EP 3
大炎上!? キュララへの情報統制(ネット工作)
ポポロ村の物流が完全にストップし、リーザが「試食のウインナー」を求めて床を転げ回った翌日。
異世界ファミレス『ルナキン』の店内は、かつてないほどのお通夜ムードに包まれていた。
「……小麦粉の在庫、残り2キロ。塩はあと3日分。肉は村の畜産があるから何とかなるが……調味料が尽きるのは致命的だ」
厨房で在庫表を睨みつける優太の顔は険しい。
帝国の内政官が敷いた『合法的な経済封鎖』は、確実に村の息の根を止めに来ていた。
「うぅ……っ。塩気のないゆで卵なんて、ただのパサパサした球体よォ……っ」
カウンター席でリーザが力なく突っ伏している。
そんな重苦しい空気を打ち破るように、天使のT-チューバー・キュララが、空元気いっぱいに立ち上がった。
「もーっ! みんな暗いよぉ! こんな時こそ、キュララの配信の出番でしょッ★」
キュララは魔法のドローンカメラを空中に展開し、魔導端末を素早く操作する。
「物流が止まっても大丈夫! キュララには世界中に数百万人の『特定班(狂信的リスナー)』がいるんだから! 配信で『ポポロ村に物資を送ってぇ♡』ってお願いすれば、ドローン配達で山のように差し入れが届くはずだよっ☆」
「なるほど……!」
キャルルがパッと顔を輝かせる。
「帝国の商人ギルドを通さずに、リスナーからの個人間譲渡という形で物資を補給する気か。……現代のクラウドファンディングだな。いけるかもしれないぞ、キュララ!」
優太も希望を見出し、小さくガッツポーズをした。
「えへへっ、任せて! ――それじゃあ、緊急生配信、スタートだよぉっ★」
キュララがとびきりのアイドルスマイルを作り、配信のスイッチを入れた、その瞬間だった。
ドドドドドドドドドドッッ!!!
魔導端末のチャット欄が、かつてない異常な速度で滝のように流れ始めた。
しかし、いつもなら飛び交うはずの赤スパチャ(投げ銭)や「可愛い!」という歓声は、一切なかった。
『ポポロ村は悪魔の巣窟!』
『近隣の商人を脅迫して物資を強奪しているテロリスト!』
『天使の皮を被った詐欺師! 騙されるな!』
『【拡散希望】ルナミス帝国の純金を偽造・密輸している証拠画像』
『あの村の村長は狂犬! 配信者を追放しろ!』
「え……? な、なに、これ……?」
キュララの笑顔が、一瞬で凍りついた。
画面を埋め尽くすのは、目を覆いたくなるような誹謗中傷、罵詈雑言、そして巧妙に捏造された『フェイクニュース』の嵐だった。
「ちょ、ちょっと待って……! キュララ、商人の人たちを脅迫なんてしてないよぉ!? 偽造なんて……っ!」
『嘘つけ詐欺師!』
『チャンネル登録解除しました』
『帝国軍は早くあの村を討伐しろ!』
『通報しました(ワラ』
ピロリン、ピロリン、という無機質な警告音と共に、キュララのチャンネル登録者数が、見たこともない速度でゴリゴリと減っていく。
さらに、動画プラットフォームのAIが『極めて悪質なアカウント』と自動判定を下し、画面には【収益化停止】と【シャドウバン(おすすめ非表示)】の赤い警告アラートが残酷に点滅した。
「あ……あぁっ……」
キュララの手から魔導端末が滑り落ち、カランッ……と虚しい音を立てて床に転がった。
「ちがう、違うもん……っ。キュララはただ、みんなと楽しくお話したかっただけなのに……っ。みんなを笑顔にしたかっただけなのに……っ!!」
ポロポロと大粒の涙をこぼし、天使は顔を覆ってその場に崩れ落ちた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁんッ!! 怖いいぃぃ……っ! みんなが、キュララを怒ってるよォォ……っ!!」
「キュララ!」
「ひどい……! なにこれ、いくらなんでも異常すぎるわ!」
キャルルとルナが慌てて駆け寄り、泣きじゃくるキュララを抱きしめる。
優太は床に落ちた端末を拾い上げ、凄まじい勢いで流れるアンチコメントの群れを、氷のように冷たい眼光で睨みつけた。
(……ただの炎上じゃない。コメントの投稿速度、定型文の多さ、そして同時にばら撒かれている精巧な捏造画像。これは『怒れる大衆』なんかじゃない。……プログラムされた【bot(自動投稿)群】だ)
元SEALs教官の元で戦術を学んだ優太の脳裏に、現代の非対称戦――『国家規模の情報統制』の図式が浮かび上がった。
物流を止め、村を物理的に孤立させただけでは飽き足らず。
唯一の外部との生命線(SOS)であったキュララの配信すらも、組織的なネット工作で大炎上させ、社会的に完全に抹殺しにきたのだ。
「……帝国の内政官。ユリウスとやら」
優太はギリッと奥歯を噛み鳴らした。
武力を使わない、血の流れない戦争。だが、純粋にリスナーを愛していたキュララの心を無惨に踏みにじる、この見えない悪意の刃は、物理的な剣よりも遥かに残酷で卑劣だった。
「……優太、どうするの? このままじゃ、村は本当に干上がっちゃうわ……」
普段は強気なキャルルも、得体の知れない『世論の暴力』の前に震え声を漏らす。
「……安心しろ」
優太は、泣き咽ぶキュララの頭を優しく撫でると、白衣の代わりに着ているパーカーの袖を乱暴に捲り上げた。
「相手は剣も魔法も使わず、現代の『システム』で俺たちを殺しに来た。……なら、上等だ。こっちも異世界のルール(魔法)なんぞ使ってやらない」
優太の瞳に、静かな、しかしマグマのような怒りの炎が宿る。
「教えてやる。現代のネット社会(こっちの土俵)において、ガチギレした『特定班』を敵に回すことが……どれだけ恐ろしいことかをな」
経済と情報の完全封鎖。
絶望の淵に立たされたポポロ村だったが、理不尽に泣かされた家族を守るため、医学生の指揮による『前代未聞のデジタル・カウンター』の幕が上がろうとしていた。




