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異世界ショットバー『ミラージュ』へようこそ ~世界を救った元勇者、セカンドライフでは身分を隠してバーのマスターやってます~  作者: しんこせい


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変人襲来 中編

「そうつれないことを言わないでよトウヤ。これでも君を驚かせるために、色々と頑張って準備をしてきてるんだから」


 彼女がシャノン……このお店を含めたマスターサカガミが使っている魔道具の開発を一挙に引き受けている、天才魔道具職人。


 身につけているのはトーガを思わせるやや露出の多い服だが、下にある素材が完璧であるが故に下卑た感じは一切ない。


 豊満というよりは華奢と表現するのに相応しい、エルフらしいスレンダーな体型をしている。

 マスターの反応から察するに、どうやら彼女がこんな風にやってくるのは初めてのことではないらしい。


「わざわざ俺の探知を抜くための魔道具を作るなんて……お前馬鹿だろ。一体どれだけ素材を無駄にしたんだ?」


「んー、まあSランク素材を数個ってところかなぁ?」


「それを使って別の魔道具を作れば、生涯遊んで暮らせるだけの額が稼げるだろうに」


「金に物を飽かせて私の魔道具を買おうとしてくるやつらを喜ばせるくらいなら、こうして意味のない魔道具を作る方がよっぽどマシだよ。戦時中でもないんだから、私は私が好きなように魔道具を作るだけさ」


 マスターサカガミには、恐ろしいほどの勘の冴えがある。

 彼は基本的に魔道具が起動するよりも早く来店を悟るし、店にやってきた人間が少しでも邪な考えを抱いたりすれば即座にそれを看破することができるのだ。


 そんな彼の探知能力を抜けるような魔道具……なるほど、たしかに彼が天才と呼ぶのも頷ける。


 そして今のマスターとのやりとりだけで、彼女が癖が強い人であるということもすぐにわかった。

 彼が人となりを信じていないというのも、なんとなく察せてしまうのが恐ろしい。


「もう戦乱の世は終わったんだ、これからは誰もが自分のしたいように生きるべきだよ……ねぇ、君もそうは思わないかい?」


「えっ、私……ですか?」


 突然質問を振られてあたふたするアルスを見ながら、シャノンがクスッと笑う。


 どうやらからかわれていたらしいとわかり、なるほどこれはたしかにマスターと同類だと確信するアルスであった。


「ねぇトウヤ、君も隅に置けないじゃないか。新しく店に人を雇ったんなら、私に伝えてくれればいいものを」


「いや、なんでお前に伝えなくちゃいけないんだよ、めんどくさい」


「つれない男だねぇ……だがそういうところが、そそるんだぁ……(びくんびくん)」


(うわぁ、あんまりお近づきになりたくないタイプの人だ……)


 つっけんどんな態度を取られてなぜか恍惚とした表情を浮かべるシャノンを見て、アルスの脳裏に変態の二文字が浮かぶ。


 彼女がドン引きしているとどうやらそれも彼女のツボを刺激してしまったらしく、シャノンははぁはぁと荒い息を吐き出しながら、震える指先で一本のウイスキーを指さした。


「それなら私はいつものあれをもらおうかな」


「あいよ」


 マスターは勝手知ったる様子で一本のウイスキーボトルを手に取った。

 そのボトルの見た目は、他のウイスキー達と比べて明らかに一線を画していた。


 上にいくに従って徐々に細長くなっていくのではなく、それ自体がででんと立方体になっているのだ。


 そしてボトルのサイズ自体が非常に小さく、上部にはちょこんと飛び出た小さな注ぎ口が作られている。


 マスターサカガミがジガーカップを使い、ウイスキーを運ぶ。

 シャノンの好みを理解しているからか、彼は何も言わずにスッと加水用の水差しを出した。


「フロムザカスク……お前が大好きな酒だ」


「やっぱりこのお店に来たら、これを飲まなくちゃ始まらないよね!」


楽しそうに話すシャノンの態度を見て、アルスはふふっと笑う。


 シャノンはその間に、出されたウイスキーをしっかりと鼻で嗅いでノージングし、目を瞑ったままん~と声にならない声を上げる。


「うーん、甘やかでエステリーな香り……まるでクリームブリュレやリンゴのキャラメリゼを思わせるようなお菓子のような上質な香りが心地良いね。その後ろからピート香がひっそりと自己主張をしてくるのもまたニクい」


 スッとそのまま流れるようにウイスキーを口に含む。

 その慣れた所作を見て、アルスは彼女が本当にこのお店の常連であることを理解する。


「度数が高いのも素晴らしいけど……何より凄いのはこのボトルの機能美だよ! 他のボトルと違う、小さくて強い塊を表現したというこのフォルム。自分で飲む時は注ぎづらいのが玉に瑕だけど、それもまた駄目な子みたいで愛おしい!」


 お酒のことを事前に知っていると言うこともあり、今回はマスターサカガミからの説明はない。


 むしろシャノンの方がウイスキーの説明をしており、マスターはただそれをうんうんと頷きながら聞いているだけだった。


 ただ、慣れ親しんだ間柄というのが大きいのか、サカガミの顔がいつもより楽しそうに見えた。

 なぜかそれを見て、アルスは少しだけ胸がもやっとする。


「加水していくと、そのまま甘やかさが全面に押し出されてくる。余韻も長いから……う゛あ゛ぁ~、たまらない……」


 ただ楽しそうに飲んでいるシャノンを見ていると、毒気も抜かれてしまった。

 マスターがシャノンと腐れ縁と言いつつなんやかんやで長い付き合いをしている理由が、アルスにも少しわかった気がした。

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