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愛に輪郭を  作者: 巻目螺子
第一章 一年生編
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第二話

「疲れた」

 上品な自然光の射すアステリア上級学校の廊下を歩きながらぼやく親友を、クレイヴは見下ろしながら隣を歩く。貴族よりも貴族然とした美しい笑みを浮かべて、真横から垂れ流される愚痴を和やかに受け止めている。

「何で俺が代表挨拶なんてしなきゃなんねぇんだよ」

「ヨウが頑張りすぎたんじゃない?」

「例年通り貴族科の主席でいいだろ、公爵令嬢とかいたし。おかげで連中から睨まれたじゃねぇか」

静謐な廊下に似合わないぶうたれた表情で歩く男の名はヨウ。先ほどの入学式で新入生と参列者の視線をかっさらった美貌の人物その人だ。あの儚げな眼差しはどこへ行ったのか、下町の荒くれものと変わらない口調で文句を垂れる姿はヤンキーそのもの。まさに究極の外見詐欺である。

「まぁでも、せめて席順は工夫してほしかったよね。後ろからステージまで遠かったでしょ?」

「それはそうなんだが、あいつらが許すわけないだろ。貴族なんてプライドの塊なんだから」

「君も貴族でしょ?」

「…うっせ。お前の方が向いてるだろ、貴族」

「うん、僕もそう思う」

「だよなぁ」

ヨウが見た目詐欺なら、クレイヴは身分詐欺である。この気品ある美しい男が田舎の農家の三男であると、一体だれが予想できるだろうか。稀代の詐欺師二人は気取らない会話を交わしながら、大理石の校舎の出口を目指して歩き続けていた。


---------------------


 翌日。栄えあるアステリア上級学校の一年生となった若者たちは、それぞれの所属クラスに集まった。真新しい制服に身を包み緊張した面持ちの生徒達が、教師が教室に入って来るのを今か今かと待っている。ところが普通科一年A組教室は異様な空気に満たされていた。原因は明白、教室の左前に座る異常な二人組である。貴族科ですら浮きそうな美貌の男女が、親しげに会話をしている姿を見ずにいられようか。二人の関係は?どうして一般科にいるんだ?その首に咲く花は何なのか?疑問は尽きない。一年A組新入生、彼ら以外の28人はどうにも落ち着かない時間を過ごした。

「はいはいはい、お待たせみんな」

教室前方の扉が開いて、白衣を着た初老の男が入って来る。眼鏡をかけた優し気な男だ。救いの神の登場に、生徒たちは一斉に彼の方を振り返った。

「はじめまして、一年A組の担任になりました、魔道具学担当のエルデンです。改めて皆さん、入学おめでとうございます」

エルデンがそういって拍手をすると、何となくつられて皆も拍手した。

「それじゃあ、さっそくだけど自己紹介をしてもらおうかな。さて誰から行こうか…」

エルデンがそう言うと、皆が一斉に一人を見た。視線を一身に受けた本人は、淡い空色の瞳を少し開いて首を傾げた。ペールピンクの柔らかな髪が白い頬にかかる。


―いや「私?」じゃない。私しか居ないだろ―


出会ったばかりの28人の心が一致した瞬間だった。

「じゃあ、君にお願いしようかな」

察したエルデンが彼女を指名する。美貌の少女は少し眉を寄せたが、隣の青年と目を合わせて一つ頷くと、息を吐いて立ち上がった。桃色の小さな口が言葉を紡ぎ始める。

「ヨウ。リーフェ領出身。植物学と魔法薬学、魔法具学を学びたくて来た。以上」

想像の数倍低い声で響いた、あまりに簡潔な自己紹介。圧倒的情報不足、聞きたいことが何一つ分かっていないじゃないか!そんな心の合唱を聞き取ったのか、恋人らしき美青年が声をかける。少女のような少年は少し考えて再び口を開いた。

「あー…これからよろしく?」


―そうじゃない!嬉しいけどそういうことじゃない!―


またも心の声が一致した28人は一斉に机に倒れこんだ。エルデンと青年だけが困ったような笑顔を浮かべ、肩をすくめた。全ての元凶は、何事も無かったように座り直し、首筋の花を撫で始めた。


一話一話は短いので、時間がある時に読んでいただけると嬉しいです。

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