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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第20章 帝国年末大歌謡祭――その日、帝国は

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20-21 歌謡祭からの帰り道――闇の記憶、涙の帰還

メグ視点

 マルヴィラお姉さんと車の中で話したかったんだけど、歌謡祭のステージと、その後のリオンさんを捕まえる作戦が終わったら、とっても疲れてて。

 お姉さんとニシュの三人で車に乗り込んで。

 地下通路を走っている間に、すぐに眠くなって寝てしまった。



 ふと気づいたら、車はまだどこかを走ってるみたいで小さく揺れていた。


「メグちゃん、目が覚めた?」


 マルヴィラお姉さんの声が、何故か上から聞こえたので、目が覚める。

 ……お姉さんが膝枕してくれてた。


「ん……有難う、マルヴィラお姉さん」


「いいのよ。メグちゃんも大変だったからね。

 歌謡祭のステージ、その後はリオンに追いかけられたでしょ。

 大勢の人の前で歌うのは緊張しなかった?」


 私は、身体を起こして伸びをする。


「んんっ……あんなに一杯人が居るのを見るのは初めてだったから、驚いたけど。

 緊張っていうよりも、ステージの間ずっと自分の深いところと繋がり続けると、後でしんどくなるって感じかな。

 あ、お水ある?」



 沢山の、帝国中の人に伝えるには。

 自分の深い所……自分の本当の想いを露わにしないといけなかった。


『人を動かすのは、言葉そのものじゃないの。

 そこに乗せた自分の深い想いが、人を動かすのよ』


 ――お母さんが、亡くなる前に伝えてくれた言葉。

 当時は、その意味が分からなくて……忘れてしまっていた。


 でも、お姉さん達と出会って。

 そして、また歌うようになって。


 お母さんの歩いてきた道を、私も歩くようになって。


 歌謡祭の前にお祖母様に会って。

 お母さんの教えを、お祖母様からまた教えてもらって。 

 その中で、この言葉を思い出すことができた。



「温度は、人肌くらいだったかしら?」


「そのくらい。なかったら冷たい水でもいいよ」


 お姉さんが、座っている座席の前にあるタッチパネルを操作する。

 すると、ブーンという振動音がしばらく続いたかと思うと……パネルの下がパカッと開いて、コップに入った白湯が出てくる。

 

 マルヴィラさんから受け取って、飲んでみると……うん、丁度いい。


「3区でも、こんな便利なものがあったら良かったのに」


「本当、そうね」


 私の愚痴に、マルヴィラお姉さんが頷いた。


 白湯を飲みながら、ふと窓の外の景色を見る。

 車が走っているのは、定間隔で明かりのついた道。

 空は暗い――恒星の光が届かない、夜の時間。


 共和国に逃れて以降、夜の時間を何度も過ごしたけど。

 それでも――。


「なんか、宇宙空間とか、あの3区で明かりが消えた真っ暗な時間みたいな、恐ろしさはないんだけど。夜って――未だに、落ち着かない」


 惑星の上では……あの3区の外の宇宙空間みたいに、吸い込まれるような感覚は無い。

 明かりの消えたコロニー内のような恐怖感も、そんなに覚えないんだけど。

 このゾワゾワする感じは、なんだろう。


「多分――宇宙空間とか、真っ暗闇に対する恐怖感が残っているのかな。

 もう安全なんだって、まだメグちゃんが実感できてないんだと思う」


 そんなことを、お姉さんが言った。

 言われて、何だか納得した。


「そうかもしれない。

 今までずっと、一つ選択を間違えたら命が危ない、って状況だったし」


「今は、そこまで切羽詰まった状況じゃないと思う……って、言葉で伝えても、まだメグちゃんは実感できないわね。まだ敵が残っているしね」

 

 マルヴィラお姉さんの言葉に、私は頷いた。

 そう……ね。

 まだあの皇帝という人が、残っている限りは……。



 白湯をちびちび飲みながら、窓の外をぼーっと眺めていて、気づいた。


 今走っているこの道。

 左側の車線には車が何台も走ってるけど、どの車も速度は同じくらい。

 でもこの車が走る右車線には、他に走っている車はいない。

 それにこの車、凄いスピードを出していて、左車線の車を次々追い抜いていく。


「ねえ、運転手さん。一つ聞いていい?

 なんで左側を走る車は、一台もこっち側の車線を走らないの?」


「ハイウェイの右側車線は、軍や警察、緊急車両の専用なんです」


 左側を走るのは全部、自動運転車両。

 事故を起こさないよう、大きな管理AIが全部の車両の運転を制御しているらしい。

 普通の人は皆そっち側に乗ってる。


 右側は、軍や警察といった、特別な用事がある車のための車線。

 自分で運転できる――管理AIに運転を任せることも可能――けど、事故を起こさないための補助の仕組みを車に積まないといけないらしい。



 そんなことを話しているうちに、車はハイウエイを降りようとしていた。

 出口の分岐――左車線は左側に、右車線は右に出られるようになっているみたい――が見えてきて、運転手さんが右へ曲がる方向指示信号をつけている。

 そこに、車の上を宇宙船が通過していった。


 あれは……帝国軍の、宇宙船?

 3区から逃げた時……私達の乗る船を最後まで追いかけて来たものに、似てる……!


「あれは……私達を、追って来たの?」


 怖くなって、口から言葉が零れる。

 目を見開いて固まっていた私の肩を、マルヴィラお姉さんが抱きしめた。


「大丈夫です……さっき、近衛本部から暗号通信が入りました。

 帝都北部側での作戦が、成功したそうです。

 あれは追手ではなくて。作戦部隊が向こうで奪って乗って来たそうです。

 向こうで捕まっていた人たちも――全員、無事に帰還中だそうですよ」


 ……え!?

 運転手さんの言葉に……頭が追い付かない。


「つまりね、メグちゃん。

 あれに乗って、ケイトが帰ってきたの。

 ――ほら、気をしっかり持って」


 お姉さんの言葉に、胸の中にじわじわと、暖かいものが広がっていく。

 ――ああ、良かった……。



 車はハイウェイを降りて、郊外へと走っていく。

 この先に、この辺りでも大きな町があるらしいけど、そこを迂回するように避けて車は進んでいく。

 向かう先に、一杯宇宙船が停まっているのが、段々見えて来た。

 その上は点滅する光が幾つも見えて……先ほど見た宇宙船らしき姿を浮かび上がらせている。

 車がそこに着く頃には、宇宙船は着陸しているだろうか。



 その宇宙船がいっぱい停まっている場所の近くで、道の向こうに門が見えた。

 どうやら、立ち入りを制限しているらしい。


 車は門の前に停まり、運転手さんが窓を開けて門の外にいる人と話をする。


「近衛第一連隊、ビゴット少尉です。

 トッド侯爵閣下のお客様をお連れしています。

 こちら、総監の許可状です」

 

「……確認しました。どうぞ、お通り下さい。

 構内では、案内表示に従って進んでください」


 そう言って、門番はすんなりと門を開けて通してくれた。


 門を通ると、道に灯る赤い点滅の光が続いている。

 それを追うように車は走っていき、やがて行く先に大きな船が幾つか見える。

 その一つの船の前で、車は停まった。


 運転手さんが降りて外からドアが開けてくれて、私とお姉さん、ニシュは車を降りた。

 また別の人の案内で、目の前の船に入って行く。

 船の中では少し歩いて、立派なドアの前までやってくる。

 案内する軍人さんがドアを開けてくれ、促されるままにお姉さんと一緒に入る。


 そこにはトッド侯爵とミツォタキス侯爵、ビゲン大佐、それにペドロさん。

 それに、見慣れない男性二人。

 若い男性が一人と、ミツォタキス侯爵と同じくらいの歳の男性。


「お疲れ様、マーガレット君。

 君のおかげで、リオン――マクベス大佐と、彼の一党を捕まえることができた。

 彼らを商都に引き付けている間に、別部隊が帝都北部の隔離施設から、彼らを救出することもできた――ラズロー特務中将と、カルロス侯爵をな。

 感謝する」


 トッド侯爵が私に言って、向こうにいる男性が皆、私に頭を下げた。


 若い男性が、ラズロー中将。

 そして、隣の歳を取った男性が――カルロス侯爵らしい。


「カルロス侯爵には、君もいろいろ言いたい事があるかもしれないが。

 まずは、身体を休めてくれ。

 彼との話し合いの場は、別途設ける事を約束する」


 私は頷いた。


「それで――ケイトお姉さんは」


 私が言うと、トッド侯爵はふっと笑った。


「その場に、我々が入らない方が良いだろうと思ってな。

 隣りの部屋で待ってもらっている。

 さあ、行きたまえ」


 私は彼等に頭を下げ、入って来た扉を出て。

 待ってくれていた案内の軍人さんに連れられて、隣の部屋へ急ぐ。


 ドアを開けると、そこには。


 共和国の船から出てきていた小父さん達三人。

 ランドルさんと、ナナさん。

 そして。


 お姉さんは座っていたソファーから立ち上がって。

 私は、視界が滲みながら、お姉さんに駆け寄って。

 

「ケイトお姉さーーん!」

「メグちゃん!」


 お互いに、抱きしめ合った。


「良かった、生きてた……ひどい事、されてない?」

「大丈夫よ……メグちゃん。助けてくれて、有難う……!」


 ケイトお姉さんが、力強く抱きしめてくれて。

 その強さと、暖かさ。

 ――ケイトお姉さんが、無事に帰ってきてくれた。


 二人で泣きながら、そうしてしばらく抱きしめ合っていた。


 でも、ケイトお姉さんを独占するわけにもいかない。

 もう一人、お姉さんを待ちわびていた人がここにいるから。


「ケイト……!」

「マルヴィラ……!」


 二人は、泣きながら……しっかりと抱きしめ合っていた。


 ケイトお姉さんの事だ。

 マルヴィラお姉さんと、お姉さんのお母さんであるクレアさん。それにケイトお姉さんの家族たち。

 皆を守るために、敢えてリオンさんに捕まる事を決めたんだろう。

 3区のあの時……私達を逃がして協力者たちを守るために、残って捕まったように。 


 そんなケイトお姉さんの事が、私もマルヴィラお姉さんも大好きだけど。

 マルヴィラお姉さんこそ――目の前でケイトお姉さんを攫われて、ずっとそれを苦しんでいた。


 私も二人の事を、涙を浮かべながら見ていると。

 他の皆が、私の所に来た。


「メグ……お帰り……」


 実は三人の中で一番涙もろいグンター小父さん。

 もう、涙腺が緩みっぱなし。


「無事でよかったよ……」


 セイン小父さんはそんなに泣かない人だけど。

 小父さんももう、目に涙が溜まっている。

  

「背、伸びたな……」


 ライト小父さんは、ちょっと痩せた?

 それにその黒髪に白髪が増えて……。


「お疲れ様、だな」

「おかえり、メグちゃん」


 ランドルさんに、ナナさん。

 ナナさんが、目に涙をためている。

 それに、普段ほとんど感情を見せなかったランドルさんまで……。


「ただいま……小父さん達……ランドルさんに、ナナさん……!」


 私はまた、泣きながら……みんなと抱きしめ合って……。


 ああ、帰ってきた。

 あの3区で過ごした皆の所に――やっと、帰って来れたんだ。


これで章の終わりの雰囲気ですが、もう少しだけ。



いつもお読み頂きありがとうございます。


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よろしくお願いいたします。

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