第五話
マリアはアーベック領にある商家の次女である。代々女性が会長を務める中堅の商会であり、今代の後継ぎは彼女の姉と決まっているため、マリアはある程度の自由が確約されている。しかしマリアが選んだのは商人の道であった。アステリア上級学校に進学したのも、算術や商学を修めて姉を支えるため、またパトロンとなってくれる貴族とのコネクションを作るためである。決して献身ではない、彼女の望んだ生き方のために、彼女は国一番の名門の門を叩いた。
彼女は本が好きだった、といっても分厚い学術書ではなく、物語が好きだった。祖母の代から扱い始めた冒険譚や恋物語に育てられたと言っても過言ではないほど、無類の物語好きであった。古い貴族の間では、創作文学は低俗なものであるという認識が未だ根付いている。しかし若い貴族、とりわけ令嬢は密かに取り寄せ楽しんでいる事も多い。全ての人に物語を、それがマリアの目標である。
カティヤはエルフの里の出身である。彼女は色々な意味で破天荒な娘であった。弓よりも肉弾戦を好む事、非常に大食いである事、閉鎖的な環境を嫌う事、何より夢見がちであった事。森の中で自給自足生活を営むエルフ社会とは反りが合わなかったのであろう、彼女は外に出られる最低年齢に達した途端に里を飛び出し、アステリア上級学校を受験、見事に合格してみせた。当然里民総出で止めようとしたが、暴走列車は止まらない。折れざるを得なかった訳である。
カティヤは特に男に対して夢を見ていた。彼女の姉曰く「年収高くてイケメンで高身長、筋肉はあるけど暑苦しくない、優しくて家事ができて女心を分かってる男」が理想らしい。確かにエルフに筋肉は無い。だがエルフを超えるイケメンが人間社会に居るとも思えない。その事を伝えられないまま妹を送り出してしまった事に、姉は頭を抱えた。
メノンはアクアリース領の孤児院出身である。幼い頃から年少の子供の面倒を見ながら育ったため、無類の世話好き少女が出来上がった。当然将来は子供の面倒を見る仕事に就きたいと考えている。しかし国内の孤児院の中には、幼子を育てる環境として不十分な場所は多く存在している。この現状を放置してはおけない、そんな高い志を持って、彼女はアステリア上級学校にやってきたのである。
彼女は地元に、志を同じくした恋人の少女がいる。共に孤児院で協力しながら育った、一つ下の少女だ。来年彼女もこの名門に挑戦するらしく、メノンはとても楽しみに待っている。
そんな三者三様の夢を持った少女達は、アステリア上級学校普通科一年A組の教室の左後方の席で出会った。元々何の繋がりもない、偶然近くに座っただけの赤の他人であったのだが。
それは初めてのHRの後、食道に向かうため廊下に出た時だった。
「あの2人美しすぎない?リアルがフィクション超えることってあるんだ」
「クレイヴ君まじ理想すぎ!絶対付き合えない事以外は!」
「ヨウちゃん可愛すぎよしよししたい養いたい」
『はあ、尊い』
三人の少女は顔を見合わせ、しっかりと手を握り合った。




