EP 4
特定班の逆襲! 暴かれる帝国の『IPアドレス』
「うぅ……っ、ぐすっ……みんな、キュララのこと、嫌いに……っ」
ルナキンの床に座り込み、涙が止まらない天使キュララ。
しかし、優太は冷徹な眼光で魔導端末の画面をスクロールし、スパパパパッ!と高速でキーを叩いていた。
「キュララ、よく見ろ。このアンチコメントの投稿時間を」
「え……?」
キュララが涙声で顔を上げる。
「1秒間に300件以上の書き込み。しかも、使われている単語や文脈のパターンがたったの5種類しかない。……こんな真似、普通の人間にできるわけがない。これは『自動プログラム(bot)』だ」
優太は端末をキュララに突きつけた。
「お前を嫌いになった人間なんて、最初から一人もいない。これは、帝国の内政官が用意した『機械の群れ』だ。……お前は、あんな感情のない文字の羅列に、自分の大事なステージ(配信)を譲って泣き寝入りするのか?」
その言葉に、キュララはハッとして目を見開いた。
「(機械の……群れ……? みんなが怒ってるわけじゃ、ない……?)」
「相手は情報統制のプロかもしれないが、こっちには現代(地球)のネット社会で鍛え上げられた最強の猟犬……『特定班』がついている。……やり返してやれ、キュララ。お前の最高の笑顔でな」
優太が手を差し伸べる。
キュララはその手を取り、グッと立ち上がった。瞳から涙が消え、インフルエンサーとしての強靭なプロ意識と、天使らしからぬ『ド黒い闘志』が宿る。
「……うんっ! キュララ、負けない! 機械なんかに、みんなとの居場所を壊させないッ!!」
キュララは両頬をパンッと叩いて気合いを入れると、魔法のドローンカメラを再び起動させた。
「配信、再開するよぉっ★ みんなー、お待たせぇッ!!」
ピロリンッ!
配信が再開された瞬間、待ってましたとばかりに帝国の工作botが大量のアンチコメントを投下し始める。
『悪魔の村!』『詐欺師!』『今すぐ引退しろ!』
しかし、キュララは全く怯むことなく、カメラに向かってとびきりのアイドルスマイル(※目は笑っていない)を向けた。
「あのね、本当のリスナーのみんなに、キュララから一生のお願いがあるのっ♡」
キュララは、画面の向こう側にいる『狂信者たち』に向かって、甘く、そして残酷な指令を出した。
「今、キュララの枠を荒らしてるこのコメントたち……全部『同じ魔力経路(IPアドレス)』から来てるみたいなの。……ねえ、みんな。この書き込みの【発信源】、キュララのために探してくれないかなぁ?♡」
その瞬間だった。
botの単調なアンチコメントの波を力ずくで押し退けるように、赤や金色の極太の文字が、凄まじい勢いで画面に割り込んできた。
『任せろォォォォォッ!!』
『我らが天使を泣かせた罪、万死に値する!!』
『特定班、出撃!! 魔力経路の逆探知開始!!』
『経路偽装を噛ませてやがるな……甘い! 全部ぶち抜いてやる!!』
「な、なんだこのチャット欄!? コメントで『魔法陣のソースコード』が飛び交ってるぞ!?」
キャルルが驚愕して画面を覗き込む。
彼ら『特定班』は、普段から「アイドルの瞳に反射した景色から住所を割り出す」ほどの異常な執念と技術を持つ集団である。推しを泣かせた国家権力など、彼らにとっては最高の『狩りの標的』でしかなかった。
「(……すげえ。魔法通信のパケットを、地球のハッキング技術で逆アセンブルしてやがる……ッ!)」
優太も、画面に流れる高度な情報戦の応酬に冷や汗を流した。
そして、配信再開からわずか『3分後』。
『――ビンゴ!! 発信源、特定完了!!』
チャット欄に、一つの決定的なデータが投下された。
「やっほー! 特定班のみんな、仕事早すぎぃっ★ ――えーっと、なになに?」
キュララが送られてきたデータを、配信画面にデカデカとホログラム投影(画面共有)した。
「『発信源:ルナミス帝都、中央区画。内政省・第3地下魔法通信局』……わぁ! 何百万件っていうこのアンチコメント、全部『帝国の地下室のたった一つの端末』から送られてきてるんだってぇ!!」
「――――ッ!!」
配信を見ていたルナミス国民、そして世界中の視聴者が息を呑んだ。
「さらにさらに! 操作してるのは『内政官ユリウス直属・第8工作部隊』の皆さんでぇす! ご丁寧に、出勤簿と今日のランチの出前履歴(カツ丼3つ)まで特定されちゃってるよぉっ☆」
キュララが悪魔のような満面の笑みで、帝国の極秘工作部隊の個人情報を、全世界に向けて完全公開(大暴露)した。
『うわぁ……帝国、ちっさ! 巨大国家がbotで村をイジメてんのかよww』
『自作自演で炎上させてたのか! ダッサ!!』
『ユリウス内政官って陰湿すぎだろww カツ丼食いながらアンチコメ連打www』
世論の風向きが、文字通り『一瞬』でひっくり返った。
捏造されたフェイクニュースは完璧に看破され、ルナミス帝国は「巨大な権力を使って小村の美少女配信者にネットいじめを仕掛けた、最高にダサい国家」という烙印を押されたのである。
「えへへっ♡ 帝国さん、工作お疲れ様でぇす! キュララはこんなことじゃ負けないからねっ★」
ピースサインを決める天使の笑顔の裏で、優太は静かに腕を組んで頷いた。
(……情報戦ってのはな、ユリウス。一歩間違えれば、自分自身の首を絞める最強の諸刃の剣なんだよ)
帝国の見えない刃(ネット工作)を、現代のハッカー集団(狂信者)の力でへし折ったポポロ村。
だが、情報戦には勝利したものの、村の『物流』が止まったままであるという物理的なピンチは何も変わっていない。
「さあ、次は俺の番だ。――兵糧攻めには、『食欲』で逆襲してやる」
優太は【地球ショッピング】の電子ボードを開き、次なる対抗策(反撃のB級グルメ)の準備に取り掛かるのであった。




