表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第21章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

250/257

21-02 動かぬ証拠、決起する貴族達

時系列は、前章で歌謡祭から戻ってきた主人公が

小父さん達に会う為に退出した後から。


トッド侯爵視点

 マーガレット君が退出した後、私は集めた一同へ着座を促した。

 

「作戦が無事成功し、中将とカルロス侯爵を解放できた今……。

 早急に総会を開いて、帝室への意見書を作成せねばならんな」


 ミツォタキス侯爵の意見に、この場の全員が頷く。


「前の会場は引き続き押さえています。

 ただ二人がこちらに居ることを、帝室に察知させてはまずいでしょう。

 それに、カルロス侯爵の健康状態も良くありませんし」


 カルロス侯爵は年齢に加えて長く監禁されていたため、体調が良くない。

 この場にも、車椅子に座り点滴を打たれながら参加している。

 そのカルロス侯爵が手を上げた。


「ミツォタキス侯爵、トッド侯爵、グリシッチ侯爵。

 それぞれの派閥の領袖が、折角ここに勢揃いしているのだ。

 ならば、外から見えないように三艦を有線で繋いで、三人が派閥を自身の艦に集めて会議を開けばよいだろう。

 外部――帝室の鼠から覗かれたとて、“派閥ごとに分裂し始めている”と見るだろうな。

 たとえ内部では、統一された会議になっていても」


 彼の意見に、私はミツォタキス侯爵と顔を見合わせた。

 それは、良さそうな案だ。


「カルロス侯の案でいこう」


 ミツォタキス侯爵の一声で方針が決まった。



 私は、自分の派閥から参加している者達を集めた。

 ミツォタキス侯爵も、私と喧嘩別れした演技をしながら自分の艦に戻り、譜代派閥の者たちを集める。

 グリシッチ侯爵も私達と歩調を合わせ、派閥の貴族達を集めてくれるそうだ。


 そうしてそれぞれの派閥の貴族達を艦内の会議室に集め、それぞれの艦を回線で繋ぐ。


「それでは、帝室との協議前の、最後の会合を始める」


 ミツォタキス侯爵の宣言で、秘密の総会が始まった。


「前回の総会での議論を受けて、首脳部で協議を行った結果。

 改めて、皆にこの内容で帝室に臨みたいと考えている」


 そうして、ミツォタキス侯爵から要求内容の説明を行った。


 一、 今上皇帝であるアレクサンドロス陛下の退位

 一、 今上陛下の退位後の後任は、全帝室と全貴族総会側の合意によって定める

 一、 帝国の国体維持のための、本来あるべき帝国の在り方を協議する“改革会議”を

    全帝室・全貴族総会の双方で作ること


「前回より強硬案になっているではないか。

 あの陛下が、ここまでの要求を認めるとは思えない」


 こう声を荒げるのは、グリシッチ侯爵派閥の一人だ。

 ミツォタキス侯爵側の会場も、こちらの会場内も騒然となる。


「そこまでするのか」

「向こうがそれを認めない場合はどうなるのだ」


 今上皇帝の退任を求める決議案に、そんな声が次々と挙がる。


「皆の意見は(もっと)もだ。

 だが他ならぬ帝室がこの帝国の存続を脅かす事態を招いた場合、貴族側の総意をもって帝室を(ただ)す権利を定めた、帝室法の“特別条項”がある。

 帝室自体もこれを忘れているだろうがな。

 この特別条項の適用を求めるつもりだ」


 ミツォタキス侯爵の発言に、どの会場も一層騒然となる。


「ここまでのことを、全体協議の場で求めるのだ。

 それなりの成算はあるんだろうな」


 こう発言したのは、グリシッチ侯爵本人だ。

 派閥の領袖として属する貴族たちの代表として振舞わねばならない彼は、ミツォタキス侯爵へも強気で発言する。

 今この場では、こういう態度を取っていただくのが有難いのは確かだ。


「無論だ。まずは、こちらをご覧頂こう」


 私はその発言に答え、控えていた配下に準備させる。

 程なく三会場のプロジェクターに、用意した映像が流れる。


 映し出されたのは……昨夜の“帝国年末歌謡祭”、最後のあの娘のステージの終わりに、宇宙船が突入して来た後に流れたもの。


『やっぱり”クロップス宙賊団”を連れて来たのね、リオンさん……。

 いえ、マクベス大佐と呼べばいいのかしら』


 ホール内に顔を出した男と、それに応えるマーガレット君。

 FTL通信で全帝国に配信された生放送を録画したものだ。

 ここで、一旦映像を止めさせる。


「これは昨日、帝国第一放送で生放送された“帝国年末歌謡祭”の一幕だ。

 これは演劇ではない。

 彼女のステージに、“クロップス宙賊団”を名乗る一団が乱入した時のものだ」


「クロップス宙賊団だと!?」


 ミツォタキス侯爵の会議場で、一人の若い貴族が立ち上がって叫んだ。

 あれはカーネイジ子爵……スパニダス星系で宙賊団から多大な被害を受けた当事者だ。


 譜代貴族ではない彼があそこにいるのは、主にミツォタキス侯爵の支援を受けながら星系と家臣団の再建に取り組んでいるためだ。

 その彼が、宙賊団の名前を聞いて黙っていられるわけがない。


「そうだ。この姿を現した男のアップ映像が、これだ。

 この横に――今年クーロイ星系にて、行方不明者追悼の式典に乱入した宇宙軍第七突撃部隊の上級幹部達の写真を見せよう」


 投影している映像が半分に割れ、残りの半分にはクーロイ3区コロニーで乱入して第四皇子の傍に侍った上級幹部達の映像が映る。


 その一人を拡大すると、昨日の放送中に乱入して来た者と同じ顔がある。

 貴族たちがざわめき、誰かの息を呑む音が聞こえた。


「その男が、陛下の差し金で歌謡祭に乱入しただろうことは理解した。

 だがその男が、本当にクロップス宙賊団だという証拠はどこにある」


 カーネイジ子爵が発言する。


「次に、こちらの映像をご覧頂こう」


 私は再度指示し、映像を切り替えさせる。

 今度の映像は……私の統治するクセナキス星系の主星ユーダイモニアで起きた事件。

 天井が破壊され、そこから飛びこんで地下のシェルターに降り立つ男。


 男の行動が常人に成し得るものではないことに、会場の空気が一層騒がしくなる。


「先日クセナキス星系で行われた、この全貴族総会による第四皇子殿下への公開質問会の後。

 企業経営者の邸に宇宙船が衝突し、邸に来ていた経営者の娘を攫って行った犯人の映像だ。

 その時の邸の防犯カメラの映像を提供頂いている」


 映像に映し出された男の顔を拡大し、先ほどの二つの映像と並べて比較する。

 同じ顔が三つ並んだことに、更に会場の空気が騒然となる。


 私は決定的な証拠を追加する。


「そしてその経営者の娘を誘拐後、私の配下に届いた脅迫状が……これだ」


 最後に、ファレルの所に届いた脅迫状の書面を投影する。

 差出人の所には、はっきりと“クロップス宙賊団”の記載がある。

 これらすべての情報を鑑みた結論は、事情を知る者には明らかだ。


「まさか……この男が、“破壊神”だというのか!」


 カーネイジ子爵の叫びに、三会場それぞれに動揺が広がる。


 宙賊団から多大な被害を受けたのは、スパニダス星系だけではない。

 クロップス宙賊団の事は、領主貴族家にとって他人事ではないのだ。

 だからこのクロップス宙賊団の名を知らしめた恐怖の代名詞たる、”破壊神”のことが、重大な関心事になる。


「この男は、所属上は帝国宇宙軍第二二三陸戦連隊長、マクベス大佐だ。

 今年クーロイ星系へ侵攻し占拠した第七突撃部隊にも参加し、犯罪紛いの捜査を行う陸戦部隊を指揮していた男だ。

 だが、彼の率いる第二二三陸戦部隊――その内実は一切不明だった。

 彼らの突撃部隊への参加も帝室が捻じ込んだものだと聞いている」


「……同じ男が、片やクロップス宙賊団を名乗って、エインズフェロー女史を攫い、帝国第一放送を襲った。

 つまり、彼の行った全てが、あの陛下の差し金であるということか――二十年前のスパニダス星系の件も、含めて」


 カーネイジ子爵が、私の言おうとしていたことを継いで言う。

 私も彼に頷いた。


「つまり……あの陛下は法で認められていない暴力手段を持ち、帝国法を超えてその上に君臨しようとしている。

 これを許せば、帝国法は有名無実となり、帝国民も我々貴族も、生殺与奪は全て陛下の胸先三寸に委ねられる。

 七十億の臣民の命が一人の男の気まぐれで脅かされるなど、あってはならんのだ」


 ミツォタキス侯爵が、全員に告げる。


「だが、イデア中将も、カルロス侯爵も……向こうが拘束している。

 おまけにあの”破壊神“。

 あの皇帝が強硬策に出たら、どうする積りだ」


 グリシッチ侯爵が、ミツォタキス侯爵への質問を投げる。


「昨日のホール襲撃事件の後、近衛隊がマクベス大佐の拘束に成功した」


 私の言葉に、三会場でどよめきが起きる。


「ほ、本当か……あの、”破壊神”を、拘束!?」


 カーネイジ子爵の驚きが聞こえる。

 私もミツォタキス侯爵も頷いた。


「無論、大佐を“破壊神”たらしめていた彼の義腕義脚は、取り外して無力化してある。

 一緒にやって来た彼の配下も同様に拘束している。

 あの恐怖の象徴たらしめる力が、我々や臣民に振るわれることはない」


 私の言葉に、驚きと共に安堵の溜息が広がる。


「それともう一つ、皆の心配の種も取り除いてある。

 彼らをお通ししてくれ」


 私の指示で、こちらの会議室に入ってくる人物が二人。

 イデア=ラズロー特務中将は、しっかりとした足取りでそこに立って。

 一方体調を大きく崩しているカルロス侯爵は、車椅子に座ったままで。

 

「我々は昨夜、帝都北部に広がる保護森林に隠された隔離施設から救出頂いた。

 ミツォタキス侯爵とトッド侯爵、そしてその他協力者の方々の尽力に感謝する」


 そう言って、中将は頭を下げた。

 その横でカルロス侯爵も頭を下げる。


「彼等を救出する際、クロップス宙賊団に攫われたはずのもう一人の女性も救出した。

 そして、奪還にやって来たカエサリス宮廷伯およびグロスター宮廷伯を拘束している。

 施設はグロスターの抱える諜報部隊の拠点の様で、彼の配下も拘束済だ」


「皇太子がどこまで陛下の計画に絡んでいるかは分からんが、企みの中心人物はほぼ陛下の側近連中だ。

 腹心のいない今の陛下は丸裸だろう。あの方に手札の無い今こそ、攻め時なのだ」


 私の発言を、ミツォタキス侯爵が後押しする。


「……なぜスパニダス星系が、あのような悲惨な目に遭ったのか。

 領主家カーネイジ家として何がいけなかったのか。

 父はあの事件を悔やみながら亡くなり、私も……ずっとあの時失った多くの命に詫びながら、生きてきました」


 若いカーネイジ子爵が、そう零す。

 

「それが、実は単なる陛下の気まぐれ……いや、帝国成立以前の旧五王家への下らない敵意だけのため。

 それだけの為に、あれだけ多くの命を奪ってきた、あの陛下を。

 私は到底、認める事はできません」


 彼は、俯きながら……床に雫を零しながら、話を続ける。

 

「ですから、ミツォタキス侯爵、トッド侯爵。

 ――今上陛下に、責任を取らせましょう」


 カーネイジ子爵の低い声が、三つの会場すべてに澱のように沈んでいた空気を揺らした。


 若い貴族たちが、思わず息を呑む。

 その背後で、クロップス宙賊団に家族や領地を荒らされた老練の者たちが、静かに目を閉じた。


 彼らは皆、同じ問いを胸に抱えていた。

 ――なぜ帝国は、ここまで歪んでしまったのか。

 ――なぜ臣民は、法の外で理不尽に振るわれる暴力に怯えねばならないのか。

 その問いが、子爵の言葉と共に、ついに形を得る。


「今上陛下が認められるべきは“皇帝としての権威”ではない。

 我々の民を守らず、帝国法を踏みにじり、側近と宙賊を使って私欲を満たそうとし、国体すら危うくした――その“責任”だ」


 ミツォタキス侯爵が、子爵の言葉に重ねるように静かに続ける。

 議場のざわめきは、恐れではなく、確信を孕んだものへと変わっていく。


「我々は、帝国を壊したいわけではない。

 だがこのままでは陛下の、帝室の行いによって、帝国は壊れる。

 民は恐怖し、法は骨抜きとなり。

 明日は我々自身が宙賊と変わらぬ暴力に屈する日がやってくる」


 言葉が三つの会議場へ、鈍い鐘の音のように響く。


「――だからこそ、だ」


 私は深く息を吸い、全員を見渡しながら言った。


「今こそ、我々が“正当な秩序”を取り戻さねばならない。

 この帝国を、七十億の臣民を、陛下の暴走から守るために。

 そのために、我等全貴族総会は一致団結して帝室に臨むべきだ」


 一瞬の静寂。そして――


 まず若い貴族たちが、椅子を軋ませて立ち上がった。

 次に老練の者たちが、静かに、だが力強くそれに続く。


 疑念と恐怖で足を取られていた者たちも、周囲の決意に背を押されるように立ち上がった。


 やがて三会場の全員が、揃って立ち上がる。


「今上皇帝を糺さねば――帝国に未来はない。

 今こそ、我等一致団結して、戦う時だ!」


「「「「「応!!」」」」」


 その声は、三つの会場を繋ぐ通信回線ごしに共鳴し。

 まるで巨大な一つの意志が形を取ったかのように響き渡った。



 ――第四皇子糾弾後、烏合の衆となりかけていた総会は、今。

 明確な敵と目的を前に、再びひとつの力へと収束した。


 私は画面の向こうのミツォタキス侯爵と視線を交わし、互いにわずかに頷いた。

 これで、陛下を追い詰められる。



いつもお読み頂きありがとうございます。


ブクマや評価、感想、いいねなどを頂けると執筆の励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ