クリスマス①
(・・・おばあちゃん・・・)
重い気分の中、目を覚ましました。
カーテンの隙間から見る空は白く、雪が降っています。
(・・・だるい)
涙を流しながら、しんみりするも、猛烈な体のだるさに、寝返りすら打てません。
スマホの画面を見ると、朝の8時半でした。
(・・・まだ、寝てられる・・・)
そう思い、目を閉じると、
「癒雫ー、起きてる?」
お母さんが部屋へ入って来ました。
「・・・なんかだるい」
枕に顔を埋めながら、やっとそれだけ絞り出しました。
「9時になったら買い物行くけど、どうする?待ってる?」
「行く・・・!」
買い物、と聞いて、わたしは重い体を起こします。
買い物行かないと、家の中に1人でずっといなきゃいけなくなります。
そんなの嫌です。
「無理しなくていいのよ?」
お母さんが心配そうに言いました。
「・・・コーヒー飲むから、大丈夫・・・」
わたしはスマホから充電器を外しました。
ごはんを食べて、コーヒーを飲んで歯を磨き、着替えを済ませ、車の助手席に乗り込みます。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫」
「車の椅子、倒して横になっててもいいからね」
「・・・渡霜を出たらそうするよ」
お母さんとそんな会話をしながら、わたしは眼鏡ケースから、桜色の縁の眼鏡を出して掛けました。
「新しく買ったの、どう?」
お母さんに聞くと、
「うん、いいよ」
お母さんは、短くそう言います。
「外に出ても、似合うかな?」
「大丈夫大丈夫、かわいいわ」
お母さんは、車を発進させました。
「しゅっぱーつ!」
「はーい」
わたし達は、渡霜の出口へ向かいます。
渡霜の出口に着くと、少し長い橋ーーー東霜橋の前に着きます。
東霜橋の前には、白いコンクリートで出来た、関所のような所があって、若い男の人が受付をしています。
「今から姉蛇沢に買い物に行ってきます」
関所の前まで来たお母さんが、車越しに若い男の人にそう言うと、若い男の人は無言で、黒い石を2つ、わたし達に渡しました。
「・・・お気をつけて」
男の人がそう言うと、黒い石はわたし達の掌の中に溶けて行きます。
しばらくすると、溶けていった手の方の手首に、黒い線が現れました。
そしてすぐに、スッと消えていきます。
これは封印です。
渡霜の外で、〈祝福〉や〈常世返り〉を使用しない為の。
「・・・行きましょうか」
お母さんは、再度車を発進させ、東霜橋を渡り始めました。
丁度、中間くらいまで来た時でしょうか。
体が光に包まれ始めました。
わたしは虹色がかった白の光。
お母さんは、赤い光に。
光は、東霜橋を渡り切ると弾けて消えて行きました。
そして、再び姿を現したわたし達の姿も変化します。
漆黒の髪と、明るい空色の瞳は、ダークブラウンの一般的な髪と瞳の色に。
視力も落ちて、眼鏡が無いと、前が見えなくなっています。
お母さんも同じで、右側の前髪の一房が銀色の榛色の髪と、赤みがかった、同じく榛色の瞳は、一般的なダークブラウンに変わり、姿も、年相応の中年女性の姿になっていました。
「最初はスーパーに行きましょうか」
「うん」
わたし達は、ちょっと賑やかな姉蛇沢の町を通り、スーパーへと向かいます。
姉蛇沢のスーパーは、渡霜の〈外〉にあるスーパーよりも広く、店内の品も豊富です。
いつもは、渡霜〈外〉のスーパーで買い物を済ます事が多いですが、盆正月、クリスマス、誕生日等の特別な日は、よくここを使います。
ここでは、主に飲み物やオードブル等を買うのですが・・・。
バタンッ!
突然、背後から大きな音がしました。
見ると、入り口で店員さんが買い物かごを整理・・・してるんでしょうか?
上から重ねていました。
「・・・大丈夫?」
お母さんが心配そうに聞きます。
「・・・うん」
わたしは気を取り直して店内をお母さんと歩き始めました。
・・・ああ、防音イヤーマフ、持ってくれば良かった。
店内に入って、しばらくお母さんと商品を物色していると、
「アッハハハハハ!!」
突然、知らない女性2人が、大きな声で笑い始めました。
更に向こうから、男性数人がやって来て、わたしの側まで来ると、いきなり大声で、何か会話し始めます。
(何でいきなり・・・)
しばらくすると、知らないおじさん等数人の人が、お魚コーナーの前で、
「ゴッホン!!」
「エンンッ!ンッ!」
「ウォッンンッ!!!ウッンン!!」
と、立て続けに咳払いをし始めました。
「・・・あの・・・お母さん・・・」
わたしはお母さんの服を引いて、思わず聞きます。
「あの人達、わたしが来たから、あんな風になったの?」
「違う、関係無い。」
お母さんが、オードブルコーナーに目を通しながら言いました。
「この辺乾燥してるから、咳してるだけよ」
「・・・・・・」
お母さんは、それ以上何も言いませんでした。
スーパーで買い物を済ませると、今度は、マクドナルドへ行きます。
桜雫の好きなナゲットを買う為です。
時間は、11時ちょっと前。
もうすぐお昼の時間です。
はぁ、お腹空いた・・・。
「ついでにお昼ごはん買っちゃいましょうか」
お母さんの提案に、
「うん!」
わたしは喜んで頷きます。
マクドナルドの駐車場まで来ると、適当な場所に車を停めます。
「ナゲットとごはん買ってくるけど、癒雫は待ってるのね?」
「うん、待ってる」
わたしは、ここでは車で待ってる方を選びました。
また、物音に驚きたくないからです。
お母さんが車の扉をバタンと閉め、ナゲットとごはんを買いに行くと、車の中はわたしだけになりました。
わたしは鞄からスマホを取り出します。
ネットに繋いで、最初にしたのは、水色の四角の中に鳥が描いてあるアイコンのSNSサイトを開く事でした。
登録はしてますが、自分から発信する事はありません。
基本見る専です。
検索するのは、アニメの感想。
主に、最近見始めた同じ顔をした六つ子の兄弟が主役のギャグアニメの。
座る時、誰の隣に座ってたかでキャラの深層心理を読もうとしたり、時々、というか結構頻繁に出てくる、本編とはちょっと違う世界線の話やパロディネタから、このアニメの世界の事やキャラ同士の関係性を考察したり、本当に色々な呟き
があります。
人の感想や解釈を読むのは楽しいです。
自分とは違う考えや、視点に触れると、凝り固まった思考が少し広がる感じがします。
部屋の中に、新しい空気が入って来る感じ。
たまに、嫌な風が入って来る時があるけれど・・・。
しばらく、時間が経つのも忘れて、数ある呟きを読むのに没頭していました。
何回か、検索するキーワードを変えて、気になる考察を読み漁っていると、ガチャンッと、車のドアが開く音がしました。
「ごめんねー、レジが並んでて少し遅れちゃった。お腹空いたでしょう?」
「ううん、平気」
帰って来るのに時間がかかって謝るお母さんに、わたしは、割と正直に言いました。
いつの間にか空腹だった事を忘れていました。
「はい、これ、癒雫の」
運転席に座り、お母さんは袋からわたしが頼んでおいた物を出して渡してくれました。
「本当にそれだけで良かったの?」
お母さんが心配するように聞いて来ました。
「うん、大丈夫」
わたしは包み紙を取って、中の物を出します。
出て来たのは、普通のハンバーガーです。
「ポテトも頼んで来たから、少しつまみなさい」
そう言って、お母さんは自分の分のビッグマックを片手に、Mサイズのポテトフライを車の真ん中に置きました。
ついついポテトに手が伸びます。
うう・・・おいしい。
「シェイク一緒に飲みましょうね」
更にそう言って、シェイクも差し出されます。
・・・ま、いっか。
わたしは諦めてシェイクを飲みます。
(朝、そんなに食べてないし、いいよね・・・)
冬に飲むシェイクも、なかなか乙なものだなあ。
そんな事を思いながら、車内の食事を楽しみました。
買い物を終え、再び東霜橋までやって来ます。
ガコン、と橋と道の境目の出っ張りを渡る時の音がして、中間くらいまで渡った時、来た時同様、体が光に包まれます。
光が弾けて、元の姿に戻りました。
「買い物、終わりました」
橋を渡り終え、白い関所の男性に話しかけると、掌から、今朝体内に吸収された石が浮かび上がって姿を現します。
出て来た石を、わたし達は、関所の男性に返しました。
「・・・・・・」
男の人は、何も言わず返って来た石を見つめると、そのまま奥の部屋へ引っ込んで行きました。
「さて、最後はケーキを貰いに行きましょう」
すっかり若い姿に戻ったお母さんは、そう言って、車を発進させます。
・・・ケーキ、楽しみだなー。




