第一六三話 食屍鬼 〇二
「こりゃ出そうだな」
「出ますねえ……」
冒険者およびギルドから正式の依頼として衛兵隊へと譲渡された任務……グールが出没して死体を荒らされるという村へと足を運んだ。
村の名前はホビーズ村というらしいが、私はそもそも地名にそれほど興味がないためこの村がいつからあるのかとか、どういう歴史があったのかというのをまるで知らないのだけど、かなり古くからある農村なのだという。
ライオトリシアの登記簿にも村そのものの詳しい情報はあまり載っておらず、小規模であることやある程度の家族の名前、そして畑で取れる麦や野菜などはあまり質が良く無いことなどしか記載がなかった。
規模はかなり小さく、住人で言えば五〇名程度だろうか? 帝都とかで暮らしているとこの規模感の村が良くも存続しているな、と思う程度には小さく、そして住居も簡素な木製の小屋ばかりだ。
「村そのものの雰囲気が悪すぎる、衛生状態もそれほどよくないなこれは」
「大きな装甲馬車持ってきて正解ですね」
「ああ、とてもじゃないが寝泊まりができねえ」
今回任務には私とパトリシアそしてメルタの三人が派遣されているが、普段メルタに担当してもらっている装甲馬車は、普段使っているものよりも一回りサイズが大きい。
帝国の装甲馬車は一応規格が統一されていて、大中小の三サイズが存在している……前世で言うところの、普通乗用車とトラックの違いとでも言おうか。
スレイプニルが引いている馬車の用途やサイズによっては呼び名が変わることもあったが、装甲馬車では一括りに同じ名称が使われていて、地味に間違えやすいポイントになっている。
軍でもこの辺りは問題になっていたようで、人形騎士のサイズに倣って兵士級、戦士級、騎士級の三種に分かれているのだ。
普段パトリシアを乗せてメルタが運転しているのは兵士級の装甲馬車であり、これは機動力を重視したタイプで小回りが効き、市街地で使いやすいという特徴がある。
今回私たちは最大級の大きさである騎士級装甲馬車を用意してきたがこれはかなりの大きさで、前世で一番近いサイズ感はアメリカントラックだろうか。
寝泊まりもできるので簡易的な宿泊所としても使用できる上、キッチンや仮設トイレまで完備しているのでこれがあれば十分生活ができてしまう。
「村の中に装甲馬車入れると場所とりますから、少し離れた場所にキャンプしましょうか」
「そうだな……その間に私とトリシアで話を聞いてくるよ」
「気をつけてくださいねメルタさん」
「大丈夫、軍でよく野営してたから問題ないよ」
メルタは人懐っこい笑みを浮かべて笑うと、慣れた手つきで装甲馬車を方向転換させていく……サイズの大きな装甲馬車を動かすのはかなり熟練の技が必要なので、彼女がいて助かるな。
音を立てて村の入り口から離れていく装甲馬車を見送ると、私たちは寂れた村へと足を踏み入れていく……昼間だからというのもあるが、痩せた子供や老人以外は外に出ておらず一部の人がこちらを見てヒソヒソと何かを話している声だけが聞こえる。
地方の村に貴族然とした格好の二人がきたらこんなもんだよな……私が視線を向けると、小屋の窓がわりについている簡素な板がパタン、と音を立てて閉まるのが見えた。
「歓迎ムードじゃねえけど、こんなもんか」
「……明らかに浮いていますしね」
「あの! お待たせを……!」
私たちがあたりを見回していると村の中でも最も奥まった場所に建てられたこれまたこぢんまりとした小屋の扉が開くと、そこから慌てたように一人の男性が飛び出してきた。
年齢は四〇代後半くらい、白髪混じりの頭と無精髭が目立つ体格がそれなりに良いその男は私たちへと駆け寄ると、息を整えながら何度も頭を下げる。
少しこちらを見上げている目に怯えの色があるし、明らかに貴族令嬢かつ魔術師にしか見えないパトリシアへとチラリと視線を向けるとさらに怯えたような表情で必死に頭を下げた。
この様子を見るに以前貴族相手の対応で痛い目を見たのかもしれないな……私は軽くため息をついたのち、男性に向かって軽く微笑みながら声をかけた。
「あなたが村長かな? 私は衛兵隊のアナスタシア・リーベルライト……こっちはパトリシア・ギルメールだ」
「リーベルライト……!? あの、もしかしてあのリーベルライト様で?」
「……男爵家の方だ、もっと格下だよ」
「あ、いえ……! リーベルライトの男爵様には以前大変お世話になりまして……もしかしてご身内の方ですか?」
「義父上に?」
「ああ、これはこれはお嬢様だったとは……以前この村が飢饉になった時に助けていただいたのです」
聞いたことがあるような無いような……子供の頃にライオトリシア近隣一帯で戦争による物流の混乱があって、飢饉になったことがあったとか。
都市に住んでいた住民は影響がほぼなかったが、一部の農村地帯には大打撃があって人死も結構出たとか……おばちゃんが主導して保管庫を開けて、そこから大量の食料を供出しなければ、壊滅的な被害を受けたかもしれないと言われている事件だ。
まあ、その後帝都からの支援がこの地方に入って持ち直した、という話だったかな……いかんせん私が幼い頃の話だったので、よくわかっていない。
「この村が生き残っているのは男爵様のおかげでございます……私の先代の時代ではございますが」
「そうなのか……そりゃ知らなかったよ」
「それで本日はどのようなご用件で……」
「私たちはライオトリシアの衛兵隊なのだけど、ギルドに依頼を出しているだろう?」
「死体漁りの件でございますか! それはありがとうございます……立ち話もなんですし、座れる場所へ……」
村長は私の言葉に大きく頷くと、広場状になっている場所にある小さなテーブルと木で出来た椅子がわりの丸太の方向を指差すと、先導するように歩いていく。
ちなみにそのテーブルは村で何か起きた際に村人が集まって会話するために設置されているもので、例えば揉め事が起きた時などはそこで村長など交えて話をしたりする場所である。
これは帝国の村では良くあるもので、少し規模感が大きくなると小屋として維持しているし、街だったらちゃんとした会議場として建設するものだ。
このホビーズ村は規模が小さすぎるため、本格的な小屋などは建てられないのだろう……辺境などだと良くあるものだと理解している。
私とパトリシアは丸太に腰を下ろすと、村長はその反対側に置かれた丸太へと座ると、すぐに話始めた。
「ええと、今回も罠をかけるのでしょうか?」
「……冒険者は一度来ているんだろ?」
「はい……罠をかけて捕えようとしたのですが」
「失敗した、と」
私の言葉に村長は頷く……あのジョナサンって冒険者は、罠をかけるまでは成功したが、その後捕える際に戦闘になったが、思ったよりもグールが強くて持て余してしまったんだろう。
腕力はめちゃくちゃ強いし、鋭い爪で引っ掻かれれば肉は切り裂かれるし、ついでにあいつらめちゃくちゃ臭いからな。
村長の話を聞いていくと、一度逃した後冒険者たちは対応が難しいという話をしていて、一度ギルドに応援を求めにいくと言って帰ってしまったそうだ。
そして彼らが帰った後もグールは墓場にやってきて、中にある土葬された死体を掘り返しているのだという……すでに一〇体近い死体が食い荒らされ、村人は恐怖に怯えていると。
一度罠にかけているとなると警戒するから、地道な張り込みで倒すしか無いだろうな……面倒臭いけどこれも仕事か。
私は軽くため息をついた後、心配そうな村長へと話しかけた。
「あいつら死体だけ食べるわけじゃ無いんだ、夜仕掛けを作っておびきよせてその場で倒すよ、約束する」
_(:3 」∠)_ 深夜の張り込みって静かでいいですよね
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