第一七〇話 音のしない侵略
「……カイム様、オルデン兄弟が衛兵隊に捕縛されたようです」
「そうか、代わりの人間を用意してくれ」
アルヴァレスト連邦の傭兵騎士にして、イムジア商会の『カイム』ことカイネル・オイレンブルク騎士少尉は報告してきた、商人風の服装をした男へと返事を返す。
オルデン兄弟……兄であるリミスト・オルデンと、弟ジャリア・オルデンは元々ヴォルカニア王国出身の人形使いだったが、終戦とともに国を出た元軍人である。
その際に軍で使用していた兵士級人形騎士ヘルロアを強奪したことで、王国軍から指名手配されていたが、腕を見込んだイムジア商会が山賊役として陰ながら支援をしていた。
その二人は先日衛兵隊のアナスタシア・リーベルライトにより捕縛され、ライオトリシアへと移送されたという情報がすでに入っている。
「あの……よろしいのですか?」
「なにがだ?」
「その……兄弟は商会が契約を結んでいて……」
イムジア商会が無法者を支援する目的は一つしかない、帝国国内の混乱と破壊……そのために、商会という隠れ蓑を使って連邦は長年破壊工作を進めていて、ここ近年の山賊の重武装化は彼らの実績と言える。
大半は山賊に接触した工作員が、名前を出さずに支援をしているケースだが、オルデン兄弟は今回の仕事にあたって報酬を要求したため、商会は協議の結果契約金を彼らに渡していた。
連邦では契約が重視される文化であり、特に傭兵騎士はその締結した契約に従って他国の軍事作戦に協力し、血を流している。
敵味方に分かれた場合でも平然と戦いを繰り広げることがあるが、これは彼らの流儀として『契約は血より尊い』という価値観が根付いているからでもあった。
兄弟はそれを知っていたのだろう、契約を交わすと持ちかけることで連邦人の琴線をくすぐってきた……だからこそ重要な破壊工作を任せていたのだ。
他の山賊とは違いヘルロアの整備は定期的に商会が立ち会っており、アナスタシアが想像した以上に性能は落ちていなかった。
「構わない、どうせ帝国も山賊の与太話だと取り合わないだろう」
「そ、そうですか……」
「ただ、兄弟には黙ってもらうしかないな」
カイネルの表情には男性がゾッとするほどの殺気に満ち溢れており、その雰囲気に当てられたのか男性の心臓が早鐘のように鳴り響く。
オイレンブルク騎士少尉はアルヴァレスト連邦の傭兵騎士の中でも、特別な地位に値する『十剣』と呼ばれる高位騎士達に属している。
帝国における軍の英雄に近い存在ではあるが、大きな違いとしてはこの騎士号は対外的に存在しないものとして扱われ、他国では認識されていない点だ。
この十剣の称号は連邦でも秘匿扱いとされていて対外的にこの称号を使うことはまず無く、他国の人間が存在を知ることはない。
ただ連邦軍上層部においては十剣の存在は非常に大きく、発言権も他の傭兵騎士を圧倒する権限を有している……しかも戦争中には対して目立った活躍のないカイネルがこの座に連なるのは異例ともいえた。
「対処はどうされますか?」
「すでにクンツが動いてるよ……吉報を待とう」
「そ、そうですか……」
「それより……本国から人形騎士は届いたんだっけ?」
「はい、ご希望のあった戦士級人形騎士バルバロッサが送られてきました」
「ラプターも良い人形騎士だが、戦士級ほどじゃないからな……」
アルヴァレスト連邦は人形騎士建造技術において、独自の技術を有しているがその技術の一部は帝国へと献上され、帝国の戦力増強に貢献している。
さらに連邦は独自の建造技術を持って、輸出用の人形騎士だけでなく傭兵騎士専用の高級機体なども数多く用意していた。
その中でもバルバロッサは連邦の技術を惜しみなく投入された人形騎士であり、帝国製人形騎士グラディウスを遥かに凌駕する性能を持っている。
帝国兵器廠には開示されていない高級技術が投入されている故に国外の作戦活動には持ち出しが許可されない機密の多い機体ではあるが、十剣が必要としているという名目でようやく実現したのだ。
「ですが機密情報の塊です……もし何かあった場合はカイネル様にも責が」
「はっはっは……戦う前から負けることを考えるものがいるか」
「……それはそうですが」
「バルバロッサくらいでないとあの三〇騎墜しは倒せない」
カイネルの脳裏にアナスタシア・リーベルライトと対峙した時の記憶が蘇る……彼は最新型の人形騎士を駆り、そして相手はボロボロの王国製人形騎士ロックヘアを使っていたのだ。
あのロックヘアは整備しているところを見ていたが、とてもではないがラプターに対抗できるような機体ではなかった。
あちこちが壊れており、ほぼスクラップといっても良いものだったにもかかわらず、アナスタシアは互角に戦ってみせたのだ。
最後は確かに随伴魔術師との接続によって押し切られたが、下手をするとそれがなくてもカイネルは討ち取られていたかもしれない。
それほどに腕の差があった……それは戦っている本人達でしかわからないが、彼の心に強い敗北感を植え付けており、それは恥辱と呼んでもおかしくないほどの憎しみを生んでいた。
さらには闘技場で直接出会ったアナスタシア・リーベルライトが、驚くほど美しく華やかな女性であったことも驚きと屈辱的な気分を植え付けている。
「おそらくだが、近いうちに決着をつけることになるだろうよ」
「そのためのバルバロッサですか?」
「ああ、俺は全力を持ってあの赤い虎を仕留めると決めた」
「それほどですか……」
それは一度剣を交えたものにしか分からない感覚と読んでもいいだろう。
本能的にあのアナスタシアを討ち取るには最高の機体を持って戦いを挑む必要があるのだとカイネルは感じていた。
それ故に最新鋭の人形騎士が必要だとクリミス・ペルシアーニ騎士少佐にも直談判した……彼からは『お前が必要だと思うなら理解する』と答えが返ってきている。
直接アナスタシア・リーベルライトと戦うことにかんしては、あまりいい顔をされていないのが正直なところだが、クリミスもまた傭兵騎士である故に、戦うべき時には躊躇するような人物ではない。
「ペルシアーニ騎士少佐も認可してくれているからな」
「はい、少佐が後押ししなければバルバロッサの投入は認可されなかったでしょう」
「ところで少佐は?」
「帝都に赴いております、商談とかで……」
イムジア商会の会頭であるクレイアトス・バーレイことクリミス・ペルシアーニ騎士少佐は、戦争後における帝国内部への浸透作戦を指揮する立場にある。
山賊を使った内部撹乱を提案したのも彼で、その中の一作戦としてアイアスの山賊団に人形騎士の操縦方法を教えに行った先で彼女と出会ったとも言えた。
その時登場しているラプターではなく、もしバルバロッサだったとしたら……アナスタシアは対抗しきれずに討ち取られた可能性すらある。
それほどまでに中古でボロボロのロックヘアとの性能差は大きかったのだ……しかし、あの当時はラプターですら高性能であるという判断であり、今となっては何が正しかったのか分からない。
「……次会うときは確実に討ち取る……傭兵騎士の誇りにかけて俺は負けるわけにはいかない!」
_(:3 」∠)_ 新型キター!
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