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「お前は追放だ!」と近衛を解雇された男爵令嬢、生まれ故郷の辺境都市にて最強衛兵となって活躍する 〜赤虎姫と呼ばれた最強の人形使いはTS転生貴族令嬢!?〜   作者: 自転車和尚
幕間 統一戦争期 〇三

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180/231

(幕間) 帝国歴一二七九年 異世界より 〇五

『お前を滅殺するですッ!』


『やってみろってんだこの腐れ道士ッ!!』

 少女と男はほぼ同時に木札を放るが少女の札が白い鷹に、そして男の札が黒い(テン)となって争い始める。

 もはやどういう状況かわからずポカンとしたまま、その成り行きを見守っていたニルスだが、そうこうしているうちに一羽の鷹が貂によって食い殺されてしまう。

 貂はギラリとした殺気に満ちた赤い眼を輝かせると、恐ろしい勢いで少女へと飛びかかった……鷹が敗れるとは思っていなかったのか、少女の瞳に恐怖と絶望の色が光る。

 その瞬間それまで身動きを取れなかったニルスの脳裏に一人の女性の姿が浮かぶ……赤い髪に赤い瞳、相棒として育てているアナスタシアの顔が少女に重なったように見えた。

 次の瞬間、彼は咄嗟にアクセラレーションで加速すると、少女へと食いつこうとした貂を思い切り殴りつけ、彼女を庇うように抱き寄せた。

 成り行きはともかく先ほど少女が倒したウェアウルフは人らしきものを食っていた……はっきりとした造形はまだわからないものの、少なくとも少女は悪人ではない気がする。

「おい、俺が加勢すればあの男に勝てるのか?」


『あ、ありがと……ニルスくんが助けてくれるなら、勝てるよ』


「……札が動物に化けた……今殴ったのは、消えるな」

 先ほどニルスが殴りつけた貂は地面に叩きつけられると、そのままシュワッ! という軽い音と共に姿を消し、後に残されたのは砕かれた木札だけになっていた。

 どういう原理かわからないが、少なくとも攻撃すれば倒せる、これは現実に近いものだ……ニルスはさらに飛びかかってきた貂を懐の短剣(ダガー)を引き抜いて切り伏せると、軽く指を鳴らした。

 パチン! という音と共に鷹を食い殺した貂が次々燃え上がる……あまり帝国では知られていない魔法(アナテマ)の一つ『イグニッション』だ。

 魔術(アルス・マギカ)が全盛となる前に使われていた魔法の一つで、すでに古文書にしかその概要が語られていない失われた魔法(アルス・オブリータ)で、ティンダーよりも火力が強いことが特徴だ。

『やるじゃん……っ!』


『なんという猛火の術……お前異世界の英雄でございますねッ!』


「……おいおい、英雄ってのはもっと格好いいやつのことだぜ」

 イグニッションが使われなくなった理由はシンプルなものだ……庶民の生活に使うには火力が強すぎ、炎の槍(ハスタ・イグニス)のような圧倒的破壊力を持たないからだ。

 唯一利点とすれば視線を合わせた空間にも発生させられることだが、魔術師(マグス)が魔法を毛嫌いしていることもあって有効な使用方法は検討されず、次第に使用者がいなくなったという曰く付きである。

 だが……今回のように小動物に近い大きさ、しかも元が木札となればこれほど頼もしい魔法はないであろう……改めてニルスは魔法の研究を進めてくれた師匠に感謝したい気分となった。

『……きいいっ!! 優れた英雄が一緒にいるのは予想外……!』


『あ、逃げる気かっ!!』


『三十六計逃げるに如かず、次は絶対に殺しますですよッ!!!』

 突然道士の周りに白煙が上がったかと思うと、その姿がまるで霧のように掻き消えてしまう……『次元(サルト・ディメ)跳躍(ンショナリ)』のようにも見えるが、もっと原始的な技のようにも見える。

 道士の姿が消えると共に、残っていた貂が次々と木札へと変化していく……彼の使った魔術の理屈はよくわからないが、木札を動物に変化させたのは幻術か何かかもしれない、とニルスは思った。

 同じような感じで煙が上がる何かを撒き散らしてその間に距離をとったのかもな……と彼は考え、庇った少女を抱き寄せたまま油断なく視線を配る。

 ニルスは数分間じっと周りに目を凝らしていたが、どうやら道士と呼ばれた男の気配は完全に消え去ったと判断したのかほっと息を吐いた。

「……いなくなったな、もう一安心だ」


『……ねえ、その……恥ずかしいんだけど』


「ん? ああっ! すまない、そういうつもりじゃ……」

 少女は彼の腕で抱き寄せられたまま、少し照れているのか朱の差した頬を軽く膨らませてそう告げる。

 ニルスは自分が年端もいかない少女を抱き寄せたままだったことに今更気がつき、慌てて彼女を解放するが……少女は何度か咳払いをしてから一度深呼吸をした。

 手の中に少女の柔らかい感覚、きめ細やかな肌やなめらかな手触りがじっとりと残っている気がして、ニルスは年甲斐もなく恥ずかしさを覚える。

 自分を落ち着かせようと何度か深呼吸をするものの、ここ最近禁欲生活を余儀なくされているニルスの頭から、少女の柔らかさが抜けていこうとしない。

「わ、悪気はねえんだ……ごめんよ」


『別に気にしてない……それより、ありがとう』

 少女はにっこりと微笑むとニルスに感謝を伝えようとしたのか、深く頭を下げる……ここ最近感謝の礼を言われることがなかった彼はその姿を見て、思わず照れ臭さを感じた。

 アナスタシアも同じように感謝するときに頭を下げたな……と思い返すが、その瞬間彼の体から光がこぼれ出していく。

 どこかへ引き戻されるような感覚……ここではない別の場所へ、つまりは自分が元いた場所へと魂が戻ろうとしているのだと感じた。

 光を放ち始めるニルスに向かって少女が叫ぶ……その言葉にニルスは言葉にならない声をあげつつ頷き、そして視界が真っ白に染まっていく。

『……ニルスくん! 私が困った時、どうしても助けが欲しい時にまた呼んでいいかな……君なら信頼でき……!』


「……おっさん、こんな場所で寝ると風邪ひくぞ?」


「え? ……へあ?」


「寝ぼけてんのか? あー、もう……書類が床にばら撒かれてるじゃないか」

 次の瞬間、視界いっぱいに広がる赤髪、赤い瞳をした絶世の美女が自分を覗き込んでいることに気がつき、ニルスは素っ頓狂な声をあげてしまった。

 美女の名前はアナスタシア・リーベルライト男爵令嬢……ニルスの相棒にして帝国の人形使い(ドールマスター)だ。

 そしてニルスは床に大の字になって寝転がっていたのか、視界には天井が見える……視線を向けると、窓からは朝日が差し込み、外にいるのか小鳥が囀る鳴き声が聞こえる。

 先ほど見ていたものは夢だろうか? それにしては恐ろしく現実的な夢のように思えたが……それに、あの少女に触れた感触が未だに残っている。

「……いや寝ていたわけじゃないんだけど……」


「私も昨日帰っちまったけどさ、そんなに疲れてたって知らなくて……ごめんよ」


「いや、書類は終わらせてあるし……」

 流石に寝転がったままではまずいと考え、ニルスは身を起こして書類を拾い集めているアナスタシアと共に、床に散らばった書類を集め始める。

 いつの間にかだが、書類は全て記入が終わっておりあとは提出するだけの状態になっている、やはりあの出来事は夢だったのだろうか? とニルスは考え、椅子に座り直した。

 少なくとも夢の中の出来事が現実だと証明することは難しいだろう、しかしあの場所は帝国にはない場所で、まるで違う世界へと行ったかのような内容だった。

 ニルスは書類を整えると、内容へと軽く目を通してから提出用の鞄へとそれを放り込む……身体がひどく疲れているのか、強い空腹感を覚えた彼は食堂へ行こうと立ち上がった。

「腹減ったわ、飯食ってくる……」


「お、じゃあ朝飯行こうぜ、私も食ってないんだ」

 ニルスの言葉にアナスタシアが微笑む……そうだよな、あれは夢だったんだよなと彼がなんとなく納得した気になり、愛用している軍用ズボンのポケットに手を入れると、そこに何かが入っている感触にあたる。

 なんだ? と彼がその物を摘んで取り出すと、そこには小さな木札が姿を表す……夢の中であの少女が放った木札、それが手に中に握られていたのだ。

 前を歩くアナスタシアについて歩きながら、ニルスはその木札をじっと見つめたあと、何度か頭を掻いてから再びポケットへとそれを押し込む。

 なんとなくだが、あの少女にまたどこかで会う気がするのだ……廊下を歩きながら、思わずそんな馬鹿げた考えに苦笑を漏らしつつニルスは歩いて行った。


「……夢だよな、荒唐無稽で面白い夢だった……もしもう一度会えたら、彼女も守ってやろう」

_(:3 」∠)_ 謎の異世界編終了


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