第四話
学校生活初日、一般科校舎の食堂は新入生でごった返していた。慣れない場所に緊張している者、食べ物を前にその緊張が吹き飛んだ者、人のあまりの多さに驚きを隠せない者。それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。そんな賑やかな空気の満ちた食堂に、突如静寂が訪れた。そう、あの異常なほどに人目を惹く二人組が現れたのだ。耳が痛くなるような一瞬の後、皆一斉に囁き始めた。
「何で貴族科がここにいるんだよ」
「よく見ろ、ネクタイが一般科のやつだ」
「あんな一般科いるわけないだろどうなってんだ」
「あの子、代表挨拶の子だよね」
「同じ人間だと思えないよ」
「あの男子かっこよすぎじゃない?王子様みたい」
「やばい、眩しすぎて直視できない」
そんな阿鼻叫喚の囁きを聞きながら、王子様と称された青年クレイヴは、もはや人外扱いされている親友ヨウを見下ろして苦笑する。
「あはは、ヨウすごい言われようだね」
「慣れた。お前は王子似合うんじゃねぇか?」
「うーん、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどね。貴族社会には行きたくないというか」
「めんどくせぇもんな」
そんな会話をしながら注文カウンターに向かう。メニューを見たヨウが突然目を輝かせた。直視してしまった哀れな被害者が短い悲鳴を挙げて崩れ落ちる。そんなことには露ほども気づかない二人はのんきにスタッフに注文をし、食事を受け取った。周囲の視線を集め続けながら、窓側の席に二人並んで座る。
―頼むから向かい合って座ってくれ。誰がお前たちの正面に座れるというんだ―
全生徒の心が一致した瞬間だった。
「良かったねヨウ、ウドンあって」
「ほんとだよな、まさかあるとは思わなかった」
アステリア上級学校は国一番の教育機関であるが、そう謳われるだけの理由は当然存在する。講義の内容から食堂のメニューまで、この場所で提供される全ての物が一流であり、またその多彩さも国一番であるのだ。ウドンは300年前に生まれたと言われる白く太い麺を用いたリーフェ領の名産品。ヨウの大好物でもある。
「あ、あの!」
異様な空気の中、元凶コンビに果敢に話しかけた英雄が現れた。
「お、お二人の前に座っても、よろしいでしょうか!」
勇気ある女子生徒たちは、声を震わせながらも懸命に問いかけた。
「もちろん、どうぞ。えーと、マリアさんにカティヤさん、それからメノンさんだったよね」
三人の少女は目を見開き、みるみる顔を赤く染めた。あたふたと目線を交わし合いながら、真ん中に立っていたマリアが何とか言葉を返す。
「は、はい!覚えててくださったんですね!」
「もちろん、これから共に過ごしていく仲間だからね。ほら、どうぞ座って」
『ありがとうございます!失礼します!』
「ふふっ」
「あははっ」
マリア達は食事の乗ったお盆を持ったまま器用にお辞儀をする。きれいな直角のお辞儀がツボに入ったのか、ヨウが小さく笑った。それを見てクレイヴも笑う。至近距離から直視してしまった哀れな三人組は、足をガクガクさせながらも、這う這うの体で椅子に座った。
「クレイヴ様、かなりの量を召し上がるのですね」
サンドイッチを頬張って少し落ち着いたカティヤが、クレイヴのトレーを眺めながら関心したように言った。クレイヴが食べているのは魔豚のカツサンドと大盛の空麦スパゲティ、アリオンスープである。しかしカティヤの注文したメニューは黒パンサンドイッチ10個、全くもって人のことは言えないのであるが。
「ん、まあね。僕は身体を動かすのが好きだから。でもこの年齢の男子ならこれくらい普通に食べるんじゃない?ヨウは食べないけど」
クレイヴが隣のヨウに目線を向ける。つられてヨウの方を見ると、少女のような少年は湯気の立ち昇る器に息を吹きかけ、幸せそうな顔をしながら小さな口で一生懸命ウドンを頬張っていた。見られていることに気づき、顔を上げて首を微かに傾げる。
『ぐはぁっ』
崩れ落ちた三人娘を前に少し困惑した表情のヨウの首元で、朝顔の花が楽しそうに揺れた。




