表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『5階にトラック突撃!?ポンコツ女神の使役権と地球通販を得た医学生、辺境の村でワスプ薙刀と現代医療を駆使し最強防衛ライフを始める』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/111

EP 8

ユリウスの刺客『特別査察官』の襲来

ルナミス帝都、内政省の最上階。

冷え冷えとした静寂が支配する執務室で、内政官ユリウスは一枚の報告書を前に、銀縁の片眼鏡モノクルをスッと押し上げた。

「……国境の守備隊が任務を放棄し、暴徒と化した商人と共に『屋台』に並んでいる、だと?」

報告に上がった密偵が、冷や汗を流しながら平伏している。

「は、はい……。ポポロ村の陣営が国境ギリギリで『カラアゲ』なる未知の肉料理を売り出し、その強烈な匂いと中毒性によって、我々の敷いた経済封鎖が事実上、完全に崩壊しております。兵士の何名かは、その肉を転売して荒稼ぎしている始末で……」

「愚かな。大義も法も、己の胃袋(本能)に呆気なく屈するか」

ユリウスの口調に怒りはなかった。あるのは、計算式にノイズが混ざった時のような、純粋な冷酷さだけだった。

彼はデスクの引き出しから、分厚い『帝国法典』を取り出し、パラパラとページをめくる。

「野蛮な本能で法の網を抜けようとするなら、より緻密で絶対的な『理』で首を絞めるまで。……特別査察部の【グリム】と【ゼニヤ】を呼べ。狩りの時間だ」

   ***

ポポロ村国境の『地球屋台』は、今日も空前の大繁盛を迎えていた。

「ほらほらァ! 横入りは禁止よォッ! ちゃんと一列に並びなさい!」

ミカン箱の上でメガホン(ドローン)を持ったリーザが、押し寄せる客を仕切っている。

優太は無駄のない動きで次々と唐揚げを揚げ続け、ルナキン(ポポロ村)の金庫には、帝国の金貨が山のように積み上がっていた。

「よーし、このペースなら明日の朝には……」

優太が額の汗を拭った、その時だった。

「――そこまでだ、不届き者ども!!」

突如として、国境の群衆を強引に掻き分けて、漆黒のローブを纏った帝国兵の小隊が現れた。

騒いでいた商人たちが、その制服の胸に刻まれた『天秤と剣』の紋章を見て、サッと血の気を引かせて道を空ける。

「な、内政省の特別査察部だ……っ!」

「なんであんなエリート中のエリートが、こんな辺境の屋台に!?」

兵士たちを従え、最前列に進み出てきたのは二人の男だった。

一人は、神経質そうに白手袋をはめ、ルーペを首から下げた痩せ型の男、グリム。

もう一人は、分厚いバインダーと計算尺を手にし、狡猾な笑みを浮かべる小太りの男、ゼニヤである。

「我々はルナミス帝国・内政省直属の特別査察官である! ユリウス閣下の命により、この違法営業施設への『立ち入り検査』を執行する!」

痩せ型のグリムが、ビシッと優太たちを指差して宣言した。

「立ち入り検査だと?」

優太がフライヤーの火を弱め、目を細める。

「いかにも! 私は保健衛生を管轄する査察官グリム。帝国の法律では、食品を扱う施設は極めて厳格な【帝国衛生基準法】を満たさねばならない。……フンッ、こんな野外の薄汚い屋台だ。埃一つ、虫一匹でも見つかれば、即刻営業停止処分(屋台の強制破壊)とする!」

「そして、私は税務調査官のゼニヤだ」

小太りの男がいやらしい笑みを浮かべ、バインダーを叩いた。

「取引禁止令の網をくぐり抜け、不当な高額ぼったくりで商品を売り捌いているようだが……当然、そのすべての売上に対する『納税の申告』は済んでいるのだろうな? もし帳簿に1ゴールドでも不審な点(脱税)があれば、悪質な資金洗浄とみなし、お前たちの全財産を帝国が差し押さえる!」

周囲の商人たちが絶望の声を漏らした。

衛生管理と脱税の疑い。武力ではなく「法律の専門家」を直接送り込み、一切の反論を許さない形で屋台ごとポポロ村の財源を没収する――ユリウスの放った、必殺のカウンターであった。

「……なるほど。剣や魔法じゃ勝てないから、今度は因縁つけて書類で殺しに来たってわけか」

優太が菜箸を置き、前に出た。

「因縁だと? 舐めるなよ辺境のネズミども。我々エリート官僚の目は誤魔化せんぞ! さあ、今すぐ厨房と帳簿を見せてもらおうか!」

グリムとゼニヤが、勝利を確信したような嫌味な高笑いを上げる。

彼らは確信していた。こんな田舎の野外屋台で、帝国の厳格な衛生基準を満たすことなど不可能であり、素人のアイドルが完璧な帳簿などつけられるはずがない、と。

だが。

優太は白衣エプロンの襟を正し、隣に立つリーザと顔を見合わせて、不敵な――いや、獲物を前にした肉食獣のような笑みを浮かべた。

「衛生管理だと……? はっ、上等だ。俺を誰だと思ってる。毎日毎日、目に見えない細菌バクテリアとの戦いを叩き込まれてる『医学生』だぞ?」

「脱税ェ……? アタシの帳簿を舐めてんじゃないわよ。パンの耳の値段から、道端で拾った一円ゴールドの落とし物まで、狂いなく記帳して生存してきた『貧乏神』の底力、見せてあげるわッ!」

帝国最高のエリート官僚たちに対するは、現代医療の衛生観念を持つ医学生と、極貧サバイバルで1円の重みを知り尽くしたアイドル。

剣も魔法も使わない、人類の叡智と執念を懸けた『書類上のデスマッチ』が、今ここに開戦した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ