21-01 歌謡祭が終わり、年が明けた日常
ラウロ視点
あの三隻の宇宙船が帝国第一放送大ホールに衝突したあの映像のまま。
昨日の歌謡祭は、終わってしまった。
あれからしばらくニュースを見ていたけど。
「もう遅いから、ラウロは寝なさい」
そう言うお父さんとお母さんに寝室に行くよう言われ、リビングから追い出されてしまった。
翌朝も、歌謡祭の事件をテレビが報道していた。
あの映像から二時間近く経ってから、宇宙船はホールを離れて飛び立ち、首都星エオニアの大気圏を抜けてどこかへ行ってしまったらしい。
あそこを襲った人たちも……その集団まるごと、どこかに消えてしまったという。
それにあれだけの騒ぎになったのに、どうやら出演者やホールに居た観客、歌謡祭のスタッフの誰一人……死者も出ていないし、大怪我をした人もいない。
転んで怪我をした人が数人いただけらしい。
昨日のアレは、何だったんだろう。
あの、宇宙船が突入して来た映像は……夢だったんじゃないか。
そう思おうとも、したんだけど。
――あれは実際に起きたことだと、突きつけられることが、二つ。
一つは、日が明けてからの、会場となったホールの映像。
建物には、宇宙船がぶつかって出来た大きな穴が三つ。
その周囲が大きく崩れている。
壊れた大ホールはすぐに直せず、来年はこの会場で歌謡祭は出来ないだろう、と報道されていた。
そして、もう一つ。
安否が確認された出演者の中には――星姫ちゃんの名前が、無かったこと。
『最後のシークレットステージに出演して頂いた女性ですが。
ナタリー・エルナン氏は、無事が確認できています。
もう一人の女性は――現在、確認中です。
今は……我々も、これ以上のお話できる情報はありません』
番組統括責任者だという女性は、記者会見で……苦しそうに、話していた。
今日は、新年最初の日。
年が明けたことを祝う華やかな番組ばかりが、テレビの画面を流れていた。
歌謡祭はFTL通信で流されていたとはいえ、あの事件が起きたのは、遠い首都星エオニア。
あの事件は衝撃だったとはいえ……ここクーロイでの生活には、まず影響のある事じゃない。
年明けの祝賀ムードが、テレビを、ラジオを、コロニー中を包んでいた。
でも、僕は……星姫ちゃんの安否が分からない今、そのムードに乗る事が出来なかった。
そこに、携帯端末が震える音が聞こえた。
通信が入ってきてる……ロイからだ。
『ニュヤーだな、ラウロ』
「ニュヤー、ロイ。あんま、ハッピーじゃないけど』
新年のお祝いだと「ハッピーニューイヤー」って言うところだけど、面倒なので「ニュヤー」って言ってる。
こんな言い方を知らなかったけど、去年の年初には学校の皆がそう言い合ってた。
『まあな……歌謡祭があんなになったし、“星姫ちゃん”が行方不明らしいしな』
「そうなんだよ」
そこに、以前住んでたクラターロ星系の友達から、メッセージが届いた。
ロイと昨日の歌謡祭の事を話しながら、そのメッセージを見てみる。
『ハッピーニューイヤー!』で始まっていたのを見て、ニュヤーはこっちでだけ流行ってるのかなと思いつつ、続きを読むと……あの歌謡祭に乱入した男と星姫ちゃんの、あの後のやり取りの音声らしいものが、ネットに出回ってるらしい。
圧縮データへのリンクが一緒に送られてきていた。
ローカルにダウンロードして、圧縮されたデータを解凍する。
『ん、どした、ラウロ』
「なんか別星系の友達が、アングラサイトで回っている音声を送って来たんだ。
あの歌謡祭が中断した後の、星姫ちゃんと乱入した男との会話。
出元はどうやら、歌謡祭の観客らしいんだ」
『マジかよ!? ラウロ、その音声流せる?』
「今、解凍中」
通話をしながらロイと一緒に聞くために、解凍データを家の端末の僕のデータエリアに転送。
部屋の端末を使って、音声を再生する。
《やっぱり”クロップス宙賊団”を連れて来たのね、リオンさん……。
いえ、マクベス大佐と呼べばいいのかしら》
そんな星姫ちゃんの言葉で始まった、音声データ。
『……なあ、ラウロ。これ、星姫ちゃんか?
歌ってた星姫ちゃんと、なんか声の雰囲気が全然違うんだけど』
ロイは通話の向こうで、そんなことを言っている。
……でも。僕には、確信がある。
「これは星姫ちゃんだよ……式典の時のラジオ放送の声と同じだよ」
『耳が良いラウロがそう言うなら、そうなんだろうなあ……』
その後の音声データの内容は、僕には……良く分からなかった。
ただ、十七年前の、3区の天体衝突。
更にその何年か前に起きた、スパニダス星系での大虐殺事件――この事件の事は僕は知らなかったけど。
そのどちらにも、この国の皇帝――一番偉い人が関わっているらしいってこと。
ロイと相談して、“あの掲示板”にこの音声データの事を知らせて、データへのリンクを送る。
「ラウロ、そろそろご飯よ」
扉の外から、僕を昼ご飯に呼ぶお母さんの声が聞こえた。
「そろそろご飯みたいだから、切るね」
『ああ、うちもそうみたいだ。またな』
ロイとの通話を終了する。
三十分後、ご飯を食べ終わって携帯端末で掲示板を見る。
――おじさん達の書き込みが物凄い事になっていた。
おじさん達が、そのスパニダス星系の大事件についても、詳しく解説を書いてくれていた。
星姫ちゃんが、歌謡祭で話していた事。
『帝室と戦うために、戻ってきました』
星姫ちゃんが戦っている相手が、こんなとんでもない――この帝国で一番力のある、皇帝陛下と戦っている。
そんな恐ろしい相手と戦っているなんて……。
今更ながら、恐ろしくなったけど。
それに続く、ロイの書き込みを見た。
《あのゲームアプリをみんなで作ったのはさ。
そんな星姫ちゃんに、一人で戦ってるんじゃないって伝えるためだったじゃないか》
……うん、そうだった。
理不尽な侵攻をしてきた宇宙軍の真実を広めるため。
そんな宇宙軍に命を狙われていた星姫ちゃんを助けるため。
アプリを作る前、ロイと僕は、何かできないかって考えて……あのアプリを、掲示板の仲間のおじさん達と作ったんだった。
今すぐ、僕ができる事は……。
この音声データの拡散は、おじさん達がやってくれるみたいだから――子供は危ない橋を渡っちゃいけないって、おじさん達に叱られちゃったし。
そうだ……お父さんは、自治政府で働いてるんだ。
お父さんにこの音声データを渡して、自治政府に歌謡祭の裏で起きていたことを知らせよう。
ここの自治政府は、最後までやって来た宇宙軍と揉めていたらしいから、ひょっとしたら上手く使ってくれるかもしれない。
後は……思いつかない。
遠い首都星で起きたことに、辺境の星系に住む小学生ができることは、他にはない。
でも、せめて――星姫ちゃんの無事を、祈っていよう。




