第4話
そうして、予選が行われた。各方面からの評論家や愛好家たちによる投票形式だ。手に取るのも自由なので選定者達は皆真剣におもちゃを吟味していた。
しかし、中でも話題になったのはやはりアーティクトのアスレチックだ。
今までのおもちゃ界にはなかった新しく斬新なデザインに審査員たちは興味津々だった。
だが、それと同じく……隣のたった一体のくまのぬいぐるみにも人が集まる。
「ほぉ……これはよく出来ている」
審査員たちがこぞって縫製などを細かくチェックする。
ウィルスはハラハラする内面を隠すように帽子を力いっぱい握りしめた。
その隣ではジョバンニが余裕の表情でステッキを持っている。
制限時間いっぱいになり、審査員たちによる投票が行われた。
開票作業の間、ウィルスは右に左にウロウロしっぱなしだった。
「ちょっとウィルス、少しは落ち着きなさいよ。みっともない」
リットが嘆息しながら言うが、ウィルスは首を振る。
「だって、これで本選が決まるんだよ? 落ち着けないじゃないか!」
「あんたねぇ、もし本選にいったらこんな段じゃないよ」
そうこうしているうちに結果が出た。
紙に店名が書いてあり、その横に数字の書いたリボンが貼られているところが予選通過の店だ。
紙が貼ってある場所に行くまで動悸が絶えなかったが、目を瞑りながらその場所に辿り着く。
リットは貼り出された紙を見てから、隣のウィルスを突っついた。
「ねぇ、ウィルス! 見てよあれ!」
ウィルスは恐る恐る目を開く。
すると、ノイスラックの店名の横に……リボンが貼ってあった。
しかも、順位は……
「一位だってよ、一位!!」
きゃー! と言いながら、リットが首にまとわりついてくるが、ウィルスの魂はすでに抜けていた。
まさか……一位……アーティクトを抜いて一位なんて……
「くそっ……!」
向こうからステッキを打ち鳴らす音が聞こえてくる。ジョバンニだ。こちらを睨みつけている。
そして、審査員たちに何故だと問い詰め始めた。
審査員のうち何人かは裏から金で買っていたのだが、態度を一変させてアーティクトではなくノイスラックに票を投じている。
ジョバンニの顔は火が出るほど激昂していた。
審査委員長が、ジョバンニに口を開く。
「確かに、アーティクトの製品はこれまでにないデザインで斬新だ。子供心をくすぐるだろう。だが、細部を見てみれば安定性に欠け、木片の長短もバラバラだ。木筋はささくれ立っている。これでは子供が怪我をする危険が高い。対して、ノイスラックの製品はたかがくまのぬいぐるみ一体だが、されど一体……細部にまで縫製が施され、丁寧に丁寧を重ねた作りだ。何よりくまのぬいぐるみの表情……まるで子供たちの笑顔のようだ」
それを聞いていたウィルスとリットは互いに手を取りあって、喜んだ。
対してジョバンニはいつまでも消えない怒りで貼り紙を睨み続けた。
***
「見た見た~?! ジョバンニのあの顔~! なんかも~スカっとした!!」
帰り道、リットが口笛を吹きながらウィルスに振り返る。
ウィルスもようやっと表情を緩めリットを見つめ返した。
「どうなる事かと思ったけど……本当に、よかった」
リットはウィルスの所まで駆けてきて、その豆だらけの手を取る。
「ウィルスのおもちゃがジョバンニなんかに負けるはずがないもん、例え設計図が同じだろうと絶対ウィルスの方が勝つに決まってる!」
「そんなゴマ擦っても何も出ないぞ」
ウィルスのおどけた笑顔に、リットは明るく笑い声を響かせる。
「本選って二週間後なんでしょ?」
リットの声に、ウィルスは頷きながらポケットから折っていた紙を取り出した。
「投票は一般市民及び王家の人間の投票により選ばれるって」
「それまでは王立ホールに展示されるのよね?」
「うん、みんなに見てもらうためにね」
「テディ、絶対本選でも一位で優勝だから! 間違いなしだって!」
リットが明るくそう言って、自分の家の方向へと別れていく。
その姿に手を振りながらウィルスは内心複雑な心境に駆られていた。
テディと二週間離れ離れになることに寂しさを覚えたのだ。
だが、それも二週間と言い聞かせて我慢をしようと決意した。
しかし、家に帰ってくると寂しいものだ。
テディがいないのでおもちゃ達が騒ぐこともない。
一人でぽつんと夕食をとった。
このままベッドで眠るのも寂しいので、ウィルスは食卓に布を広げ、型を取って縫い始めた。
何かしていないと落ち着かなかった。




