EP 5
対抗策は『食』! 地球の屋台飯プロジェクト
「特定班のみんな、ありがとぉーっ! 帝国の地下室でカツ丼食べてた工作員さん、見てるー?★」
キュララの生配信により、帝国のネット工作は完全に露呈した。だが、ルナキンの厨房に立つ優太の表情は依然として晴れない。
「……情報戦で勝っても、腹は膨れないからな」
棚を開けても、あるのはルナが生成した大量の生野菜と、保存食の干し肉だけ。
「塩が……あと一つまみしかない。これじゃ、せっかくの肉も味気ないゴムの塊だ」
「ゆ、優太ぁ……アタシ、もうダメ。空腹で鱗が乾燥して剥がれそう……」
カウンターでリーザが、干からびたヒトデのようなポーズで力尽きている。
「帝国側の街道には検問所が作られて、商人は一人も通してくれないわ。ワイズやレオンハート側からの商人も、『帝国を敵に回したくない』って尻込みしちゃって……」
村長のキャルルが耳を力なく垂らして報告する。
法律と関税による、完璧な「兵糧攻め」。
だが、優太はサングラスを指でクイッと上げ、不敵に笑った。
「キャルル。人間が法律や権力を恐れるのは、それが『理性的』だからだ。……だが、理性で抑えられないものが一つだけある」
「え……? なに、それ」
「――『欲望』だよ」
優太は、これまでポポロ村で善行を積み重ねてきた結果、カンスト寸前まで貯まっていた【地球ショッピング】の操作パネルを呼び出した。
「(人助け、村の清掃、魔人討伐のボーナス……。これだけあれば、地球の『重工業品』すら取り寄せられる!)」
優太はカテゴリーから「調理設備」を選択。検索欄に、この窮地を脱するための『兵器』を入力した。
『――ピロリン。善行ポイントを大量消費します。転送を開始します』
ルナキンの裏庭に、眩い光と共に巨大な木箱が次々と現れた。
優太がバールで木箱をこじ開けると、中から現れたのは、ファンタジー世界にはおよそ似つかわしくない、ステンレス製の鈍い光を放つマシンだった。
「な、なによこれ……ゴーレムの臓物?」
ルナが不思議そうに覗き込む。
「地球の『業務用・高効率電気フライヤー』だ。それと、ポータブルの魔石発電機、秘伝の醤油、ニンニク、ショウガ、そして……禁断の白い粉(味の素)だ!」
「禁断の粉!? 優太、お前ついにヤバい薬に手を出したのか!?」
「失礼なこと言うな。人類の知恵が生んだ最強の旨味調味料だよ!」
優太が計画しているのは、帝国の法律を無視してでも商人が村へ「密輸」に来たくなるほどの、圧倒的な中毒性を誇る屋台飯の展開だった。
「いいか、みんな。今から作るのは、地球のB級グルメの王道――『究極の若鳥の唐揚げ』と『フライドポテト』だ。……これを、村の境界線のすぐそばで揚げる」
「え? そこで売るの?」
キャルルが首を傾げる。
「いや、売るんじゃない。――『匂い』をテロレベルで撒き散らすんだ。醤油とニンニクが焼ける、あの悪魔的な香りをな」
優太はニヤリと笑い、SEALs直伝の『心理戦』と『兵站破壊』の知識をフル回転させる。
「帝国の検問所にいる兵士も、近くに足止めされている商人も、今は帝国のせいでロクな飯を食えていないはずだ。そこに、この『地球の中毒性』をぶち込む。……理性が食欲に負けた時、経済封鎖は内側から崩壊する!」
「お、面白そうじゃない! キュララ、その調理風景を最高に美味しそうな音(ASMR)で配信しちゃうよぉっ★」
「アタシ、揚げる前の鶏肉にバフかけて、さらにジューシーにしてやるわァッ!!」
リーザが、食欲という名の執念で立ち上がった。
「よし。オペ(調理)を開始する。ターゲットは帝国の胃袋だ!」
優太がフライヤーにスイッチを入れ、大量の油がパチパチと音を立て始める。
異世界の歴史において、最も「あざとい」経済戦争が、唐揚げの香りと共に幕を開けようとしていた。




