EP 10
ゲームクリアと、もやし炒めの現実
「アツゥゥゥゥッ!! 燃える! 予の城が、予の資産が物理的に燃え尽きていくぅぅぅッ!!」
駄女神ルチアナがぶちまけた酒によって、業火に包まれた魔王城の玉座の間。
自らコピーしてしまった【貧乏神】の呪いによって所持金がマイナス(借金)となり、インフラも止まっていた魔王(NPC)は、もはや消火用の水すら出せず、炎の中でただ泣き叫ぶことしかできなかった。
そこへ。
「邪魔よォォォォォォッ!! アタシと優太の『もやし炒め』の時間を、これ以上邪魔するんじゃないわよォォォォッ!!」
全身から禍々しいオーラ(極貧の執念)を立ち昇らせた商人・リーザが、燃え盛る炎を突き破り、魔王の懐へと弾丸のように飛び込んだ。
「ひ、ひぃぃッ!? く、来るな! 予はもう一文無しだ! 命だけは……ッ!!」
「問答無用ッ!! 【サバイバル・ナックル(物理)】ッッ!!」
ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!!
一切の魔法も武器も使わない、純粋な『食欲』と『貧乏性』が乗ったリーザの右ストレートが、魔王の顔面にクリーンヒットした。
「あべしィィィィィィッ!!(※世紀末パロディの名残)」
自らの国を経済崩壊させられ、地下資源を奪われ、城を燃やされ、最後はただの素手で殴り飛ばされた魔王。
彼は、最後まで「なぜ勇者が剣と魔法で正々堂々と戦ってくれなかったのか」という疑問を抱えたまま、ポリゴンの破片となって虚空へと消滅していった。
その瞬間。
『――ピロリン♪ ラスボス【魔王】の討伐を確認しました。』
炎上する城の天井(システムの空)に、ファンファーレと共に巨大な金色のテロップが浮かび上がった。
『――CONGRATULATIONS! 勇者一行の活躍により、魔王国は物理的にも経済的にも消滅しました! 世界に平和(という名の更地)が戻った!!』
「やったー! クリアよぉ! これで現実に帰れるわァ!」
リーザがガッツポーズを取る。
「あー、やっと終わった。お酒も切れたし、ちょうど良かったわね」
「キュララの空売り口座の利益、現実のゴールドに換金できないかなぁ……ちぇっ」
「……アー、結局最後まで腰が痛かったわ……」
「ふふっ、なかなか面白い箱庭だったわね♡」
外道勇者たちが口々に感想を述べる中、後方でずっと胃を押さえていた優太は。
「(……もう、何も言わん。とにかく、早く俺を現実から出してくれ……ッ!)」
白目を剥きながら、システムによる強制ログアウトの光に包み込まれていった。
***
『――システム、シャットダウン。お疲れ様でした。』
ポポロ村、異世界ファミレス『ルナキン』の地下倉庫。
ルナの無機質なアナウンスと共に、六つの『魔導カプセル(コフィン)』のハッチが一斉に開いた。
「ぷはぁーっ! いやー、面白かったわね『あーるぴーじー』!」
芋ジャージ姿のルチアナが、大きく背伸びをしながらカプセルから飛び出す。
「お、おい……お前ら……」
最後にカプセルから這い出してきた優太は、フラフラと立ち上がり、かつてないほどの鋭い眼光でヒロインたちを睨みつけた。
「俺は、二度とお前らとゲームはやらんッ!! なんだあの極悪非道なプレイは! NPCの人生を破滅させ、金融テロを起こし、資源を枯渇させ、最後は放火だと!? お前ら全員、ファンタジー世界への出禁(アクセス禁止)だ!!」
元特殊部隊(SEALs)教官の、魂の底からの説教が地下倉庫に響き渡る。
「え~、優太怒んないでよぉ。結果的に世界は平和(更地)になったんだから、いいじゃな~い♡」
「そうよ! それより優太! 約束! 約束よォッ!!」
リーザが、カプセルから出るなり、ものすごい勢いで優太の胸ぐらを掴んでガクガクと揺さぶった。
「も・や・し! もやし炒め定食! ご飯特盛りで、豚バラ多め! 今すぐ作ってェェェッ!」
バーチャル世界で大富豪になった記憶などすでに彼女の頭にはなく、あるのは現実の『タダ飯』への強烈な執着だけであった。
「……わかった、わかったから揺らすな。……胃液が逆流する」
優太は深くため息をつき、諦めたように白衣を脱いで、ルナキンの厨房のエプロンを身につけた。
***
数十分後。ルナキンの客席。
「はふっ、ふぁふぁ……んん~~~っ!! 美味しいィィィィッ!!」
リーザが、大皿に山盛りになった『豚バラもやし炒め』と、丼ぶり一杯の白米を、凄まじい勢いで口に掻き込んでいた。
ごま油とニンニク、そして醤油の香ばしい匂いが店内に立ち込めている。
「シャキシャキのもやしに、豚肉の旨味が絡んで……最高! やっぱり、バーチャルの金貨より、現実の優太の手料理ね!!」
幸せそうに頬を膨らませ、中華スープを飲み干すリーザ。
「……たく。あんなに世界をメチャクチャにしておいて、もやし一袋(数十ゴールド)で満足するんだから、お前って奴は本当に……」
優太がカウンター越しに呆れ顔でコーヒーを飲みながら、それでも少しだけ口角を上げた。
「あら、美味しそうね。私も一口もらおうかしら」
「あーっ、キャルルだめよ! これは私と優太の愛の結晶(報酬)なんだから!」
「ねえねえ優太~、キュララにもハンバーグ作ってぇ♡ さっきの『魔王城大炎上配信』のスパチャで奢るからさぁ★」
「私はお酒! 強いお酒と、塩辛いおつまみちょうだい!」
「優太、私の紅茶が冷めてしまったわ。淹れ直してちょうだいな」
結局、いつものように騒がしいヒロイン(と駄女神)たちに囲まれ、優太は「俺は医学生だぞ……」とボヤきながらも、フライパンを振るい続けるのであった。
剣と魔法と、現代知識のチート(金融テロ)が入り乱れたVRゲームの世界から、騒がしくも温かい日常への帰還。
不器用な医学生と異世界の美少女たちのカオスな日々は、まだまだ終わらない。




