第一六九話 再始動 〇三
「……こんなボロっちい砦があるとはねえ……」
『記録に残ってないですね、ここ』
山賊達の足跡を追跡して数時間後……私たちはほとんど崩壊寸前といった小さな砦の前へと辿り着いた。
砦の中では騒ぎが起きており、すでにこっちの存在を認識して防衛体制を整えようという動きを見せ始めている。
戦争中なら奇襲を考えて夜に突入するなんて手段も選べたろうが、砦での戦いは人形騎士には狭すぎるし、もし人質がいた場合巻き込まれてしまう可能性が高い。
それに衛兵隊にはカリェーハ女伯爵からの山賊は皆殺しにせず、数人は無傷で捕まえてくるという命令が降っていたりもする。
これは山賊や人に危害を加えたものは、民衆の前で公開打首の刑に処されるという法律のためで、帝国では犯罪者の死刑がエンタメ化して見せ物になっているという理由もあった。
「完全に籠城させると逆に厄介だが、反撃に移ってもらえれば数人は生かしたまま残せるな」
『駆動音がします、人形騎士ですね』
「ああ、しかも二体だな」
王国製人形騎士らしい独特の鼓動を立てながら、砦の奥から二体のヘルロアが姿を表す……整備はそこそこというところか、装甲の一部はケレリスの部品で置き換えられているのか記憶にある姿とはちょっと違う気がする。
山賊がのっているであろうヘルロアはそれぞれ右肩と左肩が塗装されており青い肩の機体は戦斧を手にしていて、赤い肩の機体は騎兵刀を持っていた。
二機とも一定の距離をとりながら武器を構える……こいつら素人じゃねえなと私はそれをみて思った、構えがサマになりすぎてる。
私はヴィギルスの腰から剣を抜き放つと、二機に向かって切先を向けてから話しかけた。
「おい、降伏するなら死刑までは生かしてやるぞ」
『兄者! こいつ女だぞ……!』
『弟者! 女はどうするかわかっているな?』
『わかっているよ兄者ぁ……俺たちの※※※※※でヒイヒイ言わせてやるんだよ!』
『そうだ弟者よ……お前が後ろ、俺は前で楽しむぞ!』
「……前言撤回、お前らここで殺すわ」
私はそのまま剣を一回軽く振ると弟者とやらが載っている赤い肩の機体へと駆け出す……ほぼ一足飛びに距離を詰めてきた私に驚いたのか、ヘルロアは手に持った騎兵刀を横に薙ぎ払う。
だがその攻撃は私を相手にするには不用意すぎる、左手に持った葉形盾でその一撃を跳ね上げる。
ガギャンッ! という鈍い音を立てて攻撃が跳ね返されたことで弟者とやらは大きく態勢を崩した……その隙を逃さずに私は剣を振り抜く。
しかし咄嗟の動きとはいえ、それなりに経験を積んだ人形使いなのかヘルロアはダンッ! と地面を蹴って後方へと跳躍すると致命の一撃を回避してのけた。
空を切る斬撃がゴオオッ! という音を立て私は舌打ちとともに勢いを殺すように剣をくるりと回転させると、油断なく武器を構え直す。
やるな……無理に踏ん張ったら私の一撃を受けると判断しての行動だろう、戦争経験者だなこいつ。
『あぶねえっ! 兄者、こいつ結構早いよ』
『弟者よ、ここは俺たち兄弟の力を見せる時だッ!』
「……何いって……」
『『行くぞっ!!』』
二機のヘルロアが各々の武器を構え直すと、位置を入れ替えるような動きを見せた後に左右へと別々に駆け出した。
動きそのものは凄まじく早いわけではないが、兄弟かつコンビを組んだ息の合った行動に思わず感心してしまい、私の反応が一瞬遅れる。
それを好機と見たのか弟者の機体が左側から一気に距離を詰めてきた……手に持った騎兵刀をくるりと回転させたヘルロアは、鋭い横なぎの斬撃を放つ。
そしてその行動に呼応したように兄者のヘルロアは音も無く私の右側に進出すると、戦斧を唐竹わりの格好で振り抜く。
『『これぞ我ら兄弟の必殺技……十文字斬りッ!!!』』
「甘いっ!!!」
『な……俺たちの攻撃を……避け……ッ!??』
兄弟による息の合った斬撃が私の駆るヴィギルスへと迫るが、私はまず横凪の斬撃を葉形盾を使って受け流すと共に機体を回転させ、上段の斬撃を難なく避けてみせた。
この攻撃は確かに息が合って回避しにくいが、如何せん中古で整備が完璧ではないヘルロアを使っているが故に、ほんの少しだが同調できていない。
だがもし完璧に整備された機体であったならば……いくら私でもどちらかの攻撃を完全に受け止め、そして後方へと跳躍して回避しなければ無傷でいられたかどうかわからないな。
あまりに鮮やかに攻撃を避けた私が信じられないのか、兄弟ともに完全に動きが止まる……チャンス! と判断すると弟者の機体へと葉形盾を叩きつける。
ゴギャアアッ! という鈍い音と共に盾を叩きつけられたヘルロアが後方へと大きく跳ね飛ばされる……その機体の胸装甲が大きく凹み、衝撃に耐えきれなかったのか生命の水があちこちから漏れ出しているのが見えた。
『うおおおお?! 兄者ああっ!?』
『よくも弟者を……ッ!!』
兄者のヘルロアは戦斧を上段に構えたまま一気に私へと切り掛かってきた……その動きは確かに早く、一流に近い速度で振り抜かれる。
だが、少なからずとも先ほどの連携攻撃を回避された、という動揺が兄者の心に強い動揺を与えていたのだろう、振り抜く速度に迷いが感じられた。
これでは私の命を取るなどできないだろう……その一撃を軽く横へとステップして回避した私は、おもむろに葉形盾の下端部分を相手へと向ける。
実はジーモンと特殊兵装の議論をしていて、思いついたのだが彼の考案したパイルバンカーもとい衝撃杭は構造そのものを改良し盾の裏側スペースへと移設してあった。
一番初期の衝撃杭はあまりに発射時の反動が強すぎたために、腕などに装着すると肩ごともげる危険性があり、とてもではないが実用には耐えないものである。
だがジーモンによる改良を進めた結果、盾の裏に設置できるレベルには小型化に成功し、なおかつ大きなばね仕掛けのカウンターを使った低反動化を実現していた。
『な……』
「前言撤回、一応手加減してやるわ……こいつで死ななきゃな」
『このクソ女……ッ!』
「地獄におちな、坊や」
私がヴィギルスのレバーに付属している予備レバーを引くと、盾の裏につけられた衝撃杭が軽い反動とともに発射される。
低反動化を成し遂げたとはいえ、レバーに伝わる衝撃が凄まじく機体は軽く振動し、反動に耐えきれなかったのか腕が思い切り上へとはね上げられた。
だが凄まじい勢いで飛び出した杭がドゴアァツ!! という派手な音をあげてヘルロアの頭部を一撃で吹き飛ばすと、首がもげた機体から激しい勢いで青く輝く生命の水が噴き出す。
ガクガクと機体が痙攣するようにその力を失ってゆっくりと地面へと崩れ落ちるのを見ながら、私はその機体へと剣を一度叩きつけた後、パトリシアへと魔道具を使って声をかけた。
「トリシア、魔術で拘束しろ」
『了解ですッ!』
「それと砦で見てるお前ら……こうなりたくなかったら降伏しな!」
私の啖呵に恐れをなしたのか、それとも味方の最大戦力であった兄弟のヘルロアが戦闘不能に陥ったのを見て、勝てないと悟ったのか山賊たちが両手を上げたまま砦から姿を見せた。
そいつらに向かってパトリシアが軽く腕を振ると、彼らの体へとどこからともなく蔦が絡みつき、縛り上げるように地面へと転がっていくのが見えた。
確か魔術にある強力な拘束系の術だったか、一度だけ軍警の魔術師が使っているのを見たことがあるが筋骨隆々の男ですら引きちぎれない強靭さを持っていたはずだ。
私は突きつけていた剣を腰へと差し直すと、縛り上げられた山賊たちへ向かって声をかけた。
「よし、私たちはライオトリシアの衛兵隊所属の人形使いと魔術師だ! 下手な真似をしなきゃこの場で殺さねえから安心しな」
_(:3 」∠)_ 殺すと言いつつ一応生かしてあげた
「面白かった」
「続きが気になる」
「今後どうなるの?」
と思っていただけたなら
下にある☆☆☆☆☆から作品へのご評価をお願いいたします。
面白かったら星五つ、つまらなかったら星一つで、正直な感想で大丈夫です。
ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
何卒応援の程よろしくお願いします。











