ばす声が二階から降りてくる。
「おい、ジャック。新人に絡むんじゃねえと何回言えばお前の脳は憶えるんだ?」
降りてきたのは大柄で胸の大きな赤毛の女性。
まあ、シンディである。
ちなみに、受け付けのエルフ女性はエレメアだ。普段とは口調が違うけど。
「すいやせん、姐御。新人に冒険者の心得を語っておりましたっ」
直立不動になって答える大男。
「ギルド長と呼べ。本当に脳味噌あるのか、お前は」
まあ、筋肉の量が多いんだろうな。脳味噌の中も。
しかし、いつもながら見事なギルド長ぶりである。やっぱり適任だろ。
まあ、何年もギルド長をやっていれば風格も出るというものだ。
エレメアの事務口調も面白いんだが、シンディのお頭ムーブと来たらもう……
ダンッ、ダァァン。
シンディが床を踏み鳴らし、冒険者達が怯える。
「ギルド長、今日は機嫌の悪い日かな?」
「こういう日は大人しくするに限るぜ」
いや、単に床下に俺が隠れてるところを踏みつけてきたってだけなんだけどな。
二回踏んだら呼んでる合図、なんて決めた覚えはないんだけど。




