第一六七話 再始動 〇一
「うーん、長かった……ようやく戻ってきたね」
「見た目は全然変わっていないですね……装甲は多少模様替えしているようですけど」
私とパトリシアの前には衛兵隊に戻ってきた人形騎士ヴィギルスが駐騎態勢を取っているが、修理前と異なっている部分は外装の一部が大きく変わり、表面上は単層構造に見える。
だが、裏側を覗くといくつかの異なる素材を組み合わせた言わば『擬似単層』の構造を採用しているのがわかり、相当に手間のかかった装甲へと変化しているのがわかった。
ジーモン曰く表側に加わった衝撃を魔物の外皮を使った背面構造で吸収する、と言う話なのだがこれが実戦でどこまでの効果を生み出すのかは不明だ。
衝撃を吸収しそうな外皮を持っているのは、巨大な肉食両生類の魔物であるジャイアントトード当たりなんだけど、何を使っているのかは資料見ろって言われて……まだみてないんだよな私。
「まあ、あのおっさんがやることだから性能は良さそうだな」
「軽く動かしてみますか?」
「ああ、どのくらい重くなっているのか知っておきたいところだな」
相変わらずずっしりとした重さのハッチを開くと、真新しい新品同様に作り直された操縦席が目に入る……それまで使っていたシートなども全て新しくしているそうで、おろしたての匂いがする気がするな。
シートに腰を下ろして各部のチェックを始めると、鈍い始動音と共に力の核が起動し機体全体がぶるり、と震える。
規則正しい鼓動を感じながらハッチを閉め、これだけは前と変わっていないレバーを握るとヴィギルスが私の操作に合わせてゆっくりと立ち上がる。
この動作だけで重さが変わると手応えが違うものだが、前とほぼ変わっていない……軽くて衝撃を吸収するってのは相当に上位の魔物くらいなんだが、そんなの狩れるものだろうか。
例えば竜種とかの強大な魔物はここ数年討伐記録が残ってないし、特別個体なんかも私が倒したグラトニア以降あまり出没情報が出てないらしいんだよな。
「何の素材使ってんだこれ……」
『何か違和感あります?』
「いや驚くくらいに前と変わらない……」
『資料には……ああ、『竜もどき』の皮を使っているって書いてました』
竜もどきはドラゴンに似た蛇の怪物で粘液まみれの外皮と鋭いかぎ爪や牙が特徴だが、人形騎士でないと討伐が難しい魔物として知られている。
戦争中に討伐したことがあるが、怪力もそうだ強力な再生能力を持った粘液がめちゃくちゃ厄介で、致命傷でもない限り傷を塞いで襲いかかってくるという特殊な能力を有していた。
まあ『竜の息吹』のような飛び道具がないので、戦いやすいと言えばそうなのだがそれでも単騎で挑むと魔術でもない限りとどめを刺しにくい。
あの時は確か中古のフェラリウスと相棒だった彼のおかげで倒せたっけ……今から考えると一人で立ち向かわなくて良かったと思う。
「あれにそんな効果があるとはねえ……」
『柔軟性がある素材だとは知ってましたが、衝撃を吸収する装甲として使うのはあまり聞きませんね』
「ま、実戦で攻撃を受けた時にわかるか……」
『タラスさんの二号騎には装備されていないので、試験の意味もありますね』
ジーモンがよく話してたが、タラスはよく壊すとはいえ致命的な損傷は避ける傾向があって細かい部品の交換は多いけど大掛かりな改修まで至ることが最近ないらしい。
本当は新しい機材や実験装甲は二号騎で試したいらしいが、本当に細かいところぐらいしかいじれないんだそうだ。
そのため今回一号騎が大きな損傷を受けたことで、それまでアイデアベースで貯めていた新技術を一気に反映することにしたらしい。
今回の外装もそうだが、破損している力の核自体もグラディウスベースの汎用型を新規で載せるのではなく、人形騎士に合わせた形でチューニングしたタイプへと変更している。
さらに生命の水を全身に巡らせるための配管も経路を調整し直した、とかで効率が良くなっているそうだ。
もはや同じような機体に見えるが内容は大きく変更されたマイナーチェンジ版と言ってもおかしくはないだろう……この世界にマイナーチェンジという言葉があるかどうかは不明だが。
軽く駐屯地内を歩かせていくと、全体的に動きが軽く軽快な動作になっているのがわかった。
「ずいぶん動きが軽い、新品同様って話だが全体的に軽くなったように思えるな」
『出力や重量そのものは変わっていないそうですけど』
「私のクセに合わせてるのか……よくこんなこと思いつく」
人形使いは動かし方に個々人のクセが強く出ることはよく知られており、他の機体に乗り換えた際にうまく動かせなくなったりするのは知られている。
これは人形騎士に『手垢がついた』と言われる状態で、もっと下品で低俗な言い方をすれば『開発済』と呼ぶんだが、これは余談か。
でまあ……そのクセを逆手に取って力の核の出力をうまく調整することで、より人形騎士そのものを軽快に動かしたりって研究が戦争末期に行われていた。
その理論的な部分は割と理解しやすかったが、私は他者が扱った人形騎士でもそれほど苦労せずに動かせたため、あまり意識していなかった部分だ。
『ジーモンさんがヴィギルスの設計やってくれて良かったですね』
「そうだな……腕がいいのは認めるよ」
『今度お礼でも……ってちょっと待ってくださいね』
視界の隅に建物を出たメルタがこちらへと走ってくるのが見え、パトリシアは魔道具での通信を切ると彼女に向き直る。
その間に今のヴィギルスの状態を確認しようと軽く各部の動作をチェックしていくが、安定した出力だけでなく外部を見るための水晶も新しくなっており、外の風景もくっきりとした鮮やかさだ。
視界も多少広がっているように見えるので、おそらく人形騎士の目に当たる部分も相当に手が入っているのだろう。
ここまでくると新造の方が安くついたのではないか、という気がしなくもないがまあその辺りを突っ込むのは野暮というものだ。
パトリシアはしばらくメルタと話した後、魔道具を使って私へと話しかけてきた。
『アーシャさん、早速仕事ですよ』
「おう、こっちは大丈夫だ……いつでも全力で動かせるよ」
『それは頼もしいですね』
「それで、仕事の内容は?」
『街道に出た山賊を追い払ってほしいそうです』
山賊か……衛兵隊に話を持ってくるくらいだから、人形騎士を使った襲撃なんだろう。
このところ山賊や落伍兵がどこで手に入れたのかわからない人形騎士を使って、略奪するケースが多くタラスもその対処で引っ張りだこだったという話をしていた。
人形騎士の出所はよくわかっていないそうで、調査は入っているものの……帝国軍が中古として払い下げたものに関しては、その後の足取りを追っていなかったりするので調べきれないらしい。
まあ、今は目の前で起きた問題に対処していく方が優先だろう……私は近くにあった剣と盾をヴィギルスに装備させると、パトリシアへと話しかけた。
「了解だ、こっちはもう出撃準備はできているから、メルタと一緒に装甲馬車持ってきな」
_(:3 」∠)_ ようやく復帰
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