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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
閑話 年末のささやかなお祝い

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03 たくさんの人に支えられ、いま少し背伸びする

本日は三話同時投降です。

当話はその三話目です。


再びメグ視点に戻ります。

 キリのいいところでマルヴィラお姉さんにも戻ってきてもらい、ひとまずここに居る全員に飲み物を配る。


 飲み物はペドロさんが手配してくれたらしい。


 私は未成年ということで少し冷えたお茶。


 ケイトお姉さんとマルヴィラお姉さん、ナナさんも同じお茶を選んでいた。

 三人ともお酒は飲めるけれど、ケイトお姉さんは体を休めるため、マルヴィラお姉さんはまだ料理を続けるため。

 ナナさんはランドルさんから「無理をするな」と言われているらしい。


 小父さんたちはというと、さすがにお酒を選んでいたけれど、今日は強いものではなく軽めのものにしているようだった。


 皆、久しぶりの緊張のない時間に、どこか表情が緩んでいる。


「今年は、メグが音頭を取ってくれ」


 ライト小父さんにそう言われ、私は一歩前に出た。


「今年、私とグンター小父さん、セイン小父さん、ライト小父さんは……ようやく3区コロニーを脱出できました。

 まだ命の危険が完全になくなったわけじゃないけど。

 それでも、生き延びることができました」


 一瞬、喉が詰まる。


「それに……帝室側に捕まっていたケイトお姉さんを、みんなで助け出すこともできました。

 ここにいる皆さんのおかげです。本当に、ありがとうございます」


 胸の奥が熱くなり、言葉が途切れそうになるのを必死にこらえる。


「今年は、つらいこともたくさんあったけど……それでも、こうして誰一人欠けることなく年末を迎えられました。

 だから来年もまた、みんなで笑って過ごせますように――」


 小さく息を吸って、私は言った。


「乾杯!」


「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」


 グラスやカップが触れ合い、軽い音が響く。


 そこからは、自然と賑やかな時間が流れ始めた。

 それぞれが飲み、食べ、近況を語り合う。


 ほんの一年前までは、想像もできなかった光景だ。



 私と小父さん達は、3区で生き延びるだけで精一杯だった。

 去年のこの時期はまだケイトお姉さん達とも知り合う前だったから、4人だけの密かな生活だった。

 他のコロニーで処理できず捨てられた生ごみから再生装置で作ったレーションパックだけで食いつなぐ日々。

 一日一日を生き延びるのに精いっぱいだった、あの日々。


 それが今では、こうして大勢に囲まれ、温かい料理を囲んでいる。

 人生が、こんなにも変わるなんて。


 そんなことを思っていると、最初に声をかけてきたのはアイちゃんだった。


「メグちゃん! 料理ありがとう! すごく美味しそう!」


「こちらこそ、来てくれてありがとう。

 アイちゃんがいなかったら、ここまで来られなかったよ」


「えへへ……それは言い過ぎだよ。

 でも、そう言ってもらえるのは嬉しいな。

 あの時、名前を漏らしてしまったことは、反省してるわ」


 彼女が言っているのは、視察の時に偽名を名乗っていた私をメグちゃんと呼んでしまったこと。

 あれが、リオンさんに私が潜伏している事を知られる切っ掛けになってしまった。


 私は、彼女の謝罪を受け入れるように頷いた。


「もう、いいよ。ケイトお姉さんはもう戻って来たんだから」




 そこへ、料理を山盛りにした皿を持ったセルジオさんもやってくる。


「マーガレットさん! 今日は本当にありがとうございます!

 父さんとも……ちゃんと話せました!」


 いつもより少しテンションが高い。

 顔も少し赤い。


「……もしかして、お酒飲んだの!?」


「え? ええと……少しだけ……」


 直後、彼の背後から鋭い視線。


「セルジオ君。ペドロさんから、学生の間は酒を飲まないよういわれてなったかしら。

 ちょっと来なさい」


「え、ちょ、チャロさん!?」


「さ、戻ろうか。チャロはそっちを持って」


「アイーシャさんまで!? ちょっと、まだマーガレットさんに話が……!」


 そのまま二人に引きずられていくセルジオさんを見送りながら、私は苦笑する。


「……お酒、弱いんだ」


 それに、なんだかいつもちょっと抜けてるんだよね、セルジオさん。



 続いてやって来たのは、ドクだった。


「マーガレット君。少しだけ話せるかな」


「もちろんです」


「もう少ししたら引き上げるつもりだ。

 だがその前に、礼を言っておきたくてね」


 ドクは静かに続けた。


「君が居なければ、十七年前の件は永遠に闇に埋もれたままだった。

 私が残してくれたものを、紐解いてくれて感謝する」


「そんな……。私こそ、ドクの残した証拠に助けられました」


「ふふ。君は本当に、優しいな」


 ドクはそう言って、小さく笑った。


「いよいよだな。察するに、皇帝の前であの暗号を解いて、真実を明らかにしろとでも依頼されたのだろう?」


 ドクは、本当に何でもお見通しだ。

 私は彼に頷いた。


「それはまた明日か明後日にでも打ち合わせしよう。

 君は今日はもう、ゆっくり休むといい」


「ありがとうございます」


 頭を下げると、ドクは静かにその場を離れていった。

 後ろでクロも私に会釈してくれた。



 さて、私も他の人の所に……と思ったら、クレトさんがやって来た。

 なんか、ひっきりなしに私の所に来るなあ。


「クレトさん、お疲れ様。

 クロップス宙賊団と直接戦ったって聞いたけど、大丈夫だったの?」 


 今度は声を掛けられる前に、私からクレトさんに声を掛けた。


「ああ、会場を襲ったあの賊たちは、ちゃんと捕まえて全員近衛隊に引き渡してきたよ。

 うちも怪我人は何人か出たけど、大した怪我じゃない。

 マーガレット君のプレッシャーに比べたら、なんてことないよ」


 作戦前に聞かされたけど、クレトさんは共和国の中でも最精鋭の部隊の一人だったみたい。

 私がリオンさんを引き離した後、残りのクロップス宙賊団を打ち倒すのが、クレトさん達の役目だった。


 ビゲン大佐達がみんなやられた相手だったから心配だったけど、クレトさん達の方が強かったらしい。

 クレトさんって優しそうな人だけど、実は凄く強い人だったんだ。


「確かに怖かったけど、私はニシュに抱えられて逃げてただけ。

 あの人をマルヴィラお姉さんが無力化してくれたから、なんとか生き延びられたの。

 皆に助けられて生きてるんだって思えた。

 ――クレトさんも、今年お世話になりました。ありがとうございます」


 そう言うとクレトさんは微笑んで、私の頭をポンポンと叩いた。


「マーガレット君も、ビゲン近衛大佐と一緒に作戦を練ってたと聞くよ。

 あの綿密な作戦が無ければ、あの賊たちに対して有利な状況で戦えなかったと思う。

 私達の方が頭数も少なかったしね。

 誰も欠けることなく作戦を無事に終えられたことに、私達はみんな君に感謝してるんだ。

 ――ゆっくり話したかったけど、私も作戦後だから、もう少ししたら戻らせてもらうよ」


「お疲れさまでした」


 クレトさんは手を挙げて、また別の人に挨拶に行った。



「メグちゃん」


 今度はナナさんだ。すぐ後ろにはランドルさんもいる。


「ステージに立った後はあのマクベス大佐に追いかけられて、大変だったでしょう。お疲れ様」


「ナナさんこそ、ケイトお姉さんの居場所を突き止めてくれてありがとう。

 船の引き渡し後の大佐とスパイさんとの記録もそう。

 ナナさんには、とても感謝してる」


 私が感謝を伝えると、ナナさんは少し照れるような表情をした。


「エインズフェローさんは、3区の会でも一緒だったけど……私とそう変わらない歳なのに随分立派な人だなって、尊敬してたしね。

 私もあの人を、どうしても助けたかったのよ」


「だがな、カービー准尉。

 電子戦のエキスパートの君に頼る部分は大きかったが……若いからといって無理をし過ぎだ。

 作戦中、徹夜で作業する君を何度叱った事か」


 ランドルさんが絡んできた。

 彼はナナさんの肩に手を伸ばして引き寄せ、詰め寄っている。


「ちょ、ちょっとモートン中尉! 顔が近いですって!」


 そう言うナナさんだけど……。

 何故だろう、そんなに嫌そうにしている感じがしない。

 顔が真っ赤になってるけど、怒ってるっていうより恥ずかしがっているように見える。


「ん?ランドルさん、珍しくお酒に酔ってない?」


「……む、そうか?」


 いつも冷静なランドルさんが、今日はやけにナナさんに絡んでいる。

 指摘すると、彼は首を傾げる。


「モートン中尉、上司と部下の距離感じゃないですってば。離してください!

 そんなにお酒に酔ってるなら、明日の仕事にも支障がでませんか!?」


「……ラズロー中将も戻ってきて、作戦が一段落したから気が抜けたかもしれんな。

 悪かった、カービー准尉。気を付ける」


「……いえ」


 ナナさん、だからなんで、ほっとしたような残念なような微妙な顔をしてるの。


「メ。メグちゃん。モートン中尉が心配だから、彼を部屋に戻してくるわね。また後で」


 彼女はランドルさんを押して行ってしまった。



「やあ、マーガレット君」


「あ、こっちに来れたんですね」


 いつの間にか、ファレルさんがこっちに来ていた。


「やっとこっちに来れたけど、残念だけどすぐ帰らないといけない。

 取り急ぎ、君とセルジオ君に挨拶をしに来たんだ。

 だけど……セルジオ君が見当たらないけど、どうしたの」


「なんかお酒飲んでたみたいで。すぐに連れて行かれちゃったんです」


 いつものテンションじゃなくて、どこか浮かれた様子だったからね。


「だからペドロ議長は慌てて行ったんだな。

 仕方ない、彼とはまた別の機会に話をしよう。

 ともあれ、マーガレット君。歌謡祭の作戦、お疲れ様だったね」


「有難うございます。

 あの村でのリオンさんとの対面の時は、とてもお世話になりました」


 私は素直に、ファレルさんに頭を下げた。


「いやいや、今日までのマーガレット君の働きが無ければ、あの大佐を捕らえることができなかった。

 これで、私達(全貴族総会側)が皇帝を追い詰める材料が整ったよ」


「向こうに突きつけるのは、いつ頃になりそうなんですか」


「父から聞いたが、こっち(総会の意向)としては、三日後に皇帝側に会談を申し入れる予定だ。

 多少日程が前後するかもしれないが、向こうが逃げられない形での申し入れになる。

 その場で、例の音声データを暴露してもらう形になると思う」


 ファレルさんが言うのは、バートマン中佐が録音しスパイさんが暗号化した、十七年前の3区の事故に関する証拠音声の事だ。

 思ったより間を空けないことに内心驚きつつも、私は頷いた。


「その際の段取りについては、ペドロ議長も交えて打ち合わせをさせてください。

 宜しくお願い致します」


「わかった、議長閣下を通じて連絡するよ。

 今日は疲れただろうから、ゆっくり休むんだよ」


 そう言って、ファレルさんは帰って……いや、ケイトお姉さんがファレルさんに話しかけはじめた。



「メグちゃん」


 声を掛けられ振り向くと、マルヴィラお姉さんが居た。

 エプロンを外しているから、もう料理を作り終わって戻ってきたみたい。


「今日は早く帰る人が多そうだったから、ある程度作ったらいいかと思ってね。

 メグちゃんも今日は早く寝るでしょう?」


「んー……車の中で少し寝たから、今は大丈夫だけど。

 ケイトお姉さんとも少し話したいし」


 私がそう言うと、マルヴィラお姉さんは少し考える仕草をした。


「そうだろうと思ったけど、彼女も向こうで監禁されてた分、体力も落ちてるし。

 折角だから、ケイトと一緒に寝たら?

 さすがにパジャマパーティーする元気はないと思うから、話は明日の朝、起きてからゆっくりした方が良いと思うけど」


「マルヴィラお姉さんも、リオンさんの相手をして今日は疲れたんじゃないの?

 三人で一緒に寝ようよ」


 そういうと、お姉さんの顔がほころぶ。


「ふふふ。私もそれにはちょっと心惹かれるんだけど。

 ただ今日は珍しく、モートンさんもカービーさんももう居ないみたいだしね。

 このままだと、小父さん達が深酒するのを止められる人が居なくなっちゃうわよ?」


 うーん、それはそれで困る。


「私はこれから何人かと話をしてから、小父さん達を早く寝かせるわ」


「それはマルヴィラさん、大変じゃない?」


 マルヴィラお姉さんは首を振った。


「あのリオンさんの相手は疲れたけど、メグちゃんの心配事を放っておけないわ。

 そのためにお酒を控えてるのよ。代わりに明日、ゆっくりと休ませてもらうから。

 メグちゃんの方が大変だったと思うから、貴女は早めに休んでね」


「……ごめんなさい、お姉さん。小父さん達を、よろしくお願いします」


 

「いいのよ。小父さん達にはお酒で身体を壊してほしくないって、私も思うしね。

 あと、パジャマパーティーについては……ケイトに直接相談して見なさい。

 まあ彼女は、メグちゃんの可愛いお願いは断られないと思う。

 あ、そろそろ彼女はこっちに来そうね。それじゃあまたね」



 ケイトお姉さんがやってきた。


「メグちゃん。年末を無事に迎えられて、おめでとう」


「ありがとう、お姉さん。お姉さんこそ、無事に戻って来られておめでとう」


 二人で笑い合う。


「メグちゃんがあの通信で「助ける」って言ってくれなかったら、心が折れてたかもしれないわ。

 あの言葉だけが、私の拠り所だったの。

 ……こんなに沢山の人を動かして、私を助けてくれて。

 ありがとう、メグちゃん――本当に、大きくなったわね」


 そう言って、ケイトお姉さんは私を抱きしめてくれた。


「背は、そんなに伸びてないと思うけど」


「背丈は少し伸びた気がするけど。

 それよりも、これだけ沢山の人達に協力を求めて、力を合わせる事ができるようになってて。

 メグちゃんがとても成長したんだなってことよ。

 ちょっと前までは可愛い子だと思ってたけど、もう素敵な大人になっちゃうかな」


 抱きしめられながら、私は首を振る。


「お姉さんにそう言って貰えるのは、とても嬉しいけど。

 まだまだ、お姉さんに甘えたいって気持ちも……実は、あるの。

 大人になりたい、胸を張ってお姉さん達と歩んでいきたいって望んでたはずなのに、なんだか複雑」


 そう言うと、耳元でケイトお姉さんはふふふと笑う。


「無理も無いわ。まだメグちゃんは十五歳なんだもの。

 大人になりたいって気持ちと、まだまだ子供で居たいって気持ちがせめぎ合う、複雑なお年頃よ。

 誰だって、そのお年頃を経て、大人になっていくの。私もそうだったから、良く分かるわ」


 こんな素敵なケイトお姉さんも、私くらいの頃は同じだったんだ。

 ……なんか、安心する。


「だから甘えたいって言われちゃうと――私は大歓迎よ?」


「じゃ……じゃあ、お姉さんにお願い。今日は、一緒に寝よ?」


 ケイトお姉さんは私の目を見て、にこりと笑う。


「マルヴィラが3区に行ったとき、パジャマパーティーしたんだって?

 あれを彼女から聞いて、ちょっぴり羨ましいって思ってたの」


「じゃ、じゃあ!」


 お姉さんは頷いた。


「だいたい挨拶したい人とは話せたし、今日こっちに泊れば、明日は共和国の方々とも話せそうだから。

 メグちゃんもいろんな人に話しかけられて疲れただろうから……今から行く?」


「うん!」


 会場を見回すと、小父さん達は三人で飲んでるし、他に残ってるのはマルヴィラさんと、戻ってきたアイちゃんとチャロさんくらいかな。


「アイちゃんにチャロさん、今日はあまり話せなかったけど、もう寝るね。

 小父さん達も、今日は飲むなとは言わないけど、余り深酒しないように!」


「わかったわ。メグちゃんおやすみ!」


「メグ、おつかれ! ケイトさんもお疲れ様!」


「おやすみー!」


 残った皆も挨拶を返してくれたので、ケイトお姉さんと寝室に向かう。



 行くのは、バートマン中佐の居室を模した部屋。

 ここには3区から持ち出した私の私物も置いているから、3区に居た時とそんなに変わらない気持ちで居られる。


「マルヴィラからは、3区でのメグちゃんの暮らしぶりを聞いてたけど。

 ここってこんな部屋だったんだ」


「そっか……ケイトお姉さんって、管理エリアに来たことは無かったんだね。

 元のこの部屋は、管理者だったバートマン中佐が家族と住んでた部屋だったところ。

 ニシュもここに居たんだよ」


「へえ……そうなんだ」


 ケイトお姉さんは、部屋を見回しながら頷いた。


「あの管理エリアは、リオンさんに引き渡しちゃって今はもう無いから。なるべく3区に居た時の雰囲気を再現してもらったの。

 たまたま3区コロニーのモデルになった艦が残ってたらしくて、そこから作ったってトッド侯爵が言ってた」



 部屋に備え付けのシャワー室で、二人で順番にシャワーを浴びて、私達は寝間着に着替える。


「寝室はこっち」


 奥の寝室に入って、二人でベッドに入る。

 でも横になると……


「やっぱり、駄目ね。もう、眠い……また明日、ゆっくり話しましょう……」

「ケイトお姉さん……おやす、み……」


 初めてのケイトお姉さんとのパジャマパーティー、楽しみにしてたのに。

 マルヴィラお姉さんの見立て通り、私達は疲れて眠ってしまった。


本当は大みそかにUPしたかったのですが、体調不良のため1日遅れてしまいました。


不定期に連載を続けてきましたこの「ジャンク屋メグの紡ぎ歌」ですが、

漸く終わりが見えてきました。

私としても、ちゃんと本年中に終わらせたいと思っています。


長らく暖かく見守って頂いている読者の皆様に感謝いたします。

どうぞ、本年も宜しくお願い致します。

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