21-06 事前調整会議、閉ざされた退路
引き続き、フォルミオン第四皇子視点
新年あけて翌日、1月2日。
全貴族総会側の各貴族の座乗艦、そしてラミレス共和国代表団の艦船。
あわせて六十余隻が、帝都宇宙港に入港した。
これだけ多くの艦船が一度に帝都にやってくるのは異例だが。
帝都は年末より宇宙港を封鎖していたため、受け入れ自体は問題なく行えた。
帝都の北区画、帝国政府の庁舎群と帝国宮廷の間にある、大議場。
通常、政府と帝室の間での重要会議が行われる場所だ。
ここで”挙国会議”を開くための事前打ち合わせを行いたいと、全貴族総会側から連絡を受けた。
陛下にも皇太子殿下にも確認したが、どちらも「お前がやっておけ」と言う。
午後、ミルヌイともう一人、陛下の配下の侍従クロミック氏と共に、大議場の建物内の会議室に向かう。
到着すると既に入り口に歩哨が立っていた。制服は近衛隊のものだ。
入室すると、会議室中央の円卓に座っていたのは七人。
あとの人員は、卓に座っている各々の補佐達だろう。
ざっと見た限り、円卓の七人のうち、私が顔を知っているのは三人だけだった。
まずわかるのは、比較的若い男。
彼はクーロイの隣であるハランドリ星系を治める、クラッパ伯爵だ。
もう一人は、近衛第三連隊のビゲン大佐。
クーロイへ赴いた際に、私の警護に就いていた近衛連隊の隊長だ。
顔の分かる最後の一人は、第七突撃部隊の責任者であるヌジャーヒン准将だ。
突入作戦時はマグナス准将が司令官だったが、占拠後に司令官を交代した。
しかし、なぜ彼がここにいるのか。
彼らを含めて、七人は私の姿を見ると立ち上がり頭を下げる。
「頭を上げてほしい。
私は新年の”照覧の儀”の進行役に続いて、陛下から今回の帝室側調整役として任じられた」
臣下としての役に任じられたことを示し、暗に自分を帝室として敬う必要はないと告げる。
私の言葉に皆顔を上げる。
クラッパ伯爵に促され、円卓にあった空席に座る。
「これで揃いましたね。では、"挙国会議"に向けた事前打ち合わせを始めましょう」
クラッパ伯爵が宣言する。
お互い知らない顔もあるので、順に自己紹介していく。
他の参加者は、以下のような顔ぶれだった。
帝国政府から、法務大臣補佐官のヒューレット氏、総務大臣補佐官のダッツ氏。
帝国政府は現在、外務・法務・財務・総務の各大臣による合議制だ。
政府を束ねる宰相職は、陛下の意向で空位のままになっている。
そのため各大臣の補佐官四名が来てもおかしくなかったと思うが、法務と総務だけが来ているのは全貴族総会側の意向だろうか。
帝国軍統合本部からは、内務参謀長クララット大将。
統合本部内務部というのは、帝国軍内部の人事を取り扱う部門。
そこの長がこの打ち合わせに来ているということは、挙国会議の中で帝国軍内部の事にも切り込むようだ。
恐らくそれは――マクベス大佐率いる隊など、軍内部で密かに囲われている私兵集団の対応に向けたものなのだろう。
最後の一人は……驚くべき人物だった。
「ラミレス共和国代表団団長、ペドロ・アコスタだ」
なんと、トッド侯爵との親交・通商をもとめてクセナキス星系にやってきている、ラミレス共和国の代表団の団長を務める人物だった。
たしか、本国の役職は評議会議長……この人は、国家元首本人ではないか。
挙国会議は国難を扱う会議体……なぜここに他国の者が?
「さて、ここで挙国会議の事前調整会議を始める。
ラミレス共和国の者を呼んでいる理由が、あなた方には不明だろう。
それを説明するためにも、まずは当日会議で扱う事項をまとめた資料を提示する」
クラッパ伯爵はそう言うと、彼の後ろに控える配下が資料を配る。
それは、挙国会議の議題と内容の概要が記載されていた。
ざっと目を通すとやはり、帝国法を蔑ろにし恣にふるまう現帝室の糾弾、および重要決議とある。
糾弾の具体的内容までは記載されていないが、証人の公開尋問を含め内容を当日詳らかにする、と記載されている。
重要決議の内容は、現在の帝国法の”特別条項”に関するもの、とだけ記載されている。
この特別条項が何なのかは……今の私には、分からない。
少なくともこの特別条項については、皇子教育の中では聞いたことがなかったように思う。
「この”特別条項”とは、一体何なのですか」
そう質問するのは、総務大臣補佐官のダッツ氏だ。
わかっていないのは、私だけではないようだ。
出席する面々の表情を見る限り、この中身を分かっていそうなのはクラッパ伯爵と……法務大臣補佐官のヒューレット氏だけだろう。
「国難についての”特別な事案”が発生したときのものだ。
まさしく挙国会議にて取り扱うべき事柄だな。具体的には……」
「今は、種明かしは止めて貰いたい」
ヒューレット氏が答えるのをクラッパ伯爵が遮る。
発言の直前、伯爵は私の方を……いや、私の後ろに控える、陛下付きの侍従クロミックの方をちらっと見た。
恐らく、陛下に”特別条項”の情報を渡したくないのだろう。
あとで彼に、知っているかどうか訊いてみるか。
「皆さんにお集まりいただいた理由は二つ。
ひとつは、明日の挙国会議に参加いただく方を、各々調整頂きたいこと。
何名か、是非出席いただきたい方々がおりますので」
クラッパ伯爵は、まず一つ目の調整事項を挙げた。
そのまま彼は言葉を続ける。
「まず、フォルミオン殿下。
挙国会議には、必ず陛下と皇太子殿下、第三皇子殿下には御臨席頂きたい。
これは、”国難を扱う緊急会議”なのですから」
陛下達が逃げないよう釘を刺してくれということか。
「皇太子殿下と第三皇子殿下は、既に御臨席を了承しておられる。
陛下の御臨席は、皇太子殿下を通じてお知らせしよう」
伯爵の要請に、私は頷いた。
だが背後でクロミック氏が、私の回答に息をのむのが聞こえた。
兄上達が既に了承していることへの驚きからとみえる。
陛下の意向はともかく、兄上達の意向までは把握していなかったのだろう。
「次に帝国政府側には……法務大臣には、我々の提示する議題について法律面で確認して頂きたい。
あと、今回の議題には財務、総務も関連するので、出来れば出席頂きたい。
外務は必須ではないが、出席を拒むものではない」
「……了解しました。政府内で調整致します」
総務補佐官ダッツ氏が答えた。
「そして、宇宙軍についてだが。
今回の議題については、宇宙軍内部の人事に関する事項もある。
事前にお伝えはしていたが、クララット大将には挙国会議にご出席いただきたい。
それと、統合本部長にも」
「本部長のガールス元帥閣下も出席の意向だ。私の出席も問題ない」
クララット大将は頷いた。
「あと、第七突撃部隊司令官のヌジャーヒン准将と、前任のマグナス准将もです」
「そちらも問題ない。
ヌジャーヒン君には今日も来てもらっているし、マグナス准将も当日連れてくる」
こちらもクララット大将は了承し、ヌジャーヒン准将は頭を下げた。
クラッパ伯爵は、ビゲン大佐の方を向く。
「ビゲン大佐。近衛の、挙国会議での立場は」
「はい。当日、出席される方々は帝国内でも重鎮の方々ばかりですから、中立の立場として近衛が会場警備を行います。
それから、証人の護衛も。
各々出席される方々は、警護が必要な証人がおりましたら後ほどお知らせください」
ビゲン大佐が、伯爵に答える。
「最後に、アコスタ議長。
本来であれば”挙国会議”はあくまで帝国内の会議で、貴方をお呼びするのはおかしいのですが。
当日、例の”証人”は出席できそうですか」
「体調面に若干不安はあるが、問題ない」
アコスタ議長が答える。
今回の一連の事象に関わる”証人”という事は……3区から逃亡した、生存者達なのか?
体調面の不安が?
私の疑問を他所に、伯爵が議長の回答に頷いて続ける。
「了解です。明後日に向けて、各出席者の調整をお願い致します」
そう言って伯爵は、他の出席者に頭を下げた。
「そしてこの事前調整のもう一つの議題ですが……会議の後、”この国の在り方”を議論する場を持ちたい」
伯爵のこの申し出に、一同の間に緊張が走る。
「正式な招集は、我々ではない”別の方”から別途出されることになるでしょう。
皆様には、この議論の場に臨む”覚悟”をしておいていただきたい。
私の方からの、事前調整会議の議題は以上です」
その後、政府側や宇宙軍側から幾つか質問が出て、伯爵が答える。
大した内容ではない質問には答えていたが、会議の議題内容に踏み込むところは全て、伯爵は回答をはぐらかしていた。
「フォルミオン殿下……少し、良いでしょうか」
事前調整会議からの帰り道、陛下の侍従クロミック氏が私に尋ねる。
「なんだろうか」
「帝国法に記載されているという”特別条項”ですが……殿下は、御存じでしょうか」
彼の質問に私はミルヌイに視線を向けるも、彼も知らないと首を振る。
「私も分からん。君が知っていたら聞こうと思っていたくらいだ。
皇子教育では、挙国会議でさえ『まず成立することは無いから、知らなくていい』と教育係に言われていたくらいだからな」
私の答えに、クロミック氏は溜息を吐いた。
想像する限り、この”特別条項”の成立については帝室としても想定をしていなかった。
元々は、貴族達を納得させるために入れた条項なのだろうと思われる……文字通り、死文とするつもりで。
「私も、わかりません。
しかし、如何に貴族の方々でも……陛下の御臨席を要求するなど、不敬でございましょう」
クロミックの文句に、私は首を振る。
「言っておくが、クロミック。この件は既に帝室の……いや、陛下の手を離れている。
挙国会議が貴族側によって起こされた以上、帝室によって中止や解散をさせる事は出来ない。
陛下が御臨席しなければ、帝位の交代すらあり得る話だ。
”国難事項”に立ち向かえない皇帝陛下など、不要だと言われても仕方がないのだからな」
私の言葉に、クロミックは目を見開く。
「皇太子殿下も第三皇子殿下も、出席を了承しているというのは……」
「事実だ。私自身が、昨日面会して確認した。
だからな、クロミック。
陛下には明後日の”挙国会議”の御臨席を、決定事項として奏上してくれ」
彼自身、回避の策を考えていたのだろう。
だが私の回答に、暫く考えた後、彼は頭を下げた。
陛下にはもう”挙国会議”からの逃げ道がないのだ。
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