EP 7
密輸商人続出! 欲望(資本主義)の勝利
「お、おい! 貴様ら、どこへ行く気だ! 持ち場を離れるなッ!」
ルナミス帝国とポポロ村の国境検問所。
守備隊の隊長が声を荒らげるが、その声は虚しく空気を震わせるだけだった。
「隊長ぉ……無理ッス。俺、昨日からカチカチの黒パンしか食ってないんスよ……」
「あの悪魔みたいな香ばしい匂い……ッ! 脳みそが『アレを食わなきゃ死ぬ』って警鐘を鳴らしてやがるんですッ!」
兵士たちの目は完全に血走り、よだれを垂らしながら国境の柵に群がっていた。
さらに、足止めを食らっていた商人たちの群れからは、ついに理性のタガが外れる者が現れた。
「ええい、知るかァァァッ!! 内政官の命令だろうが関税10倍だろうが知ったことか! ワシは今すぐ、あの肉を食うぞォォッ!」
丸々と太った大商人が、黄金の入った革袋を振り回しながら、国境のバリケードを力ずくで突破したのだ。
それを皮切りに、数日間の足止めと空腹でストレスが限界に達していた商人たちが、雪崩を打ってポポロ村の屋台へと殺到した。
「ああっ! 貴様ら、帝国法違反だぞ! 止まらな……」
制止しようとした隊長の腹が、ギュルルルルゥゥッ!! と過去最大級の悲鳴を上げた。
「……ええい! こうなったら毒味だ! 隊長である俺が率先してあの肉を調査するッ! お前らも続けェ!」
「「「うおおおおぉぉぉぉッ!!」」」
かくして、経済封鎖のための検問所は、唐揚げを求める暴徒(お客様)の群れへと変貌した。
***
「いらっしゃァァァいッ!! 地球最強のB級グルメ、究極の唐揚げはいかがァッ!?」
屋台の最前列で、ミカン箱に乗ったリーザが、悪魔のような満面の笑みで客を迎え入れていた。
「くれ! その肉を早くワシにくれ!」
「はい喜んでェ! 究極の唐揚げ、一つ500ゴールドになりまァす♡ ポテトとのセットなら800ゴールドよォッ!」
「ご、500ゴールドだと!? 帝都の高級レストランのフルコースが食える値段だぞ! 足元を見おって……!」
「あら? 帝国の法律で取引禁止なんでしょ? これは『密輸』の危険手当込みの特別価格よ! 嫌ならその固いパンでも齧ってなさいなァ!」
リーザが鼻で笑いながら、揚げたてで湯気を立てる唐揚げをトングで見せつける。
ジュワァ……と滴る肉汁と、強烈なニンニク醤油の香りが商人の顔を直撃した。
「ひぃぃッ! 払う! 払うから早く寄こせェ!」
商人は震える手で金貨を叩きつけ、ひったくるように唐揚げを受け取ると、熱さも忘れてそれに噛み付いた。
サクッ……! ジュワァァァァァッ!!
「な、なんだこれはァァァァァァッ!!?」
商人は目を見開き、雷に打たれたように硬直した。
「衣の小気味よい食感の直後、爆発的に広がる肉汁! 噛めば噛むほど湧き出す未知のスパイスと強烈な旨味(味の素)! 帝国の洗練された薄味の宮廷料理など、この暴力的な味の前ではただの白湯に等しいッ!」
「ヤバいッス隊長! この細長い芋、表面の塩と謎の青い粉(青のり)が中毒性高すぎて、手が止まらないッスゥゥ!」
「バカ野郎、俺の分の唐揚げまで食うな! 追加だ! 小娘、追加で10個くれ!」
帝国兵士たちも武器を放り出し、顔を脂まみれにしながら夢中で唐揚げとポテトを貪っている。
「やっほー! 特定班のみんな見てるぅ? 帝国の兵隊さんたち、完全にキュララたちの屋台(胃袋)の虜になっちゃってるよぉっ★」
キュララがドローンでその滑稽な様子を生配信し、チャット欄は『飯テロすぎる』『帝国チョロすぎワロタ』と大爆笑の渦に包まれていた。
そして、資本主義の申し子たる商人たちは、唐揚げを食べている最中に「あること」に気がついた。
「……おい。この肉、魔法の保冷バッグに詰めて帝都に持ち帰って温め直せば……貴族どもに1個5000ゴールドで売れるんじゃないか……?」
「天才か! 帝都の連中にも、この悪魔の味を覚えさせてやるんだ!」
商人たちの目の色が変わった。
「姉ちゃん! この唐揚げを100個……いや、500個売ってくれ! 金ならいくらでも出す!」
「ワシはポテトを樽ごと買い取るぞ!」
「まいどありィィィッ!! 優太ァ、生産ラインもっと上げてェッ! お金が、金貨が滝のように流れ込んでくるわァァァッ!!」
リーザがレジ(木箱)に溢れかえる金貨を見て、狂喜乱舞の雄叫びを上げる。
「たく、どいつもこいつも欲望に忠実だな……。キャルル、ルナ! 次のバッチの準備だ! オペの速度を上げるぞ!」
「任せなさい! まだまだ脚は止まらないわよ!」
「油の温度、バッチリキープしてるわ♡」
優太は汗を拭いながら、次々とフライヤーに肉を投下していく。
ユリウスが敷いた絶対の「経済封鎖網」は、商人の『儲けたい』という資本主義の欲望と、『美味いものを食いたい』という兵士たちの本能の前に、ただの「深夜のドライブスルー(大繁盛の闇市)」へと成り下がった。
「これが自由市場だ、ユリウス」
優太は、国境を越えて大行列を作る帝国の民を見つめながら、不敵な笑みを浮かべるのであった。




