(幕間) 帝国歴一二七九年 異世界より 〇四
『妖に告ぐ、我※※※※※の名においてお前を祓わんッ!!』
『グオオオオオオッ!!!』
少女がその杖を振ると青白い炎が解き放たれる……地を這うような動きを見せながらウェアウルフへと迫る炎だが、それを見越していたのか怪物は大きく跳躍して少女へと飛びかかる。
まずい、とニルスが咄嗟に彼女を庇うように前に出ると、近くにあった青い物体をプルで引き寄せる……見た目とは違い恐ろしく軽いそれを怪物の視界を遮るように叩きつけると、目測を誤ったのかウェアウルフは黒い袋のようなものが折り重なって置かれていた場所へと飛び込んでしまう。
それを見た少女はものすごく嫌悪感をむき出しにした表情を浮かべたまま、ニルスとともに怪物から距離を取った。
『うわ……ゴミの山に……狙ってやったんならニルスくん結構意地悪いねえ』
「え? あれゴミの山なの?」
『そうそう、ついでにニルスくんがあいつに叩きつけたのもゴミ箱だよ』
「なんなんだここは、ゴミだらけなのかよ」
『都会の裏路地だからねえ』
少女はそう告げるとともに、裂帛の気合いとともに杖を振る。
その声に応じたのか、彼女が持つ杖がシャラン! と軽い音を立てるとともに紫色に輝く稲妻が放たれた。
ニルスの知らない魔術……紫電と呼べば良いのだろうか? その稲妻が轟音とともに、ようやくゴミの山から立ち上がったウェアウルフへと直撃する。
悲鳴とともに焼き焦がされていく怪物だが、その強靭な肉体が凄まじい威力の魔術に耐えようとする……咄嗟にニルスはアクセラレーションを使って飛び出すと、懐に忍ばせた短剣を抜き放つ。
長年の勘とでも言おうか? ウェアウルフが苦しげな声を上げながらも、憎き少女に向けて駆け出そうとした一瞬を狙い、ニルスはその足元の影へと短剣を突き立てた。
その一撃でウェアウルフはまるで影に縫い留められたかのようにバランスを崩し、転倒こそしないものの大きく態勢を崩した。
「動きを止めた! やれッ!!」
『やるじゃんニルスくん! やああっ!!!!』
少女が再び杖を振るともう一度青白い炎が怪物へと伸びた……その炎に一瞬で包まれたウェアウルフは、悲鳴とともにもがき苦しむが、そのまま存在そのものが崩壊したかのように灰となって崩れ落ちていく。
崩れ落ち灰の山と化したウェアウルフの姿に、ニルスは内心驚きを隠せないまま、炎が消滅したことを確認してから地面に突き立てた短剣を手に取ると鞘へと収めた。
驚くべき威力と言えば良いのだろうか? 炎の槍とも違う魔術で地を這うように対象を包み込むと、その後は肉体を炭化させてしまうのだ。
炎そのものに清浄な空気感があると言えば良いだろうか? まるで聖教の司祭どもが使う魔術に似たような雰囲気だ。
それにしては少女の格好や、惜しげもなく足を露出するような短いスカートなどは司祭のそれではない……本当に今ここが自分の知っている帝国ではないのだと改めて実感する。
「本当にお前はなんなんだよ……」
『私はね、先祖代々伝わる退魔師なんだ』
「退魔師? なんだそれ」
『ニルスくんに理解できる言葉だと……あー……うん、悪魔祓いとかそういうのかな』
帝国における悪魔祓いは帝国建国初期に存在した職業で、魔術師の中から特に強力な魔力の持ち主を選抜し、異次元より姿を見せる悪魔への対応を専門的に行っていた連中のことだ。
その時代はまだ土着の信仰などを悪用した悪魔が神を詐称し、奇跡と称して人々を堕落に落としていることがあり、その対応のために強制的に悪魔を異次元へと送り返すことを研究する必要があった。
そのため当時の大司祭はこの悪魔祓いという専門的な職業へと多額の援助を行い、そういった信仰を片っ端から叩き潰してまわっていたらしい。
徹底的な撲滅と殺戮……聖教の中でも暗黒期に例えられるこの出来事は、記録に残っているものの可能な限り秘匿された情報として扱われ、禁書の中に押し込められていた。
「あんまりいい意味を持っていないと思うんだがな、その言葉は」
『そうなの?! でも似た言葉がないんだよね』
「でもまあ、お前さんが怪物を退治してるというのは理解できた」
『いいねえ、話のわかるニルスくんが好きだよ』
「俺はお前さんを手助けすればいいのか?」
ニルスの言葉に黙って頷く少女……先ほどの戦いに興味を惹かれたのか、周囲にある魔力が再び圧力を増してきている。
魔術師である彼は先ほどまで歩いていた場所にはまるで感じなかったじっとりとした空気を感じ、そしてそのことが今少女を狙って再び怪物が姿を現そうとしていることを理解した。
どうやらこの世界では魔力そのものがひどく薄く、先ほどのウェアウルフのような怪物が姿を見せる時には独特の魔力をともなって現れるようだ。
不気味な魔力が弾けるとともに、ニルスと少女を取り囲むように、武器を持った白骨死体……スケルトンがカチャカチャと擦れ合う音を盾ながら姿を表す。
「……スケルトンだと……?」
『どうやら近くに道士がいるようだね……』
「道士? ……魔術師みたいなもんか」
『さっきので狙われてるね、切り抜けて脱出するよニルスくんッ!』
いうが早いか少女が懐からいくつかの木札を取り出す……ニルスが見たこともない魔術に使うものだろう、そのまま彼女はその木札を地面へとばら撒くと、みるみるうちにその木札が姿を変え、木の幹を組み合わせたような人間型の存在へと姿を変えていく。
ニルスは剣を振り上げて襲いかかってくるスケルトンへとプルを放ち、一瞬だけその態勢を崩したところへ回し蹴りを叩き込む。
『骨で出来た関節は重量があまり重くないため、スケルトンはプルで一部の骨を軽く動かせる……ほんの一瞬だが、その動きを抑制しようとして魔力で構成された身体がバランスを崩すのだ』
その隙を狙って攻撃を仕掛けることで、容易に破壊できる……任務で一緒になった冒険者が話していたことだが、実際にやってみると確かに一瞬とはいえ完全に動きが止まるものだな、と感心する。
そして魔法そのものがほぼ魔力を消費しないこともあり、彼は少女に襲いかかってくるスケルトンを相手に、同じ手法を使って次々と破壊していった。
少女が呼び出した人形……ニルスからするとウッドゴーレムの類に見えるが、その人形も多少苦戦はしていたようだが、襲いかかるスケルトンを豪快に投げ飛ばして破壊していく。
「逃げるぞ!」
『ああっ! 数が多すぎるよねっ!』
二人を追いかけようとスケルトンがその後を追うが、背中を向けて走り出そうとしたアンデッドをウッドゴーレムが次々と粉砕していくのを横目に、ニルスと少女は走り出す。
ここがどこかよくわからないが、ともかく今は少女を守らねば……駆け出した二人の前により一層大きな魔力が膨れ上がる。
その魔力を感じ取ったのか、少女の顔が緊張に強張る……ニルスも驚くほどの魔力の大きさに、思わず身構えるが、そんな二人の前に一人の男が姿を現した。
黄色い衣服は判別できない複雑な文字が描かれており、その手には先ほど少女が持っていたような木札が……そしてニルスとあまり変わらないくらいの年代であろうその男性は二人を見てニヤリと笑う。
『……退魔師※※※※※、ここであったが一〇〇年目! 我※※※※※の名において、お前を滅殺するですッ!』
_(:3 」∠)_ あー、もうカオスだよ
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