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「お前は追放だ!」と近衛を解雇された男爵令嬢、生まれ故郷の辺境都市にて最強衛兵となって活躍する 〜赤虎姫と呼ばれた最強の人形使いはTS転生貴族令嬢!?〜   作者: 自転車和尚
第四章 獣たちの狂乱

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第一五六話 男爵家へ帰宅

「帝国の若き太陽に……」


「はっはっは、男爵そこまで畏まらんで良いぞ」

 えらく上機嫌なグラディス殿下は、お義父様に軽く手を振って気にしなくていいとばかりの仕草を見せるが……さすがに顔見知りとはいえ、帝室に連なる高貴な血筋である殿下が目の前にいることに家族の大半が緊張気味だ。

 まあそんな中にあってもまるで緊張感を感じさせないのは、我が義兄であるパトリック兄様なのだが……まあ、兄様は帝都勤務で何度も殿下の仕事を受けているからか。

 私が久しぶりに着用した真紅のドレスに身を包んで姿を現したのに気がついたのか、グラディス殿下はにっこりと微笑む。

「おお、アーシャ……着替えてきたのか」


「まあ衛兵隊の制服ではさすがに失礼に当たるかと思いまして」


「そこまで気にせんでも良いのだが……まあいいか」

 リーベルライト男爵家は一応本家である公爵家に連なる家柄ではあるが、やはり爵位としては下層に当たるため、さすがに帝室を迎える際に必要な様々な物が足りていない。

 寝室だってそんな豪華じゃないしな……幼少期にどこかの伯爵家の当主が急に泊まりにくることになって、慌てて家中の人間が準備を整えた。

 だが、どうやら本来その家格に相応しいもてなしをするべきだったところが足りず、後で結構嫌味を言われたのだとお義父様が溢していたのを聞いたことがある。

 その時は見かねた公爵本家から『話をウチに通してからにしろや』と結構キツめの手紙を送りつけて手打ちになったとか聞いたけど、さすがに今回はそんなことができないしな。

「殿下をお迎えするのに、失礼がありますと流石に本家に怒られてしまいますよ」


「パトリック……お忍びだと言っただろう? 気にするな」


「とはいえ、我が家は男爵家ですからねえ……」


「ま、気にせんでくれ……俺は元々軍人だし、今でもそのつもりだからな」


「そ、そう言っていただけますと光栄です」

 頭を下げたままのお兄様へと笑みを浮かべてそう答えるグラディス殿下だが、まあ慣れていない義父と義母はカチコチに固まってしまっており、今回の晩餐では義兄が主導することになりそうだ。

 リーベルライト公爵家が年に一度血縁の貴族家を集めて晩餐会を開くのだが、義両親は足を運ぶけどずっと壁の花になってるとか聞いたし、あまり社交が得意ではなさそうな気がする。

 貴族の社交って本当によくわからないルールが多く面倒で厄介ごとが多いので、血縁貴族の間ですら億劫になるってのはわかる気がするな。

 そんなことを考えていると軽い咳払いの後全員を見回した後、おもむろにグラディス殿下が話し始める。

「……今日はリーベルライト男爵家に客として招いてもらい感謝する」


「勿体無いお言葉でございます」


「知っているかもしれないが……今父上の容体が危ういこともあって俺たち後継者候補は、互いの派閥を拡大するために貴族家の取り込みに躍起になっている」


「……そうでしょうな」


「リーベルライト公爵家、そしてそれに連なる貴族家の支援が必要になる……その鍵になっているのは、貴殿らの愛娘であるアナスタシアだ」


「ほえ?」


「……ほえ、じゃない……リーベルライト公爵との決まり事でな、アナスタシアお前が俺の味方をしない限り、俺はリーベルライト家の協力を得られない」

 グラディス殿下の言葉に思わず目を丸くするが……実の父親であるグスタフ・カイン・リーベルライト公爵と私は数えるほどしか顔を合わせていないし、そもそも戦争後はマトモに会話すらしていない。

 幼少期に数回あった実父の顔は……髭を生やした相当なイケメンおじさんだったような記憶があるが、最後に会ったのは確か戦争末期のバタバタした時期で、塩対応しちゃったんだよな。

 あの時期は色々なことが積み重なってどうにも落ちつかなかったし、同僚を失ったりとかで気が滅入っており、心配した公爵家が何度か男爵家に問い合わせしたとか後で聞いた。

 どちらにせよ、そんな重要なパズルのピースみたいな扱いは正直面倒だし、そんな重責を負いたくない私は思わず殿下へと話しかけてしまった。

「いきなり重要人物化されるのは困るんですけど……」


「実際お前は重要人物だろう……公爵家の血筋にして、帝国の英雄『赤虎姫(ティグレス)』だ」


「……今は単なる衛兵隊の人形使い(ドールマスター)です」


「お前はそう思っているかもしれんが、公爵家からすると俺とのパイプ役だからな……まあ彼らにしたら俺の側妃にでも、とか考えているだろうが」


「え、やだ」


「こ、こら……! 殿下になんて口を」

 殿下の言葉に即反応して拒否を口にしたことで、それまで黙ってたお義父様が慌てて私を嗜めるように身振りを示す。

 まーそりゃそうだろう、普通男爵家令嬢が帝室の血筋を引く皇子の妃、それが側妃とはいえ実質的に世継ぎを産める立場になるというのは、天地がひっくり返ってもあり得ない事態だ。

 前世で見たライトノベルとかで男爵家令嬢が王子様の寵愛を受けて、というケースが散見されるが実際に転生して貴族家の序列とかそういうのを色々見た結果、『絶対無理』という結論に達している。

 そもそも貴族家はその家格に応じた教育の差異が非常に大きくて、男爵家が施せる教育なんぞ本当に大したものではないのだ。

 なので、そういった夢物語を語る人はこの帝国でも多いものの、実際にそうなったら針の筵なんだろうなと思う、本当に。

「そうだろう……まあ俺もお前を側妃にする気はないぞ、今のところは」


「殿下……? 娘は気に入らないとかでしょうか……」


「リーベルライト夫人、そうではない……アーシャには帝国軍人としての責務を果たしてほしいと思っているだけだ」

 お義母様が不思議そうな顔で殿下に尋ねたことを、彼は苦笑と共にそう返す……まあ殿下からすると私の利用価値は人形騎士(ナイトドール)での戦闘以外にあまりないからな。

 つまり皇位継承の中でグラディス殿下は他の兄が持つ派閥同士で、人形騎士を使った戦闘が確実に起きると男爵家の人間へと示唆したのだ。

 その言葉にお義父様も含めた家族全員の顔がこわばる……すでに戦争は五年も前に集結しており、帝国人の中には今の平和の陰でどれだけの血が流されたのを理解していない層も若干いる。

 特に帝都付近で平和に暮らしていた人ほど、その傾向が強く……過去のことだと思い込んでいる人も少なくはないそうだ。

「また戦争が……?」


「最悪の予想ではな、だがお前たちの娘は強い……その強さを示してほしいと思っている」


「お義父様、お義母様……私は戦争中に殿下に何度も助けていただきました、そのご恩はお返ししなくてはいけません」


「アーシャ……」

 お義父様が心配そうな瞳で私を見るが、私は彼の視線を真っ向に受け止めると黙って頷く。

 血は繋がっていないものの、ずっと家族として生きてきた男爵家の人々に危害が加わらないことを祈るしかないし、もしそういう時に守れなかったとしたら私はずっとそれを後悔して生きていくことになるだろう。

 だからこそ、グラディス殿下をどうにかして皇帝へと上り詰めさせる……帝国にとってはまだマシな結果になるはずだ。

 それにまだ内戦になると決まったわけじゃない、上手く立ち回ってもらえれば帝国人同士で戦うなんてバカみたいな状況は生まれないはずなのだ。

 少し静まり返った食堂の雰囲気をなんとかしようと、義兄であるパトリック・リーベルライトが少し明るい声を出した。


「まあまあ、父上も母上もそう心配せずに……アーシャは強い、それは殿下も認めているところだ……大丈夫だ、まずは殿下をおもてなししようじゃないか!」

_(:3 」∠)_ 内戦の危機が着々と


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