第一五九話 平定者 〇三
「……ロックヘアを使っているとはな、山賊がこんな機体を持つとはどうなっているんだ……」
『破城鬼』グウィード・デュ・コンスタンタンはモニターに映るぐしゃぐしゃにつぶれたロックヘアを見つめながら、内心ため息をついた。
彼の駆る人形騎士フロル・ティタニクスの操縦席は、その巨大な機体構造から少し余裕を持って作られており、常人よりも上背があるグウィードが着座しても十分なほどに余裕があるスペースとなっている。
そのため通常では正面にしか設けられない水晶製モニターが複数取り付けられていることで、重量級の機体の弱点である機動力を補っていた。
『グウィード、正門側からもう一騎来ますわよ』
「……姫殿下、城壁の上は高く危のうございます」
『自分の身くらい守れますわ』
「そういうことでは……パキトール? まさかこんな機体まで持っている山賊がいるのか……」
モニターに写っている『平定者』の名を持つパキトールは、帝国軍人形使いにとってはあまり良い印象のない機体の一つだ。
この人形騎士は制圧した都市において、反乱や暴動が起きた際に活動する特殊任務のために活動する機体で、人形騎士同士の戦いにはあまり使われないことでも知られていた。
機体各部に備え付けられた特殊兵装は、効率よく歩兵を殲滅する目的で開発され、各地の暴動で効果を実証し続けている。
同じ人形使い同士の戦いに使用されず、本来は守るべき市民を殺戮するだけの機体など、誉を重視する彼らにとっては恥そのものだ。
実際に戦争が終わった後パキトールを使っていた人形使いは、大半が軍を離れ……自分が何をしていたのかをしゃべることを拒否しているものが多いらしい。
『パキトールそのものはもう旧式騎ですわ、現在後継騎を建造しているはず』
「パキトールそのものの存在は否定するべきではないと考えますがな……実際某も稼働試験には携わっております」
『貴様っ! 俺の仲間を……!』
「……貴殿は山賊ということだが……元帝国軍の兵士か?」
慌てて駆け寄ってきたパキトールの拡声器から男性の声が響いたことで、グウィードは手に握っていたロックヘアだった残骸を放る。
うまく握りつぶしたため操縦席には損傷はない……まあ脱出するには外から装甲を引っぺがさないと難しいだろうが。
フロル・ティタニクスのパワーだとロックヘア程度の兵士級人形騎士は、力加減を考えないと簡単に粉砕してしまうのが厄介だ。
グウィードは機体をゆっくりとパキトールへと向ける……あまりに異様なフロル・ティタニクスの外見に驚いたのか、敵人形騎士は数歩後退りした。
パキトールの外見もまた、心理的な恐怖を感じさせる外見をしているが……目の前に立つ帝国随一の巨体をもつ騎士級人形騎士フロル・ティタニクスの迫力には敵わない。
『……なんてデカい……お前は破城鬼か!』
「某の通り名を知っているということは帝国兵だな」
『……ああ、俺は元帝国兵だ』
「名を名乗れ」
『ジョルジョ・モルビデリ』
グウィードは少し記憶を探るが……自分の部下ではないが、モルビデリ男爵家という辺境地域に細々と血脈をつなぐ貴族家があったはずだ。
良い人形使いを輩出する一族で、軍で出世はしないものの部隊を率いて戦う技量に恵まれた人材が多く、小規模な遊撃部隊を任せると戦果を上げられるという評価が多かった。
家格が低すぎて大きく出世できないなど、帝国軍の慣例に泣かされている貴族家の一つとも言えるだろう。
男爵家程度の家格だと戦争中にいくらでも没落した例があり、現在そのモルビデリ男爵家がどうなっているのかは、帝都で調べないとわからない。
少なくとも山賊に身を窶しているということであれば男爵家そのものがなくなっているか、もしくは目の前の人形使いは家との関係を断ち切っているかだ。
『モルビデリ家はまだ存続していますわよ……確か後継者がいなくなったとかで揉めていた時期があったようだけど』
「……どうやらその後継者というのが目の前にいそうですな」
『何をごちゃごちゃと……』
「なぜ貴殿は山賊を? 誉ある帝国軍兵士のやることではなかろう」
『軍にいても食えないものは、こうするしかない』
「……食えない、そうか……」
ジョルジュの言葉にグウィードは思わず口をつぐむ……軍の要職にあった自らの不明もあり、軍を離れた兵士たちが苦しんでいることに痛痒を感じるのだ。
自分がもう少ししっかりしていれば、先日の山賊だけでなく目の前にいる人形使いも、無法者とならずに済んだのではないかと思うのだ。
ジョルジュは、そのまま腰に装備されていた長剣を手に取る……パキトールそのものは、対人戦装備を多く積んでいるが、性能そのものはフェラリウスと同程度とされている。
しかしその基礎となるフレームはグラディウスにちかい改良型のものが採用されており、戦士級人形騎士としての基本性能はそれなりに高い。
それは稼働試験に参加していたグウィードだからこそわかる……決して性能が低いわけではない、むしろ反乱鎮圧用としては破格の性能と言っても良いのだ。
「剣を構えるな、構えたら貴殿を倒さねばならなくなる」
『仲間がいるんでな、お前を倒さねば……』
「そうか……ではかかって来い」
ジョルジュが発した言葉で、すでに彼が覚悟を決めているというのがグウィードには理解できた。
破城鬼という名前は伊達ではなく、敵兵ですら彼の名乗りを聞いて震え上がって逃げ出そうとするものが大半で、立ち向かってくるものは死を覚悟した強者のみだった。
それら全てを屠ってきたことでグウィードは英雄としての地位を手に入れている……相手が逃げ出そうとしているのか、それともすでに覚悟を決めているのかは大体わかる。
さらに立ち姿から推察できるが……相対するジョルジュは剣術の腕はそれなりだろう、一般的な兵士のレベルとしては十分なものだが、人形騎士戦には不足しているはずだ。
『行くぞッ!!!!!』
「……その心意気やよし」
パキトールが上段に剣を構え突進した瞬間、目の前の光景にジョルジュは目を見開く。
先ほどまで仁王立ちしていたはずのフロル・ティタニクスは驚くほどの速度で攻撃態勢を取り直すと、前進を始めたパキトールの視界いっぱいにその巨大な拳が迫るほどの速度で拳を振り抜いた。
その巨大な機体サイズからフロル・ティタニクスはパワー型で、攻城戦向きの機体だと考えていたのだ……それゆえに一撃は入れられると考えていたのだ。
だがそれは甘い期待だったと思わされる……なぜ破城鬼が帝国の英雄であったのか、そして目の前の人形騎士が帝国兵器工廠における傑作機だったのかを、その短い時間の間に彼は理解した。
強い衝撃、そして決して薄くないはずのパキトールの前面装甲がメリメリという音をあげてひしゃげていく……人生の最後に見る光景は酷く遅く感じるのだと聞いたことがある。
それはどの本で知ったのだろうか……装甲が引き裂かれ、まるで巨大な岩のような表面を持つフロル・ティタニクスの拳が操縦席を一瞬で撃ち抜くと、共にジョルジュの意識が漆黒へと染まっていく。
全てが無に帰す中で、目の前のフロル・ティタニクスから酷く悲しそうな声が響いたのをジョルジュは聞いた。
「すまんな……某がもう少ししっかりしていれば、貴殿のような思いをするものが少なかったかもしれん……」
_(:3 」∠)_ 絶対的な一撃
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