21-04 皇帝の焦燥、凍てつく親子の絆
フォルミオン第四皇子視点
皇太子の使いから連絡を受け、謁見室の奥――陛下の宮へ通じる通路を守る侍従に、連絡事項を伝えて陛下を呼び出してもらう。
謁見室に戻ってミルヌイと待っていると、陛下がやって来た。
「なんだ、フォルミオン。
皇太子からの使いが来たと聞いたが」
そう話す陛下に、使いから受け取った書状を渡す。
書状に目を通す陛下は、読み進めるにつれ、みるみる顔を歪めた。
二日後に”挙国会議”を、ここ帝都の大会議堂で開くという通達だ。
全貴族総会は、領主あるいはその補佐を行う貴族側で実施される会議だ。
帝室による領主貴族の任命・解任をこの全貴族総会で審査し、場合によっては却下するという強い権限があるのだが、一方で全貴族の六割以上の賛同が必要と、法の定める招集条件が高い。
長い帝国の歴史の中でも何度か開催されたことはある。
しかし今までは、いざ総会が始まっても内部で意見割れし、意見統一にまで至らなかったという。
だからこの総会も、今まで有名無実化していた、と認識していた。
それが、今年は総会が開かれ……他ならぬ私が、クーロイ領主としての陛下の任命を却下され、罷免されたのだ。
今は、そこまで帝室と貴族の間の対立が深いことを指している。
そして、この”挙国会議”。
帝室教育で習ってはいたが、その会議体のことは、私も書状を見るまで忘れていた。
この会議の開催条件は”帝室側、あるいは貴族側の八割以上が開催に賛成すること”。
貴族側の派閥は常に三つ以上に分かれており(帝室が上手くそう仕向けて来たのも一因だ)、全貴族の八割の意見を統一するという事が、事実上不可能だった――今までは。
それだけハードルの高い招集条件の課せられたこの会議体が議論するのは、”国難案件”。
この帝国の存続の危機に関することを議論するための会議体であると定められている。
その”挙国会議”の開催が貴族側から通達された。
つまり総会内で意見統一がなされ、八割以上の意見が統一されたということだ。
この会議体が開かれるのは、帝国成立以来恐らく初めてだろう。
それだけ、貴族側の危機感が強いことを表している。
帝室は、この会議体への出席要請を拒むことができない。
何故なら話し合われる内容が”国難案件”だから。
帝室が国難案件から逃げる訳にはいかないのだ。
それが、陛下をいら立たせている理由だろう。
「カエサリスとグロスターはまだ戻らんのか。彼らと善後策を相談したいのだが」
私は、首を振った。
「陛下。こちらの、賛同者署名の一覧を良くご覧ください」
そう言って、書状に添付されていた”挙国会議”の賛同者名簿の中から、問題の箇所を示す。
「なっ……なんだと」
私が指差したその名前に、陛下が驚きに目を見開く。
そこにあった名前は――エミール・アレッサンドロ・カルロス侯爵。
3区の式典に突入した第七突撃部隊に命じて私が拘束させた、クラターロ・クーロイ両星系を治める領主貴族。
その名前がここにあるという事は、彼は既に、秘密裏に救出されたのだろう。
ということは、同時に拘束させたラズロー特務中将も、恐らく救出され向こうにいると思われる。
そして……。
「……カエサリスもグロスターも、向こうの手に落ちたと?」
「二人が中将と侯爵の身柄を確保していたのであれば、その可能性は高いでしょう」
陛下の疑問に私は頷いた。
少なくとも、私は3区で捕らえた二人の身柄をグロスターに預けていた。
その後陛下の命でカエサリスに引き渡し、彼が帝都へ護送したとも聞いている。
中将と侯爵が解放されたなら、捕えていたカエサリスとグロスターは捕えられたと考えるのが自然だ。
「そうか……くそっ。
ならばフォルミオン、マクベス大佐と連絡は取れるか」
マクベス大佐……第二二三陸戦連隊を率いていた男。
だが大佐は歌謡祭の放送中に乱入し、ステージに立っていた女を追って消えてしまった。
私はテレビ放送を見ていただけで、あの混乱には関わっていないし、大佐と連隊があの後どうなったのかは分からない。
「私は彼と直接チャネルを持っておりません。
大佐とはグロスターを通じてしか連絡を取ったことがありませんので」
話していて気付いたが、ここまで音沙汰が無いのであれば、大佐も捕えられた可能性を考えないといけないだろう。
……本気を出した大佐をどうやって捕らえることができるのか、私には想像すらできないが。
私がまたも首を振ると、陛下は私に毒ついた。
「ちっ……肝心な時に、まったく役に立たん。
まあいい。フォルミオン、このような“挙国会議”など、出席せずに済む方法はないのか」
先ほどの書状には『陛下、皇太子殿下ともに御臨席の上で会議を開く』と書かれていただろうに。
国難であると示されたこの会議に、陛下が逃れる術はないだろう。
「陛下の御臨席は必須でしょう。
先ほど臣民の前で健在ぶりをアピールしておりましたので、今ここで”病を得た”という言い訳もできないかと思われます。
もしそうするなら、近々の禅譲を示唆することになりますが」
陛下は、大人しく皇帝の座を明け渡すつもりは無さそうな気がするが。
「他に居ない以上、しかたあるまいか……。
フォルミオンよ。お前をこの”挙国会議”の私の調整役に任命する。
できるだけ開催を引き延ばせ」
「……調整役、承りました。
開催の引き延ばしについては約束できかねますが」
陛下は何故か、私の答えにフフフと笑う。
「言う様になったな、アエティオス」
陛下は私を、以前のようにファミリー内でしか使わないセカンドネームで呼ぶ。
以前なら喜んだかもしれないが……今の私には、それに対して嫌悪感しか覚えなかった。
「陛下は……帰還した私を役立たずと呼び、謹慎させ、挙句に臣下の職務を割り当てられました。
発令はまだとしても、私は既に帝室を離れる者と思っております。
なのに今さらセカンドネームで呼ばれても……陛下は、一体私をどう扱うつもりなのでしょう」
「な、んだと……」
何故か陛下は私の返答に驚き、口を開いたまま言葉が出ない。
「私は、陛下の臣下として職務に全うさせて頂きます。
では早速、”挙国会議”に向け調整を進めさせていただきますので、失礼致します」
そう言って陛下に頭を下げ、謁見室をあとにする。
(あの陛下の態度は……一体何を意図しているのか。本当に理解できない)
皇太子殿下の執務室へ向けて廊下を歩く中、思わず呟いていた。
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