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おもちゃの魔法が呼び覚ますキーコネクトっ  作者: くろろん
第5章 月の涙
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第1話

 その日の夜。ウィルスは黒装束を身に着け、七つ道具を懐に忍ばせていた。そして、図面を食卓に広げる。それは屋敷の間取り図だ。これから忍び込む屋敷の間取り……この地図は、昔組んでいた盗賊仲間に頼んで今日のうちに調達してきてもらった。その仲間は協力を申し出てくれたのだが、足を洗っている仲間をまた引き込むのは悪い気がしたので、丁重に断った。血が騒ぐのに! と最後まで粘られたが。

 ウィルスは間取り図を頭に叩き込み、それを燃やしてしまうと、闇夜の中、建物の上に躍り出る。

 この時間帯だ、時折酔っ払いや巡回中の警備隊がいるだけで、街は眠りに沈んでいた。

 貴族屋敷が立ち並ぶ区画に入ると、細心の注意を払って通りを駆ける。

 途中警備隊に出くわしたが、木後ろに回り込んで隠れ、何とかやり過ごした。

 そして、目的の屋敷に到着する。

 楔のついた投げ縄を鉄柵に引っ掻けてから身軽に敷地内に降り立つ。

…と、何物かがうごめく気配。

 ウィルスは持ってきていた生肉をそちらに放り投げた。

 むしゃぶりついている間に、玄関横の窓の鍵を道具で弾いて開け、中に忍び込む。

 頭中にある間取り図通りの光景に、足取りを確かにして、右に進む。

 そしてとある部屋の前でまた道具を使い鍵をこじ開けると、その部屋の中に滑り込んでまた鍵をかけた。

 そこは月明かりが書類の置いてある机に下りる書斎……ウィルスは素早く机に近づくと、机の書類立てのファイルをひっくり返し、ページをめくっていく。

 だが、目的の物は見つからない。引き出しを開けるがそこにもなかった。

 ふと、一番下の段にある鍵付きの引き出しに目を留める。

 七つ道具から一番細い物を選んでこね回すと、鍵穴の中で弾けて、引き出しが空いた。

 そこには、またファイルがある。

 広げてみると……執務机の上にあった帳簿と同じだが、金額が全く違う二重帳簿が出てきた。

 ウィルスはそれを見て口端を上げる。これだ……これが、あいつを追い詰める材料になる。

 ファイルの中から抜き取ると、元の通りに鍵をかけ部屋から出て、二階へ通じるらせん状の階段をひた走る。

 そうして、造りが一際豪華な扉の前で深呼吸をすると、道具を取出し、鍵穴に差し込む。

 一本、二本、三本……と差し入れ、捩じり込んだ時、確かな感触が手に伝わってきた。

 ウィルスはするりと部屋の中に入ると天蓋のベッドに近づく。

 枕を抱いておやすみ中のその男の胸ぐらをいきなり掴んで、喉元に刃を押し付けた。

 男は目を覚ました途端黒装束の人物に刃物を向けられ、仰天しすぎて声を失う。

 ウィルスは刃物を躊躇なく男の喉に向けながら、言った。

「声を上げるな。一声でも上げると今ここであんたの喉を切り裂く」

 ウィルスの言葉に、男は何度も頷いた。頭がおかしくなりそうなくらい上下に振った。

「あんたが盗ませたおもちゃはどこにある?」

 その声と言葉に、男はようやく気付いたようだ。目の前の黒装束が一体誰なのかを。

「お前、ウィルスだな?!」

 だがウィルスは、ジョバンニの言葉に動じず、刃物を首に当て続けた。

「……あぁそうだが、何か問題でも?」

「こんなことをして、ただで済むと思っているのか?!」

「そういうあんたこそ、ただで済むと思っているのか?」

 ウィルスは先程抜き取ったファイルの中身を手にかざした。

 それを見たジョバンニはギョッとして目を見開く。

「な、なぜそれを貴様が……!」

「僕にとっては造作もない事だ……」

 そして、今一度、刃物を喉に押し当てる。短い悲鳴がジョバンニから漏れた。

「もう一度聞く。あんたが盗ませたおもちゃはどこにある?」

 ジョバンニは固まっていたが、次にはがっくりと頭を垂れて、口を開いた。

「番犬のおもちゃにした」

「……はぁ?! もう一遍言ってみろ!」

「だから、番犬のおもちゃにした」

「………………」

 ウィルスは絶望的な気持ちになった。番犬のおもちゃ?!

「本当なんだな……?」

「あぁ……今さら嘘をついた所で何になる……」

 ウィルスは嘆息をすると刃物を引いた。ジョバンニがベッドに崩れ落ちる。

「言っておくが、今から人を呼んだりしたらあんたのこの二重帳簿を王室に提出する。分かったな?」

 愕然とうなだれるジョバンニから最後まで目を離さずに、ウィルスは部屋の窓を開けて一階へとロープを伝い降りた。無論、生肉を遠くに放り投げてある。

 ウィルスは月の光の元、屋敷の敷地内をおもちゃを求め探し回った。

 そして一つ……また一つと部品が見つかっていく。

 これは三位の作品の物……これは五位の作品の物……

 バラバラになったそれらは原型をほとんど留めていなかった。

 そして、ウィルスが最も恐れていた事が起きていた。

 綿が芝生の上を点在し始める。ウィルスの目が見開かれた。

 ほとんどの綿が飛び出たそれは、ボアが引きちぎられ毛羽立ち、片目はなくもう片方の目も糸が飛び出ていた。

「テディ……」

 思わず涙が出そうになったのをぐっとこらえて一つ一つ残骸を拾っていく。

 最後の一つを拾い終えると、ウィルスは鼻がツンと痛くなるのを感じながら、鉄柵を飛び越え自宅に戻った。

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