第一五八話 平定者 〇二
『ヴルカノに人形馬車が運び込まれた……しかも特殊なものらしい』
ヴルカノ近郊を根城として活動する山賊『血牙団』首領であるジョルジョ・モルビデリは、ヴルカノに潜ませていた部下がそんな話を仕入れてきたことに当初はあまり興味を示さなかった。
山賊団の狩猟という立場に収まったのは、当初別の場所で傭兵業を営んでいた彼の元に軍時代の元部下が逃亡兵となって逃げ込んできたことが始まりだ。
部下を見捨てられなかった彼は、咄嗟に捕縛に来た衛兵を叩きのめし共に街を逃げ出すことになってしまう。
軍隊では人形使いとしての経歴を持っていた彼は、逃亡中にとある場所で整備が進められていた帝国製人形騎士パキトールを見つけた。
そこからは早かった……人形騎士という圧倒的戦力を手に入れたジョルジョとその仲間は、一気に拡大を始め……現在では三桁にも届こうかという人員にまで規模が膨れ上がっている。
『お頭、ヴルカノの連中が気がついたみたいだ』
「攻撃は始めてしまっている、今更引き返せないだろう……突破しろ」
『アイ、アイ』
ジョルジョの言葉に合わせて王国製人形騎士ロックヘアに乗る部下が、独特の駆動音を上げながら街に向かって走り出していく。
他の山賊団ではどうかはわからないが、ジョルジョには一つのこだわりがあり……人形騎士を現役時代と同じように完全な形で稼働させるために整備に酷く力を入れていた。
彼が駆る戦士級人形騎士パキトールは、帝国軍が戦争中に開発し運用した『平定者』の異名を持つ機体だ。
種別としては局地専用騎に分類される機体で、帝国軍が運用していた機体としては最も憎まれた人形騎士として知られる。
「……今日はちょっとご機嫌斜めだな、後で整備をしなきゃダメか」
搭乗する愛機の出力を手慣れた手つきで調節しながら、ジョルジョが操縦レバーを握り直すと愛機は整った駆動音を上げて速度を上げていく。
皮肉なものだ、敵国と戦う軍人として活動していた自分が今では山賊に身を窶し、そして大陸の人間から最も嫌われた人形騎士に乗っているとは。
この人形騎士パキトールが最も活躍した戦場は『都市』である……特に帝国が占領した領土、少し前まで敵国の土地だった場所において、この人形騎士は猛威を振るった。
反乱者を制圧するための人形騎士……それ故に平定者という異名を持ったパキトールは、その外見からして威圧感を与える特殊な外見を持った機体である。
『ヴルカノに攻撃を仕掛けたやつからだ、騎士っぽい連中と戦闘になっていると』
「騎士だと?」
『白い鎧を着た連中だ、随分と装備がいいらしい』
「帝都から連れてきたのか……」
『どうする?』
ヴルカノを支配するウルバーニ子爵の部下にはそういった装備を着用するものは存在しない……もしかして帝都から増援でもきていたのだろうか?
無理もない……血牙団との戦いで敗れ、負傷した子爵が何らかの手を打った可能性があるな、とジョルジョは考えを巡らせる。
一年ほど前にジョルジュは奇襲攻撃で子爵が指揮する防衛軍を攻撃し、彼に怪我を負わせることに成功しており、血牙団はいよいよ勢いを増して略奪行為に邁進していた。
パキトールという特殊な機体を入手できたことは幸運である……反乱制圧用に開発されたこの機体は、機体性能そのものはグラディウスの前世代に当たるフェラリウスと同程度だ。
その特殊性は歩兵などの人間を制圧するために機体各部に仕込まれた対人戦装備にあると言って良い。
「正門の騎士を攻撃するぞ、パキトールの装備なら一掃できるはずだ」
『了解ッ!』
「ロックヘアはそのまま東門に向かって攻撃を行え、それと相手を引き摺り出すために徐々に後退しろ」
『応っ!!』
ヴルカノの入り口は大きな正門と東側に設置された東門の二つに分かれているが、人形騎士が問題なく侵入できるのは正門のみだ。
そのため……今回の攻撃におけるロックヘアの役割は、正門側に配置された敵兵を引き付けるための陽動でもあった。
血牙団の特徴は首領であるジョルジュが帝国軍の部隊を率いたことがある歴戦の軍人かつ熟練の人形使いであることだ。
さらに、彼が駆るパキトールという特殊な機体が対歩兵戦においては驚異的な強さを誇ることだろう。
占領地において人形騎士が反乱のために用いられることはそう多くない、帝国軍も何を抑えなければいけないのかは理解しており、敵対国の人形騎士は最優先で確保され、別の場所へと移すというマニュアルが存在していた。
そのため大半の反乱では歩兵による蜂起が多く、それを鎮圧するために最も効率よく対応するための機体としてパキトールが開発されている。
対歩兵用に開発された特殊兵装は多岐に渡り、『人形騎士には人形騎士をぶつけよ』という格言を決定的にした戦果を挙げていた。
「……あまり気分のいいものではないのだがな」
ジョルジュは行き先を変更し、ヴルカノの正門方向へと機体を進めていく……騎士がどういった連中かわからないが、少なくとも人形馬車を守る連中であるため腕には相当良いと見ている。
だが所詮は鎧を着込んだ騎士は、騎乗していなければ歩兵とそう変わりはなく、パキトールによる攻撃で一気に殲滅できるはずだ。
機体を進めていくと、正門付近で白い鎧を着た騎士たちが一糸乱れぬ隊列を組んで攻撃を仕掛ける部下たちに立ち向かっているのが見える。
その連携は見事なもので、闇雲に襲いかかっても正門を突破できないことは一目で判断できた。
「……後退しろ! こいつで一気に殲滅するっ!」
『お頭っ! だいぶやられちまった!』
白い騎士達は血牙団の山賊達を圧倒しており、その鎧に鮮血がひどく鮮やかに彩られているのがわかる……山賊同士とはいえ、苦楽を共にした仲間を殺している相手に情けなど感じない。
ジョルジュはパキトールを一気に走らせると、特殊兵装である拡散弾のレバーに手をかけるが、人形騎士が近づいてきたのを見て騎士達は一斉に後退を始めた。
パキトールがいかに占領地で猛威を振るっていたのか、帝国軍に所属していた兵士であれば嫌というほどわかっている。
反乱を起こした街の住人をパキトールが蹂躙し、滅茶苦茶になったそれを片付けた経験を持つものも多いだろう。
動きが早い……完全に機体を見た瞬間に動き出しているところを見ると、何をしようとしたのか理解し命令を待つことなく行動する、つまり護衛騎士の守る対象は相当な家格の人物だ。
「……距離を離した、こいつら中央の……!」
『頭あああっ! やべえのが……!』
「ん? どうした!?」
『うぎゃあああああっ!!』
悲鳴とともに通信用魔道具の音声が途切れる……やばいの、という言葉が気になるがまずは正面にいる騎士達をどかさなければ仲間が危ない。
拡散弾のレバーを引くと、パキトールの腰に備え付けられた装置がバンッ! という音を立てるとともに、幾つもの火球が空中へと飛び出していく。
火球はそのまま軽い音を立てて炸裂すると、機体の周囲の地面へと広がっていき……そのまま周囲にあるものを焼き尽くしていく。
だが騎士達はその攻撃範囲を予測していたのか、ギリギリで後退に成功し……ジョルジュが焼くことに成功したのは、正門付近にあった建造物や、木々だけだった。
だが今はこれでいい……パキトールを旋回させて、ロックヘアが向かっているであろう東門へと視線を向けた、その時。
東門の城壁を破壊しながら、巨大な人形騎士の腕が突き出す……その巨大な手には残骸と化したロックヘアの姿が見える。
「なんだ……! あれは……もしかしてっ!」
_(:3 」∠)_
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